自死した弟のこと【9】休職②

 2021年6月某日、3か月間の入院生活が終わり、弟は無事に退院した。私はその日のうちに退院を祝うメッセージとスタンプを送り、弟からは一言「ありがとう」と返事があった。母に電話し、弟の近況を確認したところ、傷病手当金をもらいながら通院し、安定的な生活を送っているようだった。趣味でキャンプやサウナ、ロッククライミングにパーソナルトレーニングを始め、家に籠りっぱなしということはないようで少し安心だ。
 その年のクリスマスには私の息子あてに大きなラジコンカーを送ってくれ、新型コロナウィルスのせいでなかなか会えないけれど息子を可愛がってくれていることが伝わってきて、とても嬉しかった。まさかその時はこれが最後のプレゼントになるなんて思うはずもなかった。

 2022年のゴールデンウィーク、私は息子と共に久しぶりに帰省することにした。ずっと家族の顔を見ていないし、今なら緊急事態宣言も出されていない。サービス業に就いている妹も偶然、休みが重なったようで、久々に集まろうじゃないか!ということになった。

 もう後悔しても遅いけれど、この時に帰省すべきではなかった。ここで帰省しなければ、弟との関係はこじれなかったような気がする。

 2泊3日の実家滞在中、重度知的障害のある息子がやけにハイテンションになってしまい、多動に拍車がかかってしまった。特に弟のことが気になるようで、弟の部屋に突然入ってはそこら中に置いてある物を触りまくる。制止すればする程エスカレートするという特性のある息子を強く叱ったり、外に連れ出そうとしたりしても全く効果がない。たまらずベランダに逃げた弟を追いかけ、置いてある山盛りの灰皿の中身をこぼしてしまった。それに対し、
「何で灰皿のゴミを捨てないの?」
「何でタバコなんか吸ってるの?」
私はこう言ってしまったのだ。小学生の頃、母が吸うタバコの煙を嫌い、母へ「副流煙とは…」と説いていた弟がタバコを吸っているなんて信じられなかったからだ。
 その場では言われなかったが、弟は自分のもの=タバコの吸い殻を息子がこぼしたことに対し、私が謝らなかったことが心底気に食わなかったらしい。あんな風に言わなければなと後悔している自分、吸い殻なんてゴミじゃないかと未だに思っている自分、この二者がいつまでも・いつまでもせめぎ合っている。

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