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歴史映画『クロムウェル』(1970 英) ~CGの無い半世紀前の名作で17世紀の野戦の迫力を体験する

PROPMASTERS より (英語版予告編)

清教徒革命(イングランド内戦)を扱った、史実に忠実なイギリス映画です。なんだか昔のゲームソフトみたいなパッケージですが、中身はまったく古臭くなく、半世紀も前の映画とは思えないほどです。

クロムウェル(1970)
出演: リチャード・ハリス, アレック・ギネス, ロバート・モーレイ, ドロシー・テューティン
監督: ケン・ヒューズ
ディスク枚数: 1
販売元: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
DVD発売日: 2009/08/05(廉価版)
時間: 140 分
制作国:英国
制作年:1970年
定価: 1480円

鑑賞メモ

主人公はタイトルどおりクロムウェルですが、現在でも評価が分かれるといわれる彼を、良い意味でも悪い意味でもよく描けているといえるでしょう。国王の台詞にも「腹黒い男だ」というのがありましたが、それに加えて、クロムウェル自身に私恨と思われても仕方のないような台詞が多々あったり、独善的で、なにかというと武力で議会に圧力をかけているので、個人的にはあまり共感はもてませんでした。

逆に対立軸が国王のチャールズ一世なわけですが、彼にかなり同情的に書かれたシナリオです。国王にも良くない部分はたくさんありますが、「国王」としてのその行いはすべて筋は通っています。決して彼自身暗君には描かれていませんし、ヒーロー対悪の単純な図式でもありません。いずれにしても、両者がイングランドを良くすることを考えていたというところは共通しています。むしろクロムウェルの敵は、国王ではなく議会内の腐敗した派閥のほうだったのかもしれません。

野戦

イギリスの愛好家による「三段撃ち」再現

ストーリーはこれくらいにして、この映画も軍制改革期の戦闘を映像で見るのにかなり適した映画です! 映画の前半では、

  • エッジヒルの戦い(国王側の勝利) 1642/10/23

  • ネイズビーの戦い(議会側の勝利) 1645/6/14

の2つの野戦のシーンがあります。この2つの戦いの合間に、エッジヒルの敗戦の反省から、クロムウェルが寄せ集めの兵を強化する訓練をおこなっているシーンもあります。のちに「新型軍(ニューモデルアーミー)」と呼ばれるものです。2つの野戦ともに、お天気の日に、全体の見晴らしの良い場所(ひつじがたくさん居ます…)での撮影です。人数もかなり使っていて、CGのない時代の迫力があります。

国王軍は赤が基調の制服にメインは国王の紋章旗、議会軍はエッジヒルでは烏合の衆的なばらばらの格好ですが、ネイズビーになるとそれなりに揃った服装に変わっています。議会軍の旗は白地に赤のイングランド旗(現代のサッカーのイングランドもこれですね)や、英語の標語らしきものを書いた旗なんかが多かったです。

新型軍の騎兵はグスタフ二世アドルフ時代のスウェーデン兵をモデルにしているといわれており、映像でも軽装にサーベルチャージです。思った以上に縦横無尽に駆け回っているので、けっこう機動性は良かったんですね。奇襲用の騎兵を木陰に隠しておく戦法もとられています。歩兵はマスケット銃兵とパイク(長槍)兵です。国王軍のマスケット兵は、前進しながらのカウンターマーチだったので、こちらもスウェーデン風ですね。いずれの側でもまだ銃架が使われています。また、野戦砲も双方けっこうな数を配備していました。実際はこの時代のイングランドでは、野戦砲はまだほとんど使われていません。

プリンス・ルパート

unknown (19th century) ネイズビーの戦いのチャールズ一世とプリンス・ルパート(歴史画)

ほか、個人的にイチオシは、カンバーランド公ルパートです。(英国では「プリンス・ルパート」として有名ですが、映画中では「パラティン伯」と呼ばれていました。どちらも正しい呼び名です)。プファルツ選帝侯フリードリヒ五世の三男で、ウィレム一世から数えるとひ孫にあたります。十代の頃は両親の亡命先のオランダで、オランイェ公フレデリク=ヘンドリクの攻囲戦に参加し軍事教育を受けました。母親がチャールズ一世の妹エリザベスなので、チャールズ一世の甥にあたり、その縁でイングランドでは国王派として参戦しています。

この戦いの頃は、血気盛んな二十代前半。国王の騎兵隊を率いて大活躍しますが、最終的には敗戦の責めを負って国外退去になってしまいます。史実では議会の決議によるものですが、映画では国王から退去を命じられていました。プファルツの色が青と銀なので、作中でもいつも青地に銀色のきんきらきんの服を着ています。ちゃんと凶悪なプードルも戦場につれてきていました! ちなみに、クロムウェルの騎兵隊を「鉄騎隊」と呼びますが、このあだ名をつけたのもルパートだそうです。

本館の記事はこちら。


To Kill a King(邦題:クロムウェル~英国王への挑戦~

2003年の映画『To Kill a King』(邦題:クロムウェル~英国王への挑戦~)も同じ時代を扱っています。見せかたがだいぶ違うので比較するのも面白いです。日本語版はケーブルテレビ等でしか放送しなかったようで、英語版を観ました。

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