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ブロック図から始めるアイデア創出(2)

アイデアの拡張(1) アイデアの模倣

 アイデアを何もないところから創造するのは簡単ではない。実は世の中の新しいものも、すでに存在するものの一部の形が変わっただけとか、適用する分野が変わっただけ、というものが多い。前回のフードデリバリーサービスも、基本は出前をシステム化したものであり、楽天のように出展者を体系化して商品を届けるというビジネスをリアルタイム性が高いフードに置き換えた、という風にも見える。
 ここでは、既存の枠組みをベースにして変形することによりアイデアを出すことをトライする。

模倣からの拡張手法:オズボーンのチェックリスト
 
オズボーンのチェックリストというアイデア創出によく出てくる手法がある。既存のモノやアイデアについて、その部分を以下の9つの方法で置き換えてみる、というものである。
 具体的には、転用/応用/変更/拡大/縮小/代用/再配置/逆転/結合の9つである。

図1 オズボーンのチェックリスト

 この要素の転用・拡大・縮小等の手法は考えのきっかけを作る上で大変有効である。例えば基本アイデアが自転車だったとして、変更してリハビリテーションの装置にするとか、縮小してカバンに入れて持ち運びできるようにするとか、発想のよりどころを作ることで、具体的に考えやすくなる。

 一方、このチェックリストは90年代前半に作られたこともあり、モノからの発想が基本にある。モノからの展開には適しているが、サービスをベースに考える場合には少し難しくなる。モノの場合、基本のアイデアは一塊であることが多いが、サービスの場合には複数のステップが時系列でつながって新しい便益をもたらしている。よって複数のステップからなるものを分解・検討するには工夫が必要となる。そこでブロック図の登場となる。

 では、再びフードデリバリーサービスを用いてアイデアの発想を試みてみよう。

図2 フードデリバリーサービス分解(再掲)

 前回フードデリバリーサービスは、探す、選ぶ、受け取るという3つの項目に分解できた。今回は例えば「探す」という項目を変換することでアイデアを出してみよう。つまりオズボーンのチェックリストを一塊のサービスに適用するのではなく、ブロック図に分解した要素に対して適用するということになる。

 「探す」という項目で最も簡単な変換は「探さない」である。では探さないフードデリバリーサービスとはどういうものかを考えてみる。ここではブロック図で分解を行っているため、より具体的な「探さないフードデリバリーサービス」というお題で考えることができる。なお、課題を文章にしてみるというのは意外な効果がある。言語にすることでより抽象度が上がり、言葉から想像力が広がるという効果をもたらす。

 このお題を考えるときに重要なことの一つ目は、元のフードデリバリーサービスに捕らわれないようにすることである。「フードデリバリーの登場人物の分解」の項では、分解を行うときにはできるだけ具体的なイメージを持って、配達事業者ならば自分が配達事業者になったつもりで考えることが重要だと記載した。物事を分析するときには具体的にすることが望ましい。一方アイデアを出すときには、具体的な状況を考えてしまうと発想の範囲が狭くなってしまう。具体的な落とし込みはその先のステップにすることにして、一旦は思いつく言葉を列挙することで質より量を稼ぐことのほうが重要となる。

 重要なことの2つ目は、自分の頭の中で否定的な考えを発動させないということである。これはぶっ飛びすぎていて無理だ、これを言うと場違いかもしれず恥ずかしい、こんなことは実現できそうにない、とか結局は全部自分の脳内でのブレーキがさせる技である。もともと新規事業は現在存在しないもので、存在しない理由は、何らかの理由で難しいからである。よって出てくる発想には必ず無理な点がある。無理な点があるものをたくさん列挙することがこのステップでの目的なので、脳内のブレーキを外して考えよう。難しく考えずに、思いついたものは、すべて書き留めるということにすればよい。

 最後の重要な点は、みんなでアイデアを出すときには、他人のアイデアに「いいね」をつけよう。「いいね」と口にするのもよし、こんな風にも発展できるね、というのでもいい。生まれたばかりのアイデアはとても弱いので、少しのマイナスワードで壊れてしまう。だからみんなで守り育てていくことが必要になる。ほめることはアイデア成長にとって最強の応援になる。

