自死した弟のこと【18】自死後⑥(母が語ったこと)

 弟の高校時代のこと以外にも母は色々と語り始めた。退院してから初めて迎えた冬に鍋物が好きな母と弟2人でキムチ鍋をしたこと、ふるさと納税の返礼品として貰った帆立を使って再び海鮮鍋をしたことと雑炊で〆たこと、弟が急に婚活を始めたこと、転職活動が上手くいかなかった頃に母へ突然
「土下座しろ」
と強要し、土下座をさせたこと。
 土下座をしている最中に
「もうこいつとの親子関係は終わりだ」
と思った母がそれ以来弟を空気のように扱っていたこと。
 また、はっきりとした時期は分からないが、弟が入院した精神科ではなく、違う心療内科に通っていたことも母は教えてくれた。退院後しばらくは入院した精神科に通っていたらしいのだが…。おそらく勝手に変えたんだろうな。医療と適切に繋がれてなかったのかな。

 杉山春の『自死は、向き合える』(岩波書店,2017,p.42)にはこのように書かれている。「自死を止めようとする援助者は、自分が楽になることを止める敵に見える。でも助かりたい気持ちもあって、どこかで知ってほしい気持ちもある。そのひねくれた気持ちが支援者に対する挑戦的な態度として出てくるんです。」
 これを読み、まさに弟のことだと思った。母をものすごく攻撃するのに、母から心配されたい—。弟自身もどうすればいいのか分からない状態だったんだ。
 姉である私が書籍で双極性障害のことを学び、介入すべきだった。重度知的障害のある息子のことで軽やかに動けなかったとしても、福祉資源に頼って時間を確保すべきだった。心からそう思う。

 もう遅いけれど、弟の「死にたい」の奥のさらに奥にある孤独を分かち合う努力をすればよかった。直接的であれ間接的であれ、弟に「一緒に生きよう」と伝えればよかった。
 そんなことは起こりえないけれど、もし今、弟に会えたら今度こそ孤独にはさせない。今度こそ一緒に生きる。


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