自死した弟のこと【19】自死後⑦(お別れ)

 いよいよ2日後は火葬だ。お棺に何を入れるか母と妹と話し合い、弟自身が気に入っていたタケオキクチのスーツを入れようということになった。そのままでは入れられないので、葬儀会社から言われた通り、せっせとボタンを外していた。ふと、(あ、まだご遺体と対面していなかった…)と思ったが、2日後には会えるし、ご遺体のある警察署まで行って警察官の手を煩わせるのもな、と考え、対面は火葬の日まで取っておくことにした。
 火葬には母、私、妹に加えて叔父、叔母、いとこ2人が参列してくれる予定だ。もう1人のいとこは、遠方に住んでいること、新型コロナウィルス感染症患者と日々接する医療職であること、そして、子どもたちに弟が亡くなったことを話せないという理由から参列を見送ってもらった。というより、叔母が参列しないよう説得したらしい。でも、お正月にお線香をあげに来てくれた。

 火葬の日。空気が澄み渡り、いい天気だった。
 火葬場に案内されるまで、皆で温かいお茶を飲んだ。私と妹は叔父たちと会うのは実に2年ぶりなのに、何も話さず、飲み終えたお茶のペットボトルをずっと見つめていた。

 ようやく火葬場に案内され、弟と対面することができた。安心したような顔をしている。
 皆で一つずつお棺に花を入れ、お棺の蓋を閉める。もうお別れだ。
「〇〇(私)ちゃん、〇〇(妹)ちゃん!」
「ポケモンやろう」
「ユンゲラーをフーディンに進化させたいから、交換しよ」
「ハンターハンター読んだ?メルエムとコムギがさぁ…」
「ワンピースのアラバスタ編、いいよねぇ」
弟の言葉がたくさん浮かんできて、涙が止められなかった。ポケモンは新しいシリーズが出たよ。まだハンターハンターもワンピースだって最終回を見届けていないよ。それなのに旅立ってしまうの?
 火葬炉の扉が閉められ、妹はひたすら私の背中をさすってくれた。泣く私と泣かない妹―どちらも弟の姉だ。

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