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理科の先生を目指し進学した先で出会った農業機械の面白さ

ORECは創業以来、74年間「世の中に役立つものを誰よりも先につくる」という精神のもと、ものづくりを行ってきました。

これまで、数々の業界初製品を生み出してきましたが、世の中に無いものをゼロから作り出すことは容易ではありません。

今回はORECの開発部では、どんな社員がどんな想いで働いているのかにクローズアップし、note編集担当が開発部のある女性社員に話を聞いてきました。

【プロフィール】
前田 実沙紀(まえだ みさき)
2017年入社。開発部・有機支援グループに所属。
趣味は道の駅巡り。九州(沖縄、離島を除く)にある道の駅は全て制覇したのだとか。

「食の安全・安心を支える」仕事

今回取材するのは、入社6年目の前田さん。機械の開発とは少し離れた、開発部 有機支援グループというところで仕事をされています。

ー早速ですが、前田さんは普段どんなお仕事をされているんですか。

ORECの開発部と言えば、機械の開発をイメージされる方も多いと思いますが、現在私は、有機支援グループというところに所属しています。
「有機農業の普及に貢献する」という大きな目標を立て、日々仕事に取り組んでいます。しかし、有機農業の普及に貢献すると言っても、まずは自分たちが有機農業を体感してみなければ始まりません。なので、チームの皆で有機野菜づくりに挑戦したり、土づくりをしたり、実践を通して色々なアイデアを考えています。

理科の先生を目指し進学した先で出会った農業機械の面白さ

ー実際に農作業を行うとなると、農業の知識も必要不可欠となりますよね。
前田さんはもともと農業に興味があったんですか。

農学部出身なので、入社前から農業に興味はあったんですが、
実は小学校の頃から大学3年までは理科の先生になることが夢でした。

小中高と理科の先生に恵まれていて、私もこんな風になりたいな、と。
大学を決めるときも高校理科の教員免許が取得できることを条件に選びました。教育系の大学も選択肢にありましたが、理科をより専門的に学び、
自分の体験を通した授業を行えるようになりたいと思って選んだのが農学部でした。

ーもともとは、理科の教師を目指されていたんですね!現在は全く職種の違う農業機械メーカーの技術者として働いていますが、きっかけなどはあったのですか。

大学では、栽培から農業経済、土壌や害虫についてなど農業に関する幅広い分野を学びました。その中で、農業機械に関する授業もあったんですが、私は高校で物理を学んでいなかったので、機械の構造などを理解するのが難しく、どの分野よりも力を入れて勉強することになって。気づいたら、勉強した分、機械の構造や仕組みを学ぶことが楽しくなっていたんです。大学3年で選択する研究室では農業機械をテーマに扱うゼミに入りました。このゼミを選んだことが今の職種につながる大きなきっかけになりました。

ー農業機械がテーマ、というと、ゼミではどんなことを研究していたんですか。

早掘りさつまいものひげ根を除去する機械の開発をテーマに研究していました。
さつまいもと言えば、秋が旬な作物ですが、早掘りさつまいもは、一般的な時期よりも早く収穫される芋を指します。時期が早い分、市場の中では珍しいため贈答品として多く出荷されているんです。
ただ、この早掘りさつまいもは収穫が早い分、表面が柔らかく傷つきやすいため、ひげ根といわれるさつまいもの表面に生える細い根っこの除去に手間がかかるんです。
そのひげ根をとる機械の研究を行っていました。

ひげ根を除去する前
ひげ根を除去した後

ースーパーで並んでいるさつまいもにはひげ根が付いていない綺麗なものが並んでいるので、出荷されるまでにそんな作業があることを知りませんでした。その除去作業はどのくらい手間がかかるんですか?

研究は大学の近辺にある宮崎県串間市の農家の方を対象に行ったんですが、ひげ根をとる機械はそれまでになく、全て人の手で行われている状況でした。
20kgコンテナひとつのひげ根をとるのに約1時間もかかり、とても大変な作業となっていました。

ー見た目を重視する早掘りさつまいもは、少しでも側面に傷が付いたら売り物にならないんですね。その研究は上手く進みましたか?