 さて、元の探さないフードデリバリーサービスのお題に戻る。探さないとなると、例えば探さなくても勝手に選ばれてやってくる、というものがある。勝手にというのがどう勝手になのかは後から考えればいいので、とりあえず「勝手にやってくる」と書いておく。

 さらに発想の展開としては、勝手に選ばれてやってくるサービスとしては、例えば毎月定額で日本全国の地酒が届く、というサービスはあるなあとか、それがあるなら、毎週金曜日の夜には、勝手に夜のご飯が届く、というサービスがあってもよさそうかなあ、とかいろいろ広がることも書き留める。

 さらに「探さない」を広げてみよう。思い切って毎回同じものが来るというのはどうだろう? 毎回同じ食事が来る、というのはないだろう、と即座に否定してはいけない。発想の基本は肯定から始まる。毎回同じものが来てうれしいのは何だろう? 例えば常用の薬(降圧剤とか糖尿病の薬とか)なら、一定期間ごとに同じものが届くのはありだろう。その他、プロテインならどうだろう? いろいろなメーカーのプロテインがやってくるサービスならありかもしれない。「フード」サービスではなくなっているが、アイデアを膨らませる段階では、細かいことにとらわれないほうがよい。質より量が求められる。
 「探さない」をさらに考えると、「誰かに頼んでもらう」、「どんどん来て何回でもチェンジできる」などなどが考えられる。もっといろいろ可能性はあるので考えてほしい。

 実作業では、考えるのとそこで出てきたアイデアをブロック図の部品としてメモするのを並行して行う。アイデア同士の関係は後ほど考えればいいので、まずは単語を列挙するだけでいい。このNoteでは最終的に整理されたブロック図を記載しているが、発想段階ではメモするツールを準備してどんどんメモするのがよい。

 ということで「探さない」というキーワードで出てきたアイデアをブロック図に示す。

図3 探さないフードデリバリーを考える

 探さないフードデリバリーの発想のブロック図を記載した。①勝手にやってくる、②毎回同じものが来る、などは、フードデリバリーとは関係なく、「探さない」から発想されたものである。無茶と思える言葉が並ぶほうが新規性のあるアイデアに行きつきやすくなる。今回探さないがより具体化されたので、さらにアイデアを出すことができるようになる。①勝手にやってくる、というサービスはどういうものだろう? ということを考えると、お酒の頒布会アイデアだけでなく、フードコンシェルジュに頼んでおくと自分の好みのものを選んでくれるとか、シェフがやってきてその場で何でも作ってくれるとか、だんだんとぶっ飛んだ考え方も出てくるだろう。

 ついでに「勝手にやってくる」の先まで検討したブロック図も載せておく。

図4 勝手にやってくるフードデリバリーサービスを考える

 フードデリバリーサービスの派生として、「探さない」というキーワードだけでも①勝手にやってくる、②毎回同じものが届く、③代わりに頼んでくれる、④チェンジできる、の4つのプリミティブなアイデアが出て、その中の①勝手にやってくるに対して、さらに4つの具体案が出た。この調子でいくと、探すというステップに対して4x4程度の数のアイデアはそれほど苦労せずに出そうに思う。

 アイデア創出の観点からいうと、元のお題(ここではフードデリバリーサービス)があったとして、一気にジャンプしてぶっ飛んだアイデアを出すのは難しい。また元のお題から離れたアイデアは、思考の過程を説明するのも簡単ではない。ここで紹介しているブロック図を用いた手法は、分解しては、小さなアイデアを出し、それを記述してはさらにアイデアの小さなジャンプをするということを繰り返す。そうすることで結果としてジャンプ幅が大きなアイデアに到達するとともに、派生として多くのアイデアが生まれることを目指している。

