きつね銀行
大きな森がありました。
森にはたくさんの生き物が暮らしています。
あるとき、きつねが考えて、どうぶつたちのために、
銀行をつくりました。
きつね銀行ができたのです。
りすがやってきて、『木の実』
と書かれた ボタンを押すと、
チーン!ジャラジャラ ジャラッ
といって、じゃぐちのようなところから、
たくさんの木の実が、出てきました。
おさるがやってきて、『りんご』のボタンを押すと、
チーン!ゴロゴロッ
と、かごいっぱいのりんごが、出てきました。
くまが、『はちみつ』のボタンを押すと、
チーン!
とろーり、たっぷりのハチミツが、出てきました。
みんな「べんりべんり、楽しいな」と、
たいへんよろこんで、帰っていきました。
それを見ていたきつねは、
「えっへん!」
すこし、とくいになりました。
そして、つぎの日には、
「あなたの 大事なものを
まもります。きつね銀行に
おあずけください。
きつね銀行は あんしんの
銀行です」
という、大きな大きな広告を出しましたから、
ますます、お客のどうぶつたちは、ふえて、
いつしか背のたかい、きつね銀行ビルがたちました。
ある日、たぬきのお客が、いつものようにやってきて、
『葉っぱ』というボタンを押すと、やっぱり
チーン!
と鳴って、
サワサワ、ワサワサ
と、木の葉がおちてくる……?
はずだったのですが、あらら、出てきません。
「なんてことだ! ちっとも出てこないじゃあないか!」
たぬきは、ポンポン・ポコポコと、
おなかをたたいて、くやしがりました。
「おれの葉っぱを、早く出せ!」
ポンポン・ポコポコと、たぬきは、もっともっと、
大きな音でおなかをたたきました。
順番をまっている、ほかのお客たちも、まちきれず、
「早くしろ! 早くしろ!」
と、さわぎたてました。
あんまりみんながさわいだので、その声は、
銀行ビルの最上階にいる、
きつねの耳にも、届きました。
「おや? 1階が、やけにさわがしいぞ。行ってみよう」
きつねがおおいそぎで、1階行きの高速エレベーターの
ボタンを押したのですが、まるっきり、うごきません。
「こりゃ、困ったぞ。故障した」
あわてて、イタチの修理工が、
『なおす』のボタンを
押したのですが、うんともすんとも、いいません。
あきらめて帰ろうとした、お客のカエルは
『出口』のボタンが、
うごかないので出られません。
「ありゃりゃ! 出られなくなってしまったぞ。
いやだいやだ、だれか助けて!」
銀行のボタンは、どこもかしこも、
うごかなくなってしまったのです。
みんなみんな、たいへん困ってしまい、
泣きだすものも、ありました。
そこできつねは、いそいでコウモリの電気屋さんをよぶと、コウモリは、ごじまんの超音波を、
ピピピピッ、ピピッ
と発射して、こわれたボタンを、
たちまち、なおしてくれました。
でも、どうしたことでしょう。
エレベーターは、うごきだしたけれど、うごきっぱなし。
「出口」のとびらは、パッとひらいて、ひらきっぱなし。
たぬきの葉っぱは、つぎからつぎへと出てきて止まりません。
「なんとしたことか。ぼくの銀行が、おかしいぞ!
たいへんだ、たいへんだ!」
きつねは、大声をあげました。
そのうち、葉っぱのほかにも、
木の実やりんごやハチミツなど、
どうぶつたちが、あずけたものは、ぜーんぶ、
流れ出してしまいました。
そのせいで、きつね銀行の金庫は、すっかり、からっぽ。
きつねは、カンカンにおこって、
「銀行はもうやめだ!」
と、とおい故郷に帰っていってしまいました。
どうぶつたちは、とっても、がっかりしたそうです。
でも、すぐに、みんなもとにもどって、
また、しあわせにくらしています。
きつね銀行は、なくなって、銀行に出かけて行けなくっても、
木の実もりんごもハチミツも葉っぱも、
いつもと変わらず、森には、あったのです。
たくさんたくさん、あったのです。
森は、そんなところです。
おわり
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