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歴史映画『神聖ローマ、運命の日 オスマン帝国の進撃』(2012 イタリア・ポーランド) ~戦闘シーンにステータス全振り!何も考えず観るべきシンプルな制作国万歳映画

オスマンが攻めてくる! 圧倒的不利な神聖ローマ帝国を救ったのは、イタリア人修道士とポーランド国王だよ。…というのがあらすじのすべて。シンプルな制作国万歳映画です。本来のウィーン救援の日は9月12日なので、敢えて9.11にしてあるのには、若干西側の意図が見え隠れしている気はします。

alcine-terranによる公式動画

公式サイト: 神聖ローマ、運命の日 オスマン帝国の進撃 (リンク切れ)
出演: F・マーレイ・エイブラハム, イェジー・スコリモフスキー, エンリコ・ロ・ヴェルソ ほか
監督: レンツォ・マルチネリ
言語: 英語
字幕: 日本語
原題: 11 SETTEMBRE 1683
製作: イタリア・ポーランド
配給: アルシネテラン
販売元: エプコット
公開: 2012年、日本公開: 2014年4月19日、日本語版DVD発売: 2015年1月9日
時間: 120 分

鑑賞メモ

日本公開に先駆けての公開は2012年。英語のレビューをオオタさんが抄訳してくださってます。

まあボロクソでひどいものです(笑)。でも、これはおそらく、CGを駆使した大掛かりな近代戦(または逆に古代)の映画を良く観るガイジンさんたちのレビューじゃないかと思うのです。とりあえず、17世紀ヨーロッパでは両軍合わせても10万人規模になる野戦は稀、と念頭に入れておきましょう。ウィーンの守備隊が15,000人「しか」居ない、ってきいたとき管理人は、めちゃくちゃ多いじゃんさすがウィーン、って思いました。17世紀前半のオランダの守備兵なんて数百人単位ですからね。

もっとも、オスマン軍が30万人というのは19世紀のソースによる数字なのでやや誇張気味と思われ、たとえば『戦闘技術の歴史』では12万人とされています。劇中でもいちおう、「娼婦やハレムを加えた数」っぽく言ってましたね。

要は、

  1. 細かい史実は気にしない →端折りすぎの感はありますが。

  2. ストーリー性は求めない →歴史映画で二兎を追う必要は無いと。いや追ってるんだけど。

  3. CGは気にしない →確かにこれはひどかった…でも戦闘シーンはちゃんと実写だから評価大。

の3つを心がけるだけで、専門外でも大雑把な因果関係がわかりやすい映画と思います。時間軸が短いので、おそらく歴史にそれほど詳しくなくてもあらすじから取り残されるということはなく、起承転結もしっかりしてます。見た目の恰好からして違うので、敵味方も明確。日本語字幕もわかりやすいしセンスいい。レオポルドの「Oh, my God」三連発を、「いかん」「ダメだ」「話にならん」と訳したところなんか絶妙!

残念なのは、パンフレットに見慣れぬ写真が複数載っていたのと、英語版DVDが134分なので、日本公開版はいくつかのシーンがカットされている可能性が高いということ(すみません英語版観てません)。ヤン三世が息子連れで正装している姿なんかは映画内に無かったと思います。日本語DVDも完全に映画と同一で、カットシーンやおまけなど一切収録されていません。

画像:Juliusz Kossak (1882) 「カーレンベルクの戦い (1683)」(歴史画) In Wikimedia Commons

ところで初回観たときに一瞬だけドイツ語が聴こえた気がしたんですが、やはり1ヶ所だけありました。決戦を前にして修道士マルコが全軍の前でミサをおこなっているシーンの最後。「続いて唱えよ」以下の部分のみが全編通してここだけドイツ語です。その他の祈りのシーンではマルコはラテン語で唱えているので、神聖ローマ帝国軍兵士の大半がドイツ語話者ということを意識した演出でしょうか。

総じて個人的な評価としては、『アラトリステ』と双璧を成す、17世紀の戦闘の優良サンプル映画と思います。この場合ストーリーは置いといて、あくまで「戦闘シーンのサンプル」です。

