自死した弟のこと【15】自死後③

 バイクのローンを完済し、その証明書を渡すことで買い取り業者から引き取ってもらうことができた。買い取り額は15万円だった。
 残すは「車」である。弟は車内で練炭自殺を図ったのだが、練炭を置いた部分が焦げている。これを買い取ってもらえるのか…。どうなるか分からないけど、まずは清掃し、買い取り業者へ連絡しようということになった。

 妹はまだ布団から出てこられない。

 妹は、弟が就職してからや休職中に色々と話を聴いたり、時折お小遣いをあげたりしていたようで、弟のことを可愛がっていた。就職する前、
「お金がない」
とこぼす弟に対し、
「貯金しておかないからだよ」
と突き放す私とは違って、自分の通帳と印鑑を渡して
「必要な分おろしていいよ」
と言った妹だ。布団から出てこられないのは当然だろう。

 妹に片づけを手伝わせるのはやめようと母と話し、私と母は黙々と車の片づけを始めた。練炭は重くて、運ぶのが大変だった。トランクにもよく分からない物が置いてあり、まとめて清掃工場へ運搬した。荷物の運搬はまだマシで、辛かったのは窓ガラス拭きである。もうもうと煙が出たのか、ガラスの内側がベタベタする。なかなか汚れが落ちない。何度も何度も拭きながら、(煙に包まれて最期を迎えたのか…)と思うと、悔し涙が止まらなくなった。運転席のドリンクホルダーには半分まで飲んだ跡のあるロング缶のチューハイが置かれており、下には使い捨てのホットアイマスクが落ちている。お酒とアイマスクでリラックスしながら逝ったのか…。(苦しみのない最期であればいいなぁ)と願う気持ちと(こんな結末しかなかったのかよ)と悔しく思う気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合って、涙が止まらなかった。

 窓ガラスを拭き終えたら、近くのガソリンスタンドでマットやシートを綺麗にし、10リットルだけ給油して買い取りに備えた。
 結局、清掃を終えたその日のうちに業者の方が来てくださり、車が新しいことや傷がないこともあってか40万円の値段をつけて頂いた。事前に練炭自殺を図った車であることを伝えたからか、終始丁寧に対応してくださった。

 清掃中、車の中から弟が地下アイドルと撮ったチェキが2枚出てきた。満面の笑みのアイドルと少し照れた笑みの弟。—弟は寂しかったんだろうな。その寂しさを少しでも持ってあげられればよかったな。


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