見出し画像

第12話 グライアイの捜し物

12. 過去形(2) be動詞の否定文/疑問文

(6月5日 メドりん宅②)

小さな森の大きなお家。――
メドりん宅には、玄関から入ってすぐ右側に、地下に下りる階段がある。
誰が出入りするのか、その幅はやたらと広く――5メートル以上はある――階下は真っ暗闇だった。
階段を下りて奥へ進んでいくと、生温かい風とともに次第に周りの空気が湿ってくる。
両壁にごつごつとした不規則な出っ張りがあるところを見ると、どうやらここの地下道は自然にできた洞窟か鍾乳洞のような所に直結しているのかもしれない。
ひんやりとした岩壁には水蒸気が凝結した水滴が付着し、それが垂れてくるせいか足元には所々に水溜りができている。
さらには苔らしき植物が地面を覆っているのだろう、時々行く者の足を滑らせた。
それでもこの地下道をゆらりゆらりと揺れながら、奥へ奥へと進んでいく者たちがいる。
1枚の大きな黒いマントを共有し、それを頭からすっぽりと被った3人の老婆である。
何が潜んでいるのかもわからない緊張した空気の中で、滴の落ちる音と詰めた息のもれる音だけが洞窟内に響く。
暗闇の中、足元も悪いだけに通常の時間と距離感がつかめない。
一体どこまでこの地下道は続いているのだろうか。
そして、彼女らは何を求めてこの無限の暗闇の中をさまよい歩いているのだろうか。――

「ども! 家庭教師のタムラです」
ドアが開くと、中から見覚えのある3人の老婆が現れた。
「どちらさんにゃむ?」
「あれ? す、すみません。家、間違いました」
慌てて引き返そうとすると、
「先生、先生」と、メドりんの声。
「ん? やっぱりここでいいんだよね」
「うん」
「さっきのお婆さんたちは?」
「あー、あれね。ウチの姉妹」
「姉妹?」
ゴルゴン3姉妹には、1つの目と1つの歯を3人で共有している生まれながらの老婆の姉妹がいる。その名もグライアイ3姉妹。――
「たまに遊びに来るの」
「ふーん」
すると、「メドゥサや。わしらの入れ歯、見なかったにゃむか?」
「え? 知らなーい。その辺にあるんじゃない?」
「困ったにゃむ、困ったにゃむ。あれがないと、わしら、ご飯が食べられないにゃむよ」
「どっかに落としたんじゃないの? アタシ忙しいから、勝手に捜してて」と、メドりんが言う。「入って、先生」
(あー、困ったにゃむ。わしらの入れ歯、入れ歯、……どこにゃむにゃむにゃむ)
「う、うん。いいのか、彼女たち、……放っておいて」
「いーの、いーの。どうせあいつら、暇なんだから」
「なら、いいけど。ところで、メドりん。今日の髪型、いいね」
普段はじっとしていられない生きた蛇の髪の毛が、今日はやけに大人しい。
「ホント? 暑いから1つにまとめてみたの。うしろはこんな感じ、……どお?」
「うん、カワイイ、カワ、……ん? ゲッ」
「どうしたの? 先生」
「……」
そこには老婆たちの捜し物が、ガッツリと噛み付いているのであった。――

「どぉれ、やっぞぉ。今日のテーマは『過去形(2) be動詞の否定文/疑問文』ね。と、そ・の・ま・え・に。まずは復習。はい、『私は学生です』を英語にしたら?」
「I am a student.」
「そのとーし! じゃあ、『私は学生でした』っていう過去の文だったら?」
「I was a student.」
「そのとーし! 過去のことを言うときには、動詞の過去形を使う。ここまで、いい?」
「うん」
「じゃあ、I am a student.(私は学生です)を『私は学生ではありません』っていう否定文にするときは、どうするんだったっけ?」
「I am not a student.」
「そのとーし! be動詞の否定文は、be動詞のうしろに not を入れればよかった。じゃあ、You are a student.(あなたは学生です)を『あなたは学生ですか』っていう疑問文にしたら?」
「Are you a student?」
「そのとーし! be動詞の疑問文は、be動詞を主語の前に出すんだった。いいよー、よく理解してるよ」
「テヘ」と、嬉しそうなメドりん。「やっぱ髪型変えると、頭の回転が違うね」
――そうか? 俺は、その髪留めが気になってしょうがないが。
「では、本題。be動詞の過去形の否定文/疑問文は、どうやってつくるのか? はい、<アテナの黙示録12>を見てみましょ。

<アテナの黙示録12> 過去形(2) be動詞の否定文/疑問文
【1】be動詞(過去形)の否定文のつくり方
|★be動詞の過去形の否定文は現在形と同様、be動詞のうしろに not を入れてつくる。
||例)肯定文:I was a student.(私は学生でした)
||||否定文:I was not a student.(私は学生ではありませんでした)
||※縮約形…was not=wasn’t, were not=weren’t
【2】be動詞(過去形)の疑問文のつくり方
|★be動詞の過去形の疑問文は現在形と同様、be動詞を主語の前に出してつくる。
||例)肯定文:You were a student.(あなたは学生でした)
||||疑問文:Were you a student?(あなたは学生でしたか)
【3】be動詞(過去形)の疑問文の答え方
|★疑問文には普通、Yes, ~./No, ~ not. で答える。
||例1)Was Nancy a student?(ナンシーは学生でしたか)
|||||―Yes, she was.(はい、<彼女は>そうでした)
|||||―No, she wasn’t.(いいえ、<彼女は>そうではありませんでした)
||例2)Were you a student?(あなたは学生でしたか)
|||||―Yes, I was.(はい、<私は>そうでした)
|||||―No, I wasn’t.(いいえ、<私は>そうではありませんでした)

