自死した弟のこと【小休止:コミケ】

 弟の死後、彼のSNSを見つけたので覗いてみた。
 遡って読んでいると、おそらく買い手としてコミケに行っていたようだ。

 弟は子どもの頃から絵が上手だった。小学生の頃、運動会プログラムの表紙を描いたこともあったし、大学生の頃はとある団体のマスコットキャラクターを考案して応募していた。このキャラクターを応募前に見せてもらったが、とても上手だった。入賞は果たせなかったものの、周りの友だちから絶賛されたことを嬉しそうに語っていた。いつだったか
「漫画家になりたい」
と言っていたこともあった。

 弟よ、コミケに行っていたんだね。絵や漫画がずっと好きだったんだね。お姉ちゃんさ、家族には言ったことがないけど、実は何回か友だちに頼まれて同人イベントの売り子をしたことがあるんだよ。
 言えばよかったね。
 そしたら、同人誌の話ができたかもしれないね。
 もしかしたら姉弟で同人誌を作って売るなんてことが実現したかもしれないね。

 ここnoteで「自死した弟のこと」を書くまで、ずっと私は素直だった弟が変わってしまったのだと思っていた。旅立つ決断をする前に自分の本心を語って欲しかったとずっと考えていた。
 でも、変わったのは弟だけではない。
 私も、母も、妹も、みんな変わったのだ。
 変わってゆく中で語れないことが増えたのだ。

 子どもの頃と変わらず漫画やゲームの話をすればよかった。同人誌の話もしてみればよかった。もしかしたらそれが弟の生きる希望になっていたかもしれない。でも、ならなかったかもしれない。それは誰にも分からない。

 いつかコミケに行ってみようかな。
 そしたら、たくさんの戦利品を抱えて弟の墓前に報告したい。

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