#25 この街に「アルビ」のある幸せ
早いものでJ2の試合も残り4試合となりました。アルビレックス新潟のホーム戦は、きょう13日の愛媛戦と、12月5日の最終節・町田戦だけです。きょう戦う愛媛は、前節引き分けた松本と同じく降格圏内に沈んでおり、残留に向け死に物狂いでくることでしょう。
しかしアルビもここ5試合勝ちがありません。7位にまで下がった順位を一つでも上で終えるために、今日のホーム戦から白星を重ね、ホームでの最終戦にも勝利して4連勝で締めくくりましょう。
来季こそ昇格を果たすためにも、選手たちにはサッカーを楽しみ、個人としてもチームとしても成長を続けていってほしいと思っています。そしてアルベルト監督の下、今季のメンバーが多く残って来季も戦いたいと強く願っています。
さて、今回はある1冊の本をご紹介したいと思います。それは「ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法」(ジム・トンプソン著、訳・鈴木佑依子、東洋館出版社 2021年9月1日初版)という本です。
まだ読み終えていないのですが、ぜひご紹介したいと思ったのは、「一般通念では、スコアボード上で勝つことに集中すれば、勝てる可能性が高まると思われている。しかし、スポーツ心理の研究でわかり始めてきているのはその逆で、スコアボードを意識すると、スコアボード上で勝利するする確率が低くなるということである」という記述に出合ったからです(本書50ページ)。
著者によりますと、英国のスポーツ心理学の教授の研究では「勝つことではなく、熟達することに集中するよう指導された選手の方が、より多くのメダルを獲得し、スコアボード上よい成績を上げていたことがわかった」というのです(メダルを獲得したとあるのは、2000年のシドニー五輪のことで、15種目のスポーツを代表するアスリートとしてノルウェーとデンマークの62人について研究したとのことです)。
これを著者は、「これは『勝つのは大抵の場合、より勝つことを意識したチームや選手である』というスポーツの大神話に反する事実である。私は監督がこう言うのを幾度となく耳にしてきた。『あのチームが勝てたのは、勝ちたいという気持ちが相手より強かったからだ』と。」と表現し、続けます。
「一見信じがたいことかもしれないが、ご自身のスポーツ経験を振り返って考えてみてほしい。何か本当にほしかったとき、その強い気持ちが逆に妨げになってしまったという経験はないだろうか。研究の結果、選手がスコアボードの数値に集中すると、ある現象が起こるということがわかってきている」。
「それは、選手の不安感が増幅されるというものである。スコアボード上の勝利が何よりも大事だと考える選手は、『負けてしまうのではないか』という不安を感じ、貴重な気力を費やしてしまう。問題となるのは、不安になったり緊張したりすると、失敗しやすくなってしまうということだ。失敗を恐れるようになると、ためらったり臆病になったりしてしまうのである」。
「不安を抱き始めると自信をなくしてしまう。自信喪失は、パフォーマンスにも、スポーツを楽しいと感じるかどうかにも影響する。子供たちがスポーツを楽しいと感じると、練習量も増えるし、生産性も向上する」。
「スコアボード上の成果をあげたいと思うと、不安感が増してしまうのはなぜだろうか。それは、スコアボードの数値は自分のコントロールが及ぶものではないからである。人は、自分にとって大事なこと、かつ自分のコントロールが及ばないことに不安を感じるものだ」
「スコアボードの勝利は、選手やチームがコントロールできるものではなく、相手のレベルに大きく左右される。絶好調で過去最高のプレーが続いたとしても、スコアボードでは負けるということもあり得るのである」。
私はウン、ウンとうなずきながら読みました。アルビの選手たちも、昇格のためにはこの試合に絶対に勝たなくてはいけないという「スコアボード上の勝利が何よりも大事だと考える」ことで、失敗しやすくなっていたのかもしれません。
