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ブロック図から始めるアイデア創出(1)

初めに

 ビジネスでは、何かについて検討・考察しないといけないことによく出くわす。例えば新規事業の創出の場では、何もない、逆に言うと可能性無限大のところから、今まで他社が行ったことのない「事業」を作り出すことが必要となる。新規事業などという大げさなものでなくても、自分の小さなアイデアを広げ、それを社内で説得する必要性は日常に転がっている。また、課題の真因がどこにあるのか?一旦、物事の構造はどうなっているのか? など、構造を分解する場面はどの仕事でも出てくる。

 人はそういう状況で、どういう風に考えて物事を分析し、新しいことを発想するのだろう? 僕は研究開発の仕事にずっと携わってきた。いわば新しいことを発想し、それを実現することをメシの種にしてきた。今まで見たことのないものを、あるときはひらめき、あるときは考えて考えて苦しんでひねり出す。その過程では3C分析*とか4P**分析とか、いろいろな分析のフレームワークも使いながらアイデアを創造し、説明してきた。
 *3C分析とは「自社(Company)」「顧客(Customer)」「競合 
  (Competitor)」の3つの側面から事業等を分析する手法
**4P分析とは「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」
  「プロモーション(Promotion)」の4つの情報を基に事業等を分析する
  手法

 もちろん、それぞれの分析手法のメリットは存在するが、あくまで足りていない部分を補いロジックを完成させるための手法であって、新しいモノやサービスを生み出すには向いているようには思えなかった。これらの手法は、個別の要件にフィットさせるには抽象度が高すぎて、新たなアイデアを想像するには手掛かりが薄すぎる気がする。当然、著名な分析手法であるので、社内で説明・説得するときには威力を発揮する。

 一方、僕が日常的今まで見たことのないものを分析し、発想をまとめ、アイデアを拡張するのに使っているのは四角と文字と矢印からなるブロック図に落ち着いている。おそらく今まで描いたブロック図の数は数千のオーダーだろう。僕は考えをまとめるときに、まずはパワーポイントに四角を書いて始めることが多い。
 つまり、ぼんやりした頭の中のイメージを、複数のブロックに分解し、その関係性を線で結ぶ。いい歳になって、これが自分の使い慣れた一番の道具なんだということが、ようやくわかってきた。

 このノートは、ブロック図を手段として、物事の中身を明らかにし、アイデアを具体化し、課題を発見し、創造を拡張することの中身について語ってみようと思う。非常に長い間、物事の構造を明らかにし、課題を発見し、アイデアを拡張し、実際に新しいモノや事を世の中に出してきたベースの考え方が、誰か1人でも物事を分析・理解し、アイデアを拡張するための一助となれば幸いである。
 
ブロック図とは何か?
 まずは説明する前に実例を見てみよう。ここではフードデリバリーサービスを用いて説明を試みる。
 図1はフードデリバリーサービスのユーザの流れを示している。

図1 フードデリバリーサービス分解

① 頼みたいお店とメニューを探す。
② その中からどれかを選択(注文)する。
③ 注文した商品を受け取る。
 という極めて簡単なブロックに分解になっている。実際の作業を考えると、ユーザはアプリをダウンロードする、とか、住所氏名・支払い方法を登録するなど他の手順が存在するが、大きな方向性を考えるための最初の分解としては、この3つの手順で十分だろう。詳細については、より細かい点を検討することが必要になったときに、よりステップを細かくして考えればよい。
 では、この図について考えよう。これはシステム開発の世界でブロック図と呼ばれるものである。ブロック図はWikipediaによると「何らかのシステムを図示したダイアグラムで、基本構成要素や機能をブロックで表し、それらを線で繋いでブロック間の関係を示したものである」と記載されている。もう少し簡単化して、「ブロック図とは、とその説明(文字)とそれらをつなぐ線からなり、各要素間の関係を示したものである」としておこう。なおブロック図は通常ソフトウエアやシステム設計においてロジックをまとめ、説明するために使われる最も基本的な図の一つである。
 図1は確かに、箱と文字と線からなっている。さらに図1の線は矢印になっていて順序関係を示している。矢印を使うことで順番を含むブロック図になり、それぞれの行動がこの順序で成り立っていることを示している。このどちらからどちらへの関係は非常に重要であり、常にどこからどこへモノ、金、情報、時間が流れているのか?を意識することでより詳細に物事を理解するのに役に立つ。
 さて、図1はフードデリバリーサービスの顧客の行う流れを示しているが、これを作るときにはどう考えているだろうか? 図1が自分の考える顧客の流れと同じかどうかを考えてほしい。フードデリバリーサービスを使ったことがある人は、自分が食事を頼むときの流れを想像するに違いない。「①探す」ではきっとスマホの画面を操作する絵姿が頭に浮かぶだろう。多くの食品リストと価格が表示され、その中から所望のフードを「②選び」・注文する。後はフードの到着を待ち「③受け取る」。
 このブロック図を作る本質は意義は、図を作るプロセスで具体的なことを想像し、想像した結果を抽象的に表現することではないかと思う。この「具体的に想像」というのは非常に重要で、実際の絵が頭の中に描ければブロック図も正しいものに近づいていく。例えそれが自分がまだ見たことや触ったことのないものであっても、あたかもそこで動くようなものとして頭の中で構成できればブロック図作成のゴールに一気に近づいてる。