『アラトリステ』では物語の中盤で攻囲戦(ブレダ攻囲戦(1624-1625))と、ラストシーンで野戦(ロクロワの戦い(1643))が描かれていました。『神聖ローマ』でも中盤に第二次ウィーン包囲、後半がカーレンベルクの戦いで、攻囲戦と野戦の順番は同じです。

アラトリステ

  • 地下坑道内での毒ガス(硫黄)攻撃

  • 攻囲キャンプ内の様子

  • スペインテルシオ

  • カウンターマーチ的なもの

  • フランス重騎兵によるサーベルチャージ

神聖ローマ

  • 地上でのオスマン軍による塹壕掘削

  • 地下坑道から火薬で稜堡を爆破

  • 稜堡内外でのスカーミッシュ(擲弾も有)

  • カウンターマーチ的なもの

  • 馬防柵と撒きびし(?)

  • 双方の複数種類の騎兵によるチャージ(弓騎兵もいる!)

こうして書き出してみると、とくに攻囲戦のシーンでは案外パーツがかぶっていないので、この2つの映画を観るだけで17世紀の攻囲戦はだいたい網羅できそうです。この『神聖ローマ』では大砲もけっこう重要視されてました。いくらなんでも弾飛びすぎじゃ?って誰もが抱くであろう疑問はともかく、山頂への運搬に手こずってる様子なんかは非常に良いです。男手は、金ぴか鎧の国王すら総動員。「陛下に何をさせている!」と慌てる将校もいい感じ。

ちなみに、塹壕掘削のシーンにあった塹壕のかたちは、ちょうど下の画像のような感じでした。オランダでの斜めジグザグのかたちと違って、十字路のあるパーム型です。塹壕の中継各所に設けられる砲撃陣地も無いようです。

画像:Frans Geffels (after 1683) 「カーレンベルクの戦い (1683)」 In Wikimedia Commons

しかし確かに、人物描写には賛否両論あるでしょうね。カラ・ムスタファは本国にいるシーンではカッコよく描かれていますが、戦場に出てくると、周りの将軍の至極全うな提言すら即却下するようなダメ司令官です。

片やウィーン側の会談も、この緊急事態に血筋だなんだと体面ばかり気にする将軍たちはみんな無能ばかり。挙句、レオポルト一世はスタコラ逃げちゃうし、戦場に残った妹エレオノーレのほうがよっぽど男前です。エレオノーレの夫君のロレーヌ公(パンフレットの人物紹介欄で「レオポルト一世」として載ってる写真はロレーヌ公ですよ…公式サイトのほうは修正されてましたが)も、カツラ着けて宮廷に居るよりも城塞の上に居るほうが絵になるイケメン司令官ですが、いざ野戦となると、退却するだけの簡単なお仕事しかしません。常にロレーヌ公の横に居たのがプリンツ・オイゲンでしょうか。「私の兵1000人」をドヤ顔で強調するKY感は若さゆえか。

一方、守備隊の司令官シュターレンベルク伯はちゃんと軍人しててカッコいいです。律儀に出演シーンぜんぶ金羊毛騎士団章を提げています。管理人がいちばん好きなシーンは、頭に包帯巻いたシュターレンベルク伯が、「バスチオン!(稜堡)」って叫んで走ってくシーンだったりします(笑)。中間管理職的軍人の典型という感じで。

もちろん、最終的には後半に突如現れるポーランド軍が、制作国チートでおいしいところをみんな持っていってます。そのためにオスマンもウィーンもマヌケ揃いにしたのかと邪推したくなるくらい。ヤン三世は、自ら先頭に立って砲も運べば、サーベルチャージ(ひとりだけ曲刀)も先頭。映画のポスターなどキャッチとしてウィングハサーが使われているけれど、カメラは常に国王中心なので、ウィングハサーはめちゃめちゃ目立つって感じではないです。史実はどうあれ、せっかくなので、王子にも羽根つけてあげても良かったのでは。

というわけで、さいごに管理人の好きなポーランドボールのカワイイやつ貼っときます。

ポーランドボール In Wikimedia Commons

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