本書には、こんな記述もあります。「シーズンが進み、試合の重みが増し、監督として(また、まわりの人々も)勝ちたいという思いが強くなると、熟達への意識が弱まってしまうことが多い。熟達することに集中すると、元々の実力よりも高い実力を発揮したり、トーナメント出場権を得たりするかもしれないが、その後知らず知らずのうちに得点志向の誘惑に負け、そもそもトーナメント出場を可能とした熟達志向を忘れてしまうのである」
「トーナメント出場権獲得までチームを導いた熟達志向が忘れられてしまうと、選手たちは緊張し、ためらいながらプレーすることになり、パフォーマンスは低下する。試合後に、監督や選手たちは『私たちに何が起こったのだろう。なぜこんな大事なときに力を発揮できなかったのだろう』と考えるだろう」。
アルビレックス新潟はアルベルト監督の指導により、昨季は攻撃的なサッカーの土台が築かれ、そして今季は大きく花開きました。しかしまだ、完成されたわけではありません。来季は「熟達志向」を忘れることなくさらに成長し続けて、しっかりとJ1で戦えるチームとなって、J1昇格という大きな実を結んでくれると信じています。
◇ ◇
さて、この本のことについて、もう少し紹介さてください。著者のジム・トンプソン氏は「スタンフォード大学アスレチック・デパートメント(スポーツ部を統括する独立部署)に設置された非営利組織 ポジティブ・コーチング・アライアンスの創始者。スタンフォード大学にて、リーダーシップ、コーチング、スポーツとスピリチュアリティに関する講義を行っている」方だそうです。
まず、「ポジティブ・コーチング・アライアンス」(PCA)の「ポジティブ・コーチング」とは、何でしょうか。本書の26ページにはこんな風に書かれています。「ポジティブ・コーチングの反対は、ネガティブ・コーチングだと思うかもしれないがそうではなく、アスリートや試合の内容には見向きもしない、勝利へのゆるぎない執念に基づいた勝利至上主義の指導方法である」。
それではダブル・ゴール・コーチとは何でしょう。著者は「『勝利がすべて』モデルは、百害あって一利なしだが、単純に排除することは非常に困難」といいます。その上で、「私たちが望むような結果を出すためには、それを排除しようとするのではなく、よりよいものに置き換える必要がある」といいます。
それが、「勝つことを目指しつつ(一番目のゴール)、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教える(二番目のゴール。ただし一番目のゴールより重要)」という、PCAが考案した「ダブル・ゴール・コーチ」モデルです。
そして、それは「ただの思いつきではなく、入念な研究の結果導き出されたものだ。スポーツ心理学、教育心理学、道義付けの心理学、倫理教育などをもとに研究が積み重ねられ、勝利至上主義と比べ、ポジティブ・コーチングは、スコアボード上の結果を出すためにも、成功する人間を育てるためにも、より優れた指導法であることがわかってきている」といいます。
そして、ダブル・ゴール・コーチの二つの目的を合わせると多くの場合「相乗効果が生まれる。目標設定し、自分で立てた目標のために努力する必要性を選手に教えることは、人格形成上よい影響を与えることになる。同時に、よい選手、よいチームとなることにつながる。これは選手と監督にとってWin―Winの状態である。選手たちの人格形成の手助けをしながら、選手たちのパフォーマンスをあげることができるのだ」そうです。
日本でも、行き過ぎた勝利至上主義により体罰や暴言が繰り返されたり、長時間、そして休日のない練習が問題になったりしています。私はスポーツは、著者のいう通り「人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なこと」を学べる素晴らしいものだと思っています。
この本には「競技に敬意を払う」「ダイナミックな練習とチーム文化の創造」「「記憶に残る試合をする」といった章があり、具体事例を多く紹介しながら分かりやすく書かれています。、ユーススポーツに関わる人たちにとどまらず、すべてのスポーツの指導者、選手、スタッフ、サポーター、さらにはビジネスパーソン、学生、子育てをしている方々など多くの方に読んでいただきたいと思います。