 一方、関係を矢印で結ぶところに苦労する場合も多い。このフードデリバリーサービスの顧客の手順は単純なので、3つの箱をかけばその関係を表現する矢印の記載で迷うことはない。だが、顧客の手順に並べて、フードデリバリー事業者、レストラン、配達事業者が入ってくると、矢印が混雑してくるので、すぐに正解を書くのは難しい。その事例は追って説明する。

 本章では、まずはモノやサービスの仕組みを分解する基礎としてフードデリバリーサービスを例としてブロック図の形式を見てきた。事例が単純すぎて肩透かしを食らった人も多かったのではないか? だが、この事例はブロック図のエッセンスが詰まっている。つまり、「フードデリバリーというサービスを考える」というお題をもらったときに、フードデリバリー全体のことから発想できる特徴や派生を考え出すのは一つの有効な方法だ。一方、本当の特徴や課題は、部品に分解して考えることでより詳細に考察することができる。そのためには、頭の中で流れを作り、それをブロック図に落としこむことの経験を繰り返すことで、短時間で効率的に深い考察ができるようになる。ではもう少し複雑な例として、次章では、フードデリバリーサービスの別の側面をブロック図で分解してみよう。

フードデリバリーの登場人物の分解
 フードデリバリーには当然顧客以外の登場人物がいる。これを分解していこう。

図2 登場人物分解

 フードデリバリーサービスで登場するのは、顧客、フードデリバリーサービス会社、レストラン・配達事業者の4種類である。ここでも矢印でその順番の関係を表現している。今回のブロック図は図1とは異なり、基本的に対等の関係の登場人物をフラットに表したものになっている。ブロック図は対等なもの、上下関係があるもの、時間関係があるものなどいろいろなものを表現ができるが、それらは機会があれば別途紹介するのでまずは図2を見てみよう。
 顧客はフードデリバリーサービス会社に注文を行う。注文はレストランに伝達される。レストランは配達事業者に注文されたフードを渡す。配達事業者は顧客にフードを届ける。という流れになる。注意しないといけないのは、顧客はお客様1人に着目しても問題ないが、注文する先のレストランや配達事業者は複数存在するということである。これもやはり実際に起きることを考えていくことで見えてくる。では、ブロック図の中で上記の流れをわかりやすくするために、この矢印にその時に起きるアクションを追加しよう。

図3 アクションを入れた登場人物の関係

 図3では、矢印に付随して起きるアクションを記載した。①では顧客がデリバリー会社のアプリ・ホームページを見て店とフードを選択し、注文を行う。②では、デリバリー会社が注文されたレストランに注文の品と数量等(配達時間なども)を伝え、同時に他の注文と重複しない注文番号を伝える。実際には注文番号と配達先情報・注文情報が紐づいてレストラン側に表示されるのだろうが、ここでは詳細にこだわらずに進める。③では配達事業者に注文番号を確認してフードを引き渡す。④では配達事業者が顧客番号に基づく住所・氏名の顧客にフードを届ける。
 ここでは、少しシステム的な言葉として注文番号というのが出てきた。注文を行うとそこには「誰に」「何を」「いつ」届けるかという注文に付随する情報が引っ付いてくる。注文は多数存在するので、それらを混同しないように一意な番号として注文番号というものが注文毎に生成される。この注文番号をキーにして、注文したフードを間違いなく発注した顧客に届けるという流れになる。
 何気なく見るとこれで十分成り立っていると思う。だがさらに考えてみるとこの分解では何かが足りていないことがわかる。さて、何が足りないだろうか? この時点で図3を見て、それぞれの登場人物になったつもりで作業を具体化してほしい。この時点で課題が分かれば(下記で解説するものとは異なっていても)大変すばらしい。

 さて、図の手順を順を追って見ていこう。顧客はフードを選択するとともにレストランを選択している(①の流れ)。よって、どこのレストランに顧客の注文が届くかは顧客の注文により明らかになる。レストランがわかっているので、この注文はフードデリバリーサービス会社のシステム経由で、「その」レストランに注文情報が届く(②の流れ)。レストランはそれによりフードを調理する。次にレストランは配達事業者にフードを渡す必要がある(③の流れ)。このときに「どの」配達事業者にフードを渡すのか? というところが明確でないことがわかる。