大学院に進学後もこの研究を行い、トータルで3,4年かかりました。
実際に製品化はしていませんが、機械の機構部分を論文でまとめるところまで行いました。そして、大学卒業後に、ゼミの担当教授が特許取得まで進めてくださっています。

特許を取得されるまで、研究に没頭されていたんですね。そんな中で将来に対して、前田さんの中で気持ちの変化はあったのでしょうか。

もともとは理科の教師になりたかったので、大学で理科の教員免許は取得しましたが、研究をするにつれて、一つの機械に一貫して関わり開発したいという想いが強くなり、大学院1年目で農業機械メーカーで働きたいと思うようになりました。

大学で研究を重ねるうちに、ゼロから開発をする楽しさにのめり込んでいった前田さん。大学院在学中に農業機械メーカーを中心に就職活動を行い、福岡県出身であったこともあり、ORECに入社します。

入社後、努力の積み重ねで完成した担当機械

ー入社後は何の機械の開発を担当されていたんですか。

入社してから1年半後に、乗用草刈機RABBIT MOWERラビットモアーのオプションである「牽引式スイーパー SW700」とアタッチメントの「落葉収集レーキ」の開発担当となりました。

この機械は、リンゴの主産地である青森県で問題となっていた「黒星病」という病害の解決に向けて農研機構や青森りんご研(※1)と共同で開発した機械です。

※1 地方独立行政法人青森県産業技術センターりんご研究所の略称

ー福岡県でりんごを生産している地域は少ないので、「黒星病」という病気を初めて聞きました。どんな病気なんですか。

「黒星病」とは、リンゴの葉や果実に褐色の病斑を形成する病害で、感染した果実は商品価値を失うため、多発すると経済的な被害を及ぼします。
この病気の被害を低減するには、伝染源となる落葉を収集し、①樹園地の外に搬出②すき込む③穴を掘って埋める、のいずれかの対策が有効とされています。

しかし、既存の牽引式スイーパーでは、雪の重みで地面に張り付いた落葉を容易に収集することができませんでした。

そこで、集草バケットの前方に落葉収集レーキを設置することで、積雪地帯特有の地面に張り付いた落葉を容易に掻き取れる仕様にしました。

ーこの開発をする上で、大学では学ばれなかった専門的な技術の知識も必要となってきそうですが、実際に開発してみてどうでしたか。

既に私が担当する半年~1年ほど前から先輩社員が開発を進めており、それを引き継ぐ形で担当になりました。最初は既存の牽引式スイーパーの構造を理解するところから始めましたが、機械分解の経験がなかったり、この製品を使う対象圃場が少なかったりで、理解するのにかなり苦労しました。

また、歯車、ワイヤー、鉄板など必要な知識が広く、それら全ての知識を習得するために、自分で理解することが難しいものに関しては、上司に教えてもらうなどして、日々勉強を積み重ねました。

ですが、遅くまで残って勉強をしていると周りの先輩がご飯に連れて行ってくださったりして。先輩方のフォローに沢山救われました。

ーさて、ORECの開発部は女性技術者がまだまだ少ないですが、女性ならではの視点で開発に生かされたことなどはありますか。

女性農家の方も使うことを想定し、自分が作業しにくいことは農家の方にとっても難しいと考え、どうすれば収集した袋を引き上げる時に軽く感じるのか、などを考慮し開発しました。それに、手の大きさの違いによる感覚なども意識しましたね。

ーその後、無事今年の2月に販売されましたが、世の中に製品が出るときはどんなお気持ちだったのでしょうか。

実際に農家の方が牽引式スイーパーを使っている様子を現地に見に行くことができなかったので、不具合などないか不安でした。ですが、農家の方から良い評価をもらえたと聞き、今は安心しています。

ースイーパーの開発後は、機械の開発を離れて有機支援を行う業務に取り組まれていますが、今後の目標などを教えてください。

機械の開発を担当していた際は、CADに向かうことが多く、現場を訪れることが少なかったな、と反省しています。有機支援グループに異動となり、大学の時に学んだ知識を生かすことはできていますが、農家の方に比べるとまだまだです。今後は積極的に現場に足を運び、さらに研究開発をしていきたいです。そして、有機農業に挑戦されている方のお困りごとを解決するサービスや製品をつくっていけるようになりたいですね。

ORECが業界初製品や農家の方のお困りごとに応える製品やサービスをお届けできるのは、開発社員の徹底した現場の声を聞くことがカギとなっているようです。
前田さんは「世の中にないものを誰よりも先につくる」という創業精神を大学時代から持ち合わせており、現在もその思いで仕事に励んでいました。
今後も新たな目標に向かっていく前田さんの活躍が楽しみです。