いがぁ。ま、結論から言うと、現在形(=is/am/are)のときと同じ、ってことね。否定文であれば、was/were のうしろに not を入れる。疑問文であれば、was/were を主語の前に出す、ってことよん」
「な~んだ、簡単」
「でしょ。ま、<アテナの黙示録10>までしっかりと理解していれば、あとはどってことないんすよ、英語なんて」
――だからこそ、<アテナの黙示録10>までは、練習問題も含めて、じっくり時間をかけてやらなければならないのだ。大体、日本で生まれて日本で育った者が他国の言語を学ぼうというのだから、頼りになるのは文法しかないはずだ。よって、学校教育においても、生半可な実用的英会話を取り入れるよりも、昔ながらの非実用的英文法を叩き込む方が、俺は良しと考える。元来、義務教育の場とは、非実用的かつ非現実的な理想論を学んで脳みそのシワを増やす場所ではないのか? 早い段階から実用性を求めるなら、希望者のみお金を払ってそれがしの教室やスクールに通えばいいだけの話だ。俺はいわゆる学校とは無縁だが、いろいろと注文の多い現代社会において学校関係者はさぞかし大変だろう、と他人事のように思う今日この頃である。
「てことで、いくつか縮約形を覚えておこう。was not は wasn’t でもいいよ。were not は weren’t ね。以上、どっか質問ある?」
「なーい」
「おしっ。んで、<スピンクスの謎12>をやってみよう。

<スピンクスの謎12> 過去形(2) be動詞の否定文/疑問文
次の英文を否定文に書き換えなさい。
(1) He was busy yesterday.
(2) My sister was a teacher at that time.
(3) They were at school two hours ago.
次の英文を疑問文に書き換え、yes/no で答えなさい。
(4) You were a junior high school student last year.
(5) Mike was sick in bed this morning.

はい、(1)から、書き換えた英文読みぃ」

次の英文を否定文に書き換えなさい。
(1) He was busy yesterday.

「He was not busy yesterday.」
「そ。was のうしろに not を入れるだけ。ちなみに意味は?」
「彼は昨日忙しくありませんでした」
「そのとーし! 過去の文だからね、ちゃんと『~ではありませんでした』『~ではなかった』って過去の文だってわかる訳にしないとね。いでしょ。はい、次、(2)、書き換えた英文読みぃ」

次の英文を否定文に書き換えなさい。
(2) My sister was a teacher at that time.

「My sister was not a teacher at that time.」
「そ。これも was のうしろに not を入れるだけ。ちなみに意味は?」
「私の姉妹は当時先生ではありませんでした」
「おしっ。はい、次、(3)、書き換えた英文読みぃ」

次の英文を否定文に書き換えなさい。
(3) They were at school two hours ago.

「They were not at school two hours ago.」
「そ。were のうしろに not を入れるだけ。ちなみに意味は?」
「彼らは2時間前に学校にいませんでした」
「おしっ。んで、今度は疑問文。(4)から、どぞ」

次の英文を疑問文に書き換え、yes/no で答えなさい。
(4) You were a junior high school student last year.

「Were you a junior high school student last year?」
「そ。were を主語の you の前に出せばいいね。ちなみに意味は?」
「あなたは去年中学生でしたか」
「そのとーし! んで、yes で答えたら?」
「Yes, I was.」
「おぉ、よくできた。『あなたは~でしたか』って聞かれてるんだから、答えるときは『はい、私は~でした』だよね。no だったら?」
「No, I wasn’t.」
「おしっ、んで、ラスト、(5)」

次の英文を疑問文に書き換え、yes/no で答えなさい。
(5) Mike was sick in bed this morning.

「Was Mike sick in bed this morning?」
「そ。was を主語の Mike の前に出すだけだ。ちなみに意味は?」
「マイクは今朝病気で寝ていましたか」
「そのとーし! んで、yes で答えたら?」
「Yes, he was.」
「おぉ、no だったら?」
「No, he wasn’t.」
「完璧じゃ~ん」
「テヘ。なんか英語、楽しくなってきた」
「よかった、よかった。んで、本日終了。おつかれさ~ん」

(あー、困ったにゃむ。わしらの入れ歯、入れ歯、……どこにゃむにゃむにゃむ)

<オイディプスの答え12> 過去形(2) be動詞の否定文/疑問文
(1) He was not busy yesterday.
(2) My sister was not a teacher at that time.
(3) They were not at school two hours ago.
(4) Were you a junior high school student last year?
||―Yes, I was.
||―No, I wasn’t.
(5) Was Mike sick in bed this morning?
||―Yes, he was.
||―No, he wasn’t.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?