 つまり、このブロック図では配達事業者というのが一つにまとめられているが、現実には配達事業者は多くの場合個人事業者であり、それぞれの現在位置に応じて複数の配達事業者から一つの事業者が選択されているはずである。しかしこのブロック図では配達事業者の指定についての情報受け渡しが足りておらず、どの配達事業者が何のきっかけでレストランに移動してフードを受取るか? というところが不明瞭になっている。これでは正確に顧客にフードが届かない。
 この不足分を見つけるためには、自分がレストランや配達事業者になったことを想定するとわかりやすい。レストラン側は、レストランのタブレットに注文番号と注文内容が表示されるので、それを作るだけである。後は配達事業者がレストランに来るのを待って、注文番号が一致すればフードを渡せば仕事は終わる。
 一方、配達事業者は、街角で自転車にスマホアプリを見ながら乗り注文待ちをしている。このとき次に行くレストラン・注文内容と配達先の顧客がスマホに表示されないと、お店に行くというアクションが起こせない。よって顧客の注文情報は、配達事業者がレストランに行く前に、この配達事業者へ届かないとお店にフードを取りに行けないことになる。
 この点を考慮して、図3を改良しよう。

図4 改良した登場人物の関係

 今回、デリバリー会社から配達事業者への矢印を追加し、ここでデリバリー会社から配達事業者に注文番号・注文内容・それに紐づく顧客情報を伝えるという機能を追加した(②-2)。これにより、配達事業者は自分がどの注文をどこのレストランに取りに行き、レストランとどうやってフードを確認し、どこの顧客に配達するのかという部分が明確になった。②-1と②-2としたのは、同じ②のステップで同時並行的に起きるイメージを示すために同じ②系列を使用している。
 さらに②ー2の注文情報を得た配達事業者が、レストランに行き注文番号を伝える流れ(③ー1)とフードを受取る流れ(③ー2)を明確にした。

 少し難しくなったかもしれない。ただ、登場人物、情報の流れ、モノの流れを分解していくことで、単にフードデリバリーサービスを外から見ていただけではわからない仕組みが見えてくる。

 今回フードデリバリーサービスの例では、4種の登場人物が出てくるが、これらの関係を書き下し、それぞれの動きについて説明文を追記することで、それぞれの動きをより明確化するトライを行った。その過程で、現状のブロック図(図3)では不具合が生じることを発見し、それを修正することを学んだ。
 自分でブロック図を書くということは、よく考え、分解・整理を行うことで、中で起きている仕組みを考えることができる、という大きなメリットがある。そしてブロック図を書く場合には、それぞれの機能(図4の場合には登場人物)がどういう動きをするのかを具体的の思い浮かべることで、より正確なブロック図を描くことができる。

今回のまとめ
 本ノートでは、ここではフードデリバリーサービスを取り上げ、分解することを説明した。最初に顧客行動を分解し、次に登場人物を分解した。また登場人物間にはそのアクションを記載するとより詳細に理解できることを学んだ。詳細の検討の中で、フードデリバリー会社と配達事業者の間の情報の流れを追記することができた。

図5 ロジック理解のフィードバックループ


 多くの場合、今回のフードデリバリーサービスのように1回の検討では分解できないことも多い。そんなときでも、まずは、パワーポイントとかノートとかに検討するサービスや仕組みの部品となる単語を考え出し、四角で囲んでみる。その際には順番とか配置とか、粒度(詳細さ)とか気にせず、思いついた単語を並べる。次に、その関係を線で結ぶ。もし時間関係に前後があるなら、図の上部に時間の早いものをもってきて上下に並べる。分岐があるなら分岐させる。という書いては考え、書いては考えということをぐるぐる繰り返す。図5に描いたように、ぐるぐるとブロックを書いたりつないだり場所を変えたりしながら考える、というのを繰り返す。

 その作業は、一定時間繰り返すと頭の中が飽和してくる。飽和とはなんとなく完全ではない気がするが、どう分解・追加していいかがわからなくなる状態である。特に新規事業など新しいアイデアを出そうとするときには、比較的早くに飽和状態が訪れる。
 飽和状態は、いわば階段の踊り場なので、そこで止まってはいけない。

 飽和状態を脱する方法はいくつかあるが、まずは誰かに説明するのがよい。ブロック図に沿って、描いたサービスや仕組みの流れを口に出してみる。やはりこの時も頭の中で具体的なイメージを思い浮かべながら言語化することになる。このアウトプットを出すことで、自分の足りていないところが自覚できたり、新しい分解を追加したりすることができる。もちろん、聞いてもらった人からのアドバイスも得られるだろう。

 では次のノートでは、アイデアの拡張についてみてみよう。

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