自死した弟のこと【23】会社、友人Kくん

 弟の火葬が終わって数日後、弟の会社関係者が弔問に来てくださった。母が対応したのでどのような話をしたかは知らないが、後に母は
「会社を恨む気持ちはないよ」
と言っていた。
 弟は療養中、
「〇〇(弟の会社)に感謝していることなんて一つもない!」
と声を荒げたことがあったそうだ。弟の死後、彼のSNSをずっと遡って覗いていたら、入社2年目のある日、店長に退職したいと話したと書かれていた。しかし、その時に店長から後任が決まるまではと引き留められ、いつのまにか退職の話は立ち消えになってしまった。おそらく弟の心の中には
(あの時辞めていたら)
という思いがあったのだろう。

 今年のお正月、弟の大学時代の友人Kくんから年賀状が届いていた。それは弟が一人暮らしをしていたアパート宛てに送られており、転送で実家に届いていた。そこにはKくん、奥様、娘さんの幸せそうな家族写真が載っていた。Kくんの住所を見てみると、なんと実家から徒歩15~20分程度で行くことのできる距離だった。こんなに近いけれど、弟はKくんと会えていたのだろうか。

 Kくんに弟が亡くなったことを知らせる手紙を書こうとしたが、やめた。というより、妹からやめて欲しいとお願いされたのだ。理由と尋ねると、
「Kくんを加害者にさせないで。加害者は家族だけで十分だから」
と妹は震えた声で絞り出した。その言葉に対して私はただ
「分かった」
と返事をすることが精一杯だった。
 妹は自分たちのせいで弟が自死したのだ、自分たちが弟を死に至らしめたと思っている。私も弟の死に対する自責の念はある。でも、私たちは加害者で、弟は被害者なのだろうか。妹の使った「加害者」という重たい言葉が心の中の真っ黒い場所まで深く深く沈み込んでしまい、なかなか浮上できない。

 正直、これを書きながらも生前仲良くしていた友人には弟が亡くなったことを伝えた方がいいのでは、という気持ちがある。弟はKくんの結婚式のために友人として動画をつくったのだ。療養中に使っていたキャンパスノートにもKくんを尊敬していると書いてあるのだ。だから、せめてKくんにだけは弟の死を伝えたい。それに、Kくんは来年も年賀状をくれるだろう。でも、来年は宛先不明で戻ってしまうはずだ。Kくんには弟のことでモヤモヤしたまま年月を過ごして欲しくない。だからといって、妹を悲しませたいわけではない。「加害者」という言葉が足かせとなり、いつまでも身動きが取れず、私は今、とても苦しい。
 この件に関しては時間をおいてまた妹と話してみようかなとも思うし、妹に何も言わずKくんへ手紙を書こうかなとも思っている。どうしようかな…お正月以来ずっと決め兼ねている。そろそろ決断して楽になりたい。


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