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この土日には、サッカー女子とバスケ男女の「アルビ」とも敵地で試合があります。3チームとも現在、なかなか勝ち星に恵まれない苦しい状況にありますが、「熟達志向」を忘れることなく、戦ってほしいと思います。
WEリーグのアルビレックス新潟レディースは、14日の日曜日にアウェーでINAC神戸と戦います。相手は開幕7連勝中で首位です。それに対し新潟Lは3連敗中で、1勝2分け4敗で11チーム中の10位に順位を落としています。
前節は千葉Lに最終盤にPKを決められて0―1で敗れました。DFの浦川璃子選手はツイッターで「3連敗。 苦しい状況が続いていますが、現状を打開していけるようにやり続けます。。次に向けて、前に進みます」、FWの楓香選手も同じく、「それでも進むしかありません。 みんなで光を見つけられるようにやっていくしかない。 自分がチームのためにできることを進んでやっていく」と書き込んでいました。
MFの滝川結女選手は、試合後のインタビューで、次戦に向け「INACは個人個人の技術も高く、みんなが連動して流れの良いサッカーをしてくる」とした上で「チャンスは少ないかもしれないが、自分達の持ち味のスピードを活かしたいし、そこでの連携を練習で上げていきたい。ワンチャンスをモノにできるような連携や声がけなどをもっとやっていかないといけないと思う」と誓っていました。チームは3試合無得点ですが、ぜひチャンスものにして笑顔で試合終了を迎えてほしいですね。
バスケットボール男子B1の新潟アルビレックスBBは13、14日にアウェーで千葉と対戦します。アルビBBは10日に敵地で川崎に敗れ9連敗となってしまいました。この試合は、残り10秒で逆転され1点差での敗戦でした。
平岡富士貴ヘッドコーチは「選手は我慢強く戦えたと思いますがターンオーバーが多かったりチームで決めたやるべきことを遂行できていない時間がたくさんあったので最後勝ちきれなかったのかと思います。連戦が続きますが体調を整えて頑張りたいと思います」とコメントしていました。連敗は多くが接戦の末での敗戦です。下を向くことなく、強豪の千葉に挑んでほしいと思います。
女子Wリーグの新潟アルビレックスBBラビッツは13、14日秋田で富士通との連戦です。ラビッツは開幕から8連敗で白星がありません。対する富士通は町田瑠唯選手ら五輪代表3選手を擁し開幕6連勝中です。
大滝和雄ヘッドコーチは、前節のデンソーとの2戦目の試合後「試合を重ねるごとに成長しているので、もっと育てていきたいと思っています」、金沢みどり選手も「昨日に比べて、自分たちがやるべき事はできたのかなと思います」とコメントしていました。
菅原絵梨奈選手はツイッターで「ひとつずつですが、収穫はあるので次に繋げていきます!」「悔しいこといっぱいあるけど自分には何が出来るのか考える時間でもある。負けたくない気持ちと向上心を忘れずに日々精進」などとツイートしていました。
マネージャーの内藤千佳子さんは、秋田戦に向け、ツイッターで「ただじゃ終われない、ひとつでもふたつでも試合から成功体験と課題を持ち帰ることが大切! あとはみんなが大好きなバスケットだからこそ、楽しくやってほしい」と書き込んでいました。けが人も相次いで苦しい状況ですが、バスケを楽しみ、日々成長し続けていけば、きっといつか結果がついてくると信じています。
「人生は、スポーツと同様に失望の繰り返しである。ビジネスや私生活の諸方面で成功している人たちも、最初から成功していたわけではない。(中略)スポーツを通じて、人生の成功につながる多くの教訓を学ぶことができるが、失敗や敗北を踏み台にして再挑戦することは、その大事な教訓の一つである」(「ダブル・ゴール・コーチ」52p)
結果がなかなか出なくても、課題を見つめ、日々成長し続ける。そんな選手たち、チームから力をもらえる、これも、この街に「アルビ」のある幸せですね。今回は引用が多く長くなりました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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