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食に興味のない夫と真反対の妻との出会いは、まさかの農業スクール〈前編〉

前職時代に家庭菜園を楽しみ、野菜を育てることに興味をもっていた早智さんと、安心できる食べものに情熱を注いでいた朋美さん。二人は農業を支援するスクール主催のイベントで出会い、結婚。現在は研修先で学んだミニトマトとニンジンの栽培を主に農業を営んでいます。4年経った今、当初、5畝(約150坪)だった畑は、2町(約6,000坪)に広がりました。

今泉早智いまいずみさちさん・朋美ともみさん|さちまる農園
ともに福岡市出身。福岡県朝倉市で2018年10月から就農。有機栽培技術のひとつであるBLOFブロフ理論を基盤にミニトマトとニンジンを栽培し、直売所やスーパーで販売するほか、九州各地のマルシェに出店する。ニンジンジュースなど六次産品も生産する。
BLOF理論:科学的・論理的なやり方で農業を営む、有機栽培技術のこと。アミノ酸やミネラル分の供給、土壌改良などを組み合わせる。環境に配慮している点で持続可能な農業とも位置付けられている。

農と食への興味関心はだいぶ違っているけど…

ー出会いは農業関係のスクールとのことですが、そもそもお二人が農業に関心をもった時のことを話していただけますか。

早智:愛知県でカメラマンをしていたとき、家庭菜園を楽しんでいました。種から芽が出て実がなることをすごいと思っていて。でも肥料がないと育たないことも知らず、同じ土を3年使っていたんですね。なんで翌年には育たなくなるのかと不思議に感じていたときに、大学の同級生から朝倉に微生物や土のことから学べる学校(アグリガーデンスクール&アカデミー 福岡・朝倉校)ができると聞きました。関心もあったので体験入学に参加したら、研修先の農家もあるとのことで。これは実家もある福岡県に帰れ、ということだなと。

朋美:私は自然派の農業に熱心だった母から影響を受けたことと、食物アレルギーに関心があったことから、無農薬野菜など自然に近いものに興味をも持ちました。パートで農業のお手伝いもしたりして。
そして2017年に前述の学校のキャンプに行ったのがきっかけで夫と出会って、農業に携わるようになりました。

ー出発点はまったく違いますね。

朋美:私は食に気をつけていて農業に出会いましたが、夫は家庭菜園はするものの健康や食の安全はむしろどうでもいいっていう考え方で(笑)
びっくりしたのが晩御飯の献立が空芯菜の炒めものと、ハイボールだけとか。

早智:あはははは。

朋美:冷蔵庫にはチーカマとパンしかなくて。これだけを食べよると?ほかになんもないと?みたいな状態でした。

早智:食についてはそうですね。家庭菜園をしていたものの、育てることにしか興味がなく、食べ物には気を使っていませんでした。 農業は会社で疲れた人が行き着く癒しの場だと思っていました。実は無農薬とかも、何それ?って感じで(笑)。

ー一緒に農業するようになって、食に関しての変化は?

早智:いやぁ、そうでもないかもしれないけど、自分が作っている野菜はやはりおいしいですよ。でも農業に関しては喧嘩しっぱなしですね。

初心者でも取り組めるBLOF理論の有機農法

ー無農薬って何? だった早智さんでしたが、農業スクールでの学びを経て今は農薬を使わないBLOF理論の農業を貫いていらっしゃいます。

早智:科学的根拠に基づいて原因究明ができるという点で、農業に入ってきたばかりの初心者でもきちんとやればできるのがBLOF理論です。

朋美:学校では他にもいろんな栽培方法を習い、さまざまな選択肢がありました。なかでも原因と結果を数字で把握でき、確実に技術を高められて、収穫量も増やしていけるBLOF理論を夫が選択したんです。

ー現在、有機栽培の野菜を直売所やスーパーで販売するほか、九州各地のマルシェに出店されていますが、手ごたえはどう感じていらっしゃいますか。

早智:おいしいっていってもらえることが増えましたね。ニンジンといえば、さちまる、というように定着してきたような気がします。二人の写真入りのシールをニンジンの袋に貼っているんですけど、あるお店でお客さんから「夫婦の写真が付いたニンジンがほしい」という声があったと聞いて、うれしかったですね。

朋美:うれしいよね。ほかにも袋に貼ってるInstagramのQRコードを読み込んでくださっておいしかった、とわざわざ感想を送ってくださったこともあります。

早智:特に去年はニンジンの収穫量が一気に増えたからいろんなところに出せて、その分お客さんの目に触れる機会が増えたんでしょうね。マルシェに出店しているとウチをめがけてきてくれる方も多くなりました。

朋美:マルシェに会いにきてくれる方が本当に増えたね。

早智:ほかにも○○店に出してくださいと連絡をもらったり…。信頼関係ができあがってきているなって思います。

ーマルシェに出店し直接お客さんとつながるという背景にはどんな考えがあったのですか?

朋美:お客さんと直接やりとりして、こういう風に作ってますと伝えたくて。私も消費者だったからわかるんですけど、買うだけだと見えないものがありますよね。作る人と消費者の距離を近づけたいという思いがあって。夫ははじめ、マルシェに賛成ではなく全然協力的ではなかったんですけど(笑)。

早智:はじめからマルシェに賛成しなかった理由の一つは二人でマルシェに行ってしまうと、現場作業ができないからでした。特にやり始めたばかりのときは売上もあがりませんから。回数を重ねると来た方が次も来てくれるようになって収益が見込めるようになった。何より楽しいしね、というのが生まれてのってきたという(笑)。

朋美:あきらめないで、待つ(笑)ってことです。

考え方は違ってもお互いの意見を尊重しながら農業を営んできたお二人は、ほかにも「シェアファーム」というめずらしい取り組みをしています。後半は他ではなかなか耳にすることがない、このユニークな農業、販売の形について伺いました。

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