 一方、読者の中には図4の派生アイデアが、「探さない」から出たから比較的アイデアの発散が簡単で、次の「選ぶ/購入する」や「受け取る」のステップからはアイデアの発散がしにくいのではないか、と思われた方もおられると思う。確かにそうかもしれない。当然分解した部品には、アイデアを派生させやすい項目とそうでない項目が存在する。

 とはいえ、アイデア創出の原点は「肯定」なので、「選ぶ/購入する」もあり得ないと思わず、少しだけ考えてみよう。先ほどの例にならって「購入しないフードデリバリーサービス」を考える。ビジネスはお金が動くことによって回っているので、「購入しない」というのは一瞬あり得ないようにも思える。

 前回・今回のノートはブロック図から始めるアイデア創出という題なのだが、これを実現する能力としてロジカルシンキング、アイデア発想力とともに非常に大きな要素として国語力があると僕は考えている。ここでいう国語力とは何か? 上記の事例をベースに考えてみよう。

 「購入しない」サービスを考えるにあたって、「購入しない」というのはどういう意味かを考える。ここでは購入しないということを、フードを得るための対価を支払わない、ということに限定してみる。ここで元のフードデリバリーサービスでフードを購入しているのは、顧客になっている。なので、「購入しない」という定義を詳細に記載すると「顧客が自分で消費するフードのための対価を支払わない」ということになる。ここで「購入しない」が「世の中の誰もがフードの対価を支払わない」という定義ではないということに注意が必要になる。つまり多くの場合、お題を実現するために、誰から見た場合かの定義が必要になってくる。まさに国語の課題を解いている状況になる。

 顧客がお金を支払わないビジネスモデルを作ればいいとわかると、課題ががぜん簡単になる。

図5 フードデリバリーサービスの登場人物(再掲)

 この中で一旦顧客はお金を支払わないと定義した。となるとそれ以外にフードの対価を支払う人が必要になる。もちろん、この図の中でフードデリバリー事業者やレストラン・配達事業者が対価を支払うモデルもあるだろう。現にフードデリバリー会社は一時期盛んにクーポンを発行し、顧客獲得のためにフードの対価を支払っていた。一方、サステナブルなビジネスを考えると、この図以外のところにスポンサーがいるというモデルも考えられる。

図6 スポンサーモデル

 スポンサーがいると仮定したときには、誰が何の目的で誰のためにスポンサーになるのか? という分解が必要になる。例えば、貧困の子供たちのために寄附を募ってスポンサーになる仕組みがあるだろう。子供食堂があるなら、費用支払いと食事提供の機能を分離して、スポンサーを募りフードデリバリーで貧困な子供に食事を届けるというのはありそうだ。他には十分な食事が提供できない小さな病院の入院患者に保険適用で食事を届けるサービスとか、社員の福利厚生のために在宅勤務人に対して昼食を届けるとか、いろいろと発想が浮かぶ。

 つまり一見難しそうなアイデアも、その言葉の定義を分解してみて、定義を柔軟に解釈することによりアイデアの幅を広げるというのは、非常に重要な考え方になる。まさに国語力で勝負するという部分だ。

まとめ

 今回のNoteでは、ブロック図を基に既存のサービスの部品を置き換えることで、新しいアイデアにたどり着くという手法を示した。説明の都合上、最初からまとまったブロック図を記載しているが、実際のアイデア宗主の過程ではそうきれいにはいかない。アイデアを出そうとするときには、もっと頭の中がもやもやしていて、すぐにはアイデアが出なかったり、アイデアの粒度が違ったり、議論のポイントとは違う話題に頭がそれていったりする。それでも全く問題ない。そんなに簡単に新規事業のアイデアが出るなら苦労はない。重要なポイントは、常に前向きに考え、他人のアイデアも前向きに評価することだ。ロジカルに分解する能力と、ジャンプをする企画力は別の能力なので、できればアイデア発散の会は複数人が集まって議論するのが望ましい。耳から聞く言葉は予想外にインパクトがあり、聞いた瞬間に新しい発想が得られることも多い。いろいろな場面で、分解する、発想する、分解するを繰り返すことでアイデアを広げていくことにチャレンジしてほしい。

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