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収穫だけを楽しむ、いいとこどりの「シェアファーム」〈後編〉

前職時代に家庭菜園を楽しみ、野菜を育てることに興味をもっていた早智さんと安心できる食べものに情熱を注いでいた朋美さん。二人は農業を支援するスクール主催のイベントで出会い、結婚。現在は研修先で学んだミニトマトとニンジンの栽培を主に農業を営むとともに、好みの野菜を収穫する会員制のシェアファームも盛り上がっています。
後編では果物狩りならぬ、野菜狩りのような?!このユニークな取り組みのお話から伺いました。

今泉早智いまいずみさちさん・朋美ともみさん|さちまる農園
ともに福岡市出身。福岡県朝倉市で2018年10月から就農。有機栽培技術のひとつであるBLOFブロフ理論を基盤にミニトマトとニンジンを栽培し、直売所やスーパーで販売するほか、九州各地のマルシェに出店する。ニンジンジュースなど六次産品も生産する。
BLOF理論:科学的・論理的なやり方で農業を営む、有機栽培技術のこと。アミノ酸やミネラル分の供給、土壌改良などを組み合わせる。環境に配慮している点で持続可能な農業とも位置付けられている。

シェアファームって何ですか?

ーシェアファームの概要について伺わせてください。
早智:会員さんが食べたいと思う野菜を各自で収穫してもらい、量と品目のメモと一緒に代金をポストに入れて、持ち帰ってもらうシステムです。

ーもしかして無人なのでしょうか?!
早智:はい、立会いをしてたら自分たちが仕事にならないので(笑)。

朋美:その分、お得な設定にしています。夏ならスイカひと玉と数種類の野菜を収穫しても、ひとカゴ1,000円みたいな日もあります。もちろん全部無農薬です。

ーお得ですね。シェアファームの発想はどこから来たのでしょう。
朋美:りんご狩りやナシ狩りはあっても、野菜狩りってあまり聞かないでしょう?

早智:土づくりや野菜のお世話は自分たちがしますから、野菜の収穫を楽しんでもらえればという考え方です。

朋美:会員さんにはいいとこどりをしてもらおうかなと。ちなみに市民農園のようにお貸ししていないのは、それぞれに肥料をもってこられると区画ごとに土の成分が変わる可能性が考えられたからです。無農薬で作るというスタンスは変えたくないですからね。

ー好評につき、新規募集はストップしているとのことですが、会員さんが羨ましいです。

朋美:会員さんとは作業中に偶然お会いしたり、感想や応援のお手紙をいただくこともあります。シェアファームをきっかけに農業に興味をもった方もいらっしゃいます。

ー広がっていますね。主力のミニトマトとニンジンが軌道にのってから、そのほかの多品目栽培に取り組まれたのですか。

朋美:いいえ。自分たちで食べる分は作りたいという私の希望で、1年目からいろんな野菜に挑戦したんです。最初は道具はそろっていないし、お世話も行き届かないときもあって大変でしたが、結局はシェアファームの実現につながりました。幸い、収穫は皆さまに手伝っていただいているおかげで、多品種の作物を育てられています。

早智:実はだいぶ喧嘩したんですけどね(笑)

ーえっ?
早智:収益を考えればミニトマトとニンジンの畑を広げるのが自分の考え方なんですけど、妻はそれでは面白くないと。違う野菜を作ってみよう、というんですよね。

朋美:少し前まではシェアファームをやっていても、これでいくら(売上が)上がると?といわれて、うるさーい、みたいな(笑)

早智:種類が違えば栽培方法も堆肥の仕方も違うから手間はかかる。どうすると?っていってバチバチするんです。結局、作業するのは自分なんですけどね。

朋美:大型の機械作業はおまかせしています(笑)。
シェアファームについては最近では、いいねっていってくれるようになりましたけどね。

就農を希望する人と、地域の橋渡しをしていきたい

ーシェアファームを含め、就農されてから約4年間、突っ走ってこられました。ここまでこれた秘訣は?
早智:楽しかったからですね。勉強したことがそのまま現実になる楽しさ。お客さんからおいしいという評価ももらえます。自分がやりたいと思ったことに対して対価がもらえて、それで暮らしていけるってありがたいですよね。

朋美:いいパートナーを見つけられたことです。女性一人で食べるための農業だと、きっと大変で、心が折れていただろうと思います。私は理想ばかり追いかけていて、夫が地に足をつけてくれていたから、大きな失敗をせずにこれたかなと思います。

早智:逆に自分はめっちゃ地面しか見てないから(笑)。妻にいわれたんですよ、自分が妻の肩車しているようなものだって。下にいる自分は地面を見ていて、上の妻がうんと高いところからいろんなところを見ている。それで伸ばしていける関係性なんだって。バランスがとれるって。

ーいい関係ですね。
早智:シェアファームもそんなのお金にならないよ、って自分はずっといっていて、でも続けるって3年前からやってきた結果、お客さんともつながれるようになったし、多品目野菜を作っているおかげで今、マルシェにも出られるわけですから。

朋美:お金にならーん!といわれても、「じゃあどうやったらできる?」と詰め寄ったら(早智さんが)聞き入れてくれて。切り捨てずにいてくれたからやっていけたなと思います。

ーこれから挑戦したいことはありますか。
早智:新規就農を目指す人が農業を始めるハードルが下がるように、自分たちができることをしていきたいですね。たとえば研修に来てもらって、自分たちが空き家を探したり、農業機械を貸したり。また、新規就農者だと地主から、なかなか畑を借りられない面があります。そこを自分たちが間に入って「一緒にやりますのでよろしくお願いします」といって信頼を得ながら周囲とつないでいきたい。就農希望者にもウィンだし、うちにとっても働き手が増えることになるし、地域にとっても農業の担い手が生まれることになってみんながウィンウィンになるかなと。

にんにく植えの農業体験を行った際の集合写真

ー福岡県朝倉市杷木にフリーハウス「ほしまる」という場所をつくり、新しいことを始めようとしているそうですね。
朋美:「ほしまる」は自分たちがずっとやりたかったことをやれる場所なんです。

「ほしまる」の掃除風景

早智:古民家を改装して、一階は食事スペース、二階が大広間という造りです。いちばんはそこでうちのニンジンの生搾りジュースを飲んでいただきたくて。自分はここでアートもしたいと思っています。

朋美:ギャラリーをしたり、レンタルスペースをしたり、クラフト作家さんの場所にしたり。屋号は「ほしまる」で11月に一部オープンになりそうです。

「ほしまる」の改装中の風景

早智:ほかには個人宅配を初めて、畑をもう少し広げていきたいですね。

ーますます広がっていきますね。本日はありがとうございました。