見出し画像

ただいま、世界

 旅の始まりは友人と交わした「海外そろそろ行きたいね」の会話。2019年の春に国際線のターミナルに降り立った日からずっと、「海外に旅に出る」ってことが幻かのように思えていた。

 大学生になって初めて海外に行った。フィリピンのセブ島でジンベイザメと泳いで、冒険の楽しさを知った。その時からずっとそばにあった世界は、日を増すごとに遠く、遠くなっていった。留学もヨーロッパ旅行も卒業旅行も、あんなに楽しみにしていたのにもちろん行けずじまいだった。

 それでも旅の楽しさを知り、国内を毎週飛び回った。正直「海外」にわざわざ出向かなくても旅は楽しい、旅は距離じゃないんだと感じていた。世界に飛べない寂しさを、隠していたのが半分。そして本当に日本の魅力に気づけた幸せが半分だった。

 この2年半、"コロナ世代"とか"可哀想な世代"とかそんなイマイチな名前で呼ばれてきて、そんな流れに歯向かうように生きてきた。正解かはわからない、でもずっと、ずっと前進してきた。そしてその転機にはいつも旅があった。

 旅が好きな理由の一つに"優しさを育めること"がある。自分の五感を使って世界を感じれば、違いが間違いでないことに気づく。人と人との違いを"素晴らしい"って思えるようになる。先入観や偏見で固められた壁を崩して、一人の人として目の前の人を捉えられるようになれば、愛も優しさも真っ直ぐに届くようになる。

 もっとお堅くいえば、旅に出て異文化(海外でなくてもいいし大きさは関係なく、自分の今まで持っていなかった価値観や文化のこと)に触れて違いを許容することを育むと、隣人を愛する心が芽生えて世界が素敵になるということ。

 旅への一歩を踏み出すこと、旅をし続けること、旅でする一つ一つの選択が自分も人もそして世界も変えていく。そう思ってこの2年半も足を止めなかった。

 そんなこんなでそこそこ長い月日が経ち、その間に私は学生生活を終えて社会人になった。まさかこんなに世界に出るまでに時間がかかるとは思っていなかったけれど、今回の旅には大きな意味があると思っている。

 社会の風潮にちょっとだけ先駆けで海外に行って、旅の面白さを伝えられたらきっとこの夏、一歩踏み出してみようと思える人は増えるだろう。

 大きな力はなくとも、少なからず自分の周りの人の背中を押すことはできる。それが輪のように広がり社会の流れは変わっていく。大好きな旅のために、観光復興のために、いま旅に出ることはすごく重要なことなんじゃないかと、漠然だが思っている。

旅は他火、そして他日。

飛行機を降りたら久しぶりの、世界です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?