“刈れる”だけじゃなく“使いやすい”を10年間、願い続けた営業マンの話。
ORECでは、これまでに約200種類以上の草刈機や管理機などを開発しています。犬を散歩するような感覚で斜面を草刈りすることができる「スパイダーモアー」、ゴーカートのような感覚で草刈りをすることができる「ラビットモアー」など。草刈機も場所によって様々なタイプがあります。
そんな多くの草刈機を開発してきたORECが、昨年11月に新発売した草刈機、"正逆ブルモアー HRS815"。
ブルモアーシリーズはハンマーナイフがついており、長い草を刈るのに適した製品です。このシリーズの1種である正逆ブルモアーは、2m以上の長い草も粉々に粉砕し、ナイフの回転方向を切り替えることで小石の飛散を抑えることができるのが特徴です。
この正逆ブルモアー、実は最初の提案から製品化に至るまで、途中で何度も開発が見送りになっていました。
しかし一人の営業部員が、根気強く開発要望を出し続けた結果、その熱い想いが叶い、晴れて10年越しに販売が実現した機械なのです。
今回はその正逆ブルモアーが誕生するきっかけをつくった営業部員に、「正逆ブルモアーの誕生秘話」や「販売へと漕ぎつけるまでに懸けた熱い想い」を聞きました。
約10年前に現場体感を通してひらめいた一つのアイデア
前田さんが初めて正逆ブルモアーの開発提案をしたのは、約10年前のこと。
「今ではブルモアーシリーズは、ORECの主力製品として年間約1万台以上を送り出していますが、当時の台数は1/3程度でそれほど売れていませんでした。どうしたら売れるのか、次のネタを色々と探していて…その時に大型草刈機で飛散しないものがあると気づいたんです。販売店の方に『ナイフが反対に回ると物が飛ばないでしょ』と言われたのが最初のきっかけでした」と前田さんは振り返ります。
一般的に草刈機は飛び石などが前方に飛散しやすく、周囲に危険が及ぶことがネックとなっていました。どの会社も飛散を軽減させるために、対策としてナイフ部分にカバーを付けるなど試行錯誤していましたが、安全性と機械性能が反比例する難しさが長年の課題に。
前田さんの気づきとなった大型草刈機は、ナイフの回転方向を正常の反対方向に回すことで飛散を軽減していたのです。
その他の会社でも、同じようにナイフの回転方向を切替えることができる製品はありましたが、どれも大型で600万円以上とかなりの高価格帯でした。さらに、前田さんは緑地管理会社の方から「大型草刈機は全長が約3mあるため小回りが利かず、狭い道での作業には不向きなので、結局刈払機や手作業で刈る必要がある。けれども、飛散リスクや作業者の身体的負担が大きい」といったお悩みを聞いていました。
そこで「小型クラスで同じ仕組みの草刈機があれば、大型草刈機で刈れない場所を刈れるようになるのでは」と考えたのです。
開発要望を提出するも、何度も却下に
前田さんはすぐに、既存のブルモアーシリーズのナイフの回転方向を反対に回す仕組みを備えた、飛散を軽減するモデルの開発要望を提出します。
しかし、社内の承諾が下りず却下に。
実は前田さんの要望を受け、開発担当者がすぐに試作機を製作しましたが、ナイフの回転方向を反対に回す技術は既に他社が特許を取得していたため、使えなかったのです。さらに、前方への飛散は減るものの、逆に作業者に飛び石が飛び、危険があるとの意見もあがりました。
その当時の心境を前田さんはこう語ります。「本社内で開発中止が決定してしたことを知り、とても残念でした。けれど、そこで諦めることなく、再度開発部に要望を提出しました。『前に飛ばないことを解決した結果、後ろに飛ぶことが危ないならば、前にも後ろにも飛散しない工夫も考えてもらえないか』と。その際に追加で他社製品を使用している農家の方にヒアリングした情報や他社事例、営業ならではの情報を共有し、少しでも開発が進む一助になれば、と自分にできることを行いました」。
より安全に、快適に使える草刈機の開発を目指して
前田さんが正逆ブルモアーの開発にこだわった理由は所属しているエリアならではの特徴もありました。前田さんのいる関東地方は人口が多いため、人や車に十二分に注意し、草刈りを行う必要があります。緑地管理会社の方も飛散防止ネットを張りながら従来のブルモアシリーズを使って草刈りをしていました。前田さんは担当エリアならではのそんな状況を知っていたので「少しでも作業者の方が楽に、安全に草刈りをして欲しい」「飛散しにくい草刈機があれば」と思っていたのです。
そうして何度も本社とのやり取りを進める中、やっと想いが通じ本格的に製品開発がスタート。それは前田さんが開発要望を提出した7年後のことでした。
その後、開発担当者もどうすれば作業者へ小石などが飛散をしないか、他社とは異なる独自の仕組みを取り入れることができるか、試行錯誤を重ね3年間開発に努めました。
そんな様々な社員の想いから完成したのが「正逆ブルモアー」なのです。
数回の開発中止に直面しながらも、諦めなかった理由
途中、開発が頓挫しつつも、なぜそこまで粘り強く要望し続けることができたのでしょうか。それは前田さんの「世の中にないものを誰よりも先につくる」という創業者精神が身についていたことが肝のようです。
前田さんは普段から営業活動や現場体感をする中で、ユーザーのお困りごとに耳を傾け、それを解決できる製品を生みだすことはできないか、常に考えながら業務にあたっています。「安易に他社の物真似をした製品を出しても勝てない。また、物真似するならば他社を圧倒するほどのスペックがいると思う」と前田さんは語ります。
飛散をしない仕組みは、他社の大型草刈機と同じ原理ですが、正逆ブルモアーは他にはないサイズ感で、軽トラックに積むこともでき、農業従事者でも緑地管理会社でも使いやすいことが最大の特徴です。更に、他社が600万円台の中、100万円台と低コスト。
ORECだからこそ生み出せるメリットを見つけたのです。
約10年越しに完成した正逆ブルモアーを見て、前田さんは「やっとできた。という気持ちが強いですね。この機械は農家の方以外にも需要がある製品だと思うので、これを皮切りに、農業従事者以外の顧客軸を開拓していきたい。今後、農業人口は減少していく一方なので、今の販売台数を維持するためには非農家へのアプローチが必要になっていくと思います」と今後を見据えた気持ちを話してくれました。
このように現場の声を聞き、その声をもとに製品化へ結びつけることは誰もができることではありません。
最後に前田さんに仕事におけるポリシーを聞くと、
「基本的には人が人を呼んでくる。なので、人を大事にする営業をしたいですね。そして、OREC社員である自分たちが製品を気に入って、楽しんだ上でお客様に売り出していくことが重要だと考えています。自分が気に入っていないものは売りにいけないし、笑顔で売ることもできない。それはOREC製品を売ってくださる販売店の方も同じだと思うんです。だから、私は関東営業所の所長としてまずは、職場環境を良くし、ORECを楽しむ、草刈りを楽しむ、製品を楽しむ、流れにしていきたいです」と笑顔で語ってくれました。
前田さんの強い想いで製品化した”正逆ブルモアー”。
お客様と一番接する機会が多い営業部員が現場の声をしっかりと社内に届けることで、お客様に役立つ製品をつくることができています。実際に手を動かして製品化に導くのは開発社員ですが、前田さんのように営業部員も創業者精神である「世の中に役立つものを誰よりも先に創る」を胸に刻み、仕事に励んでいます。