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空港泊とホームレス
路面電車と洗濯物
だいぶ前にポルトガルに旅行に行った。古い路面電車が狭い路地をガタゴト走っている様子が何とも風情があって、洗濯物とか干してある感じがおしゃれで洗練されたヨーロッパというよりは、下町の気取らない雰囲気があった。物価も安く、観光客も多いし、夜出歩いて恐かったという感じではなかった。
アーティスト、ミュージシャン、ホームレス
街を歩いていると路上アーティストやミュージシャンをよく見かけた。通行人は割と気軽にチップをあげていた。私もつられて、いいなと思う人にチップをあげてみた。何だか芸術に理解のある教養の高い人になった気がして、すごく誇らしい気持ちになった。
そんなアーティストやミュージシャンに混ざってホームレスも沢山いた。飼い犬と一緒に座ってチップを待っている人、スーパーや駅の入り口に楽器のケースを置いてチップを入れてもらっている人、レストランで食事をしていると席にふらっとやって来て、募金してくれと言われたこともあった。
何かアーティストやミュージシャンを見習ってなのか、積極的で服装も小綺麗なホームレスも多くてびっくりした。
彼らはきっとアルコールや薬物依存だったり、色々な問題もあるだろうと思う。スリをしたり、襲ってくることもあるかもしれないから注意はしなければいけない。しかし割とみんなは普通にチップをあげていたし、彼らなりの生き方の自由とか、主体性とか、存在を否定することなく、これが日常の、ただ街に馴染んでいる存在という感じがした。ヨーロッパは個人主義だから、ただ放って置かれているだけなのかもしれないけれど、しかし見捨てられてはいないような気もした。
旅の余韻を味わいたい
ポルトガルを出発する最終日の前日に、ホテルのチェックインに間に合わなかった。前日にスペインに行っていて、飛行機が遅れて深夜になってしまった。ホテルへ連絡すればきっと快く泊めてはくれただろうと思う。しかし次の日、朝早くドイツへ向かう便を予約していた。今からまたホテルへ行ったり、また朝早くに起きてホテルを出なければいけないことを考えると、すごく面倒くさくなってしまった。ホテル代も安かったのでキャンセル料を支払い、結局朝まで空港泊をすることにした。
初めてことだったので、警備員に注意されるかとビクビクしていたけれど、結局何も言われなかった。静かで空いている場所を見つけて座っていたけれど、後になってそこは空港の出入り口の近くで誰でも入れる場所だったということに気づき、ちょっと危なかったなと反省した。空港の有料ラウンジで休むという手もあったけれど、何となくポルトガルを離れるのが名残惜しくて、みんながいる場所にいたいと思ってしまった。
ホームレスが眠る、旅人も眠る
私の斜め前のイスにアフリカ系のカップルが大きな荷物と一緒に寝ている。そして夜が深まってくると、ロビーの入り口からスーッと毛布1つを抱えたヨーロッパ系の中年のホームレスが入って来て、私の斜め前に横になった。しばらくして今度はアフリカ系の割と若い女性のホームレスがまた毛布を持って来て、私の前で眠り始めた。明らかに旅行用の荷物なんて持っていなくて、毛布一枚だけしっかり持って来ている。そして服装は何故だか小綺麗だ。人に不快な印象を与えないように、最低限気を使っているように思えたし、足取りもしっかりしていた。
彼らは静かになった時間を見計らって、迷惑をかけないようにこっそりスーッとやってくる感じだった。おそらく警備員たちには気付かれているとは思うが、迷惑をかけずに気を遣っている彼らを、どこか見逃してあげているような気もした。
彼らはきっと毎日ここで寝ているのだろう。何の違和感もなく空港に馴染んでいた。というか周りの人たちも全然気にしていない。これがポルトガルの空港の夜の日常なのだと感じた。
私のそばでホームレスがすやすやと眠っている。もう危険なのか平和なのかよく分からない。そんな日常の中に私がいることが妙に不思議に思えてきて、色々考えているうちに結局一睡もできなくなってしまった。
しばらく経って、うつらうつらと眠りに落ちそうになった時、たぶん夜が明ける少し前、ホームレスたちはまた静かに起きて2人ともスーッといなくなってしまった。
しばらくすると朝の清掃の人がやって来て、清掃マシーンで床掃除が始まった。まるで清掃の邪魔にならないようにちゃんと時間を知っていて、その前に立ち去ってくれたような潔さをホームレスたちに感じた。その後すぐに朝の始発便のチェックインが始まって、ロビーはまた混み始めていった。
日常のワンシーン
そういえばだいぶ前に『ターミナル』という映画があった。言っておいて私は全然見ていないけれど、空港とか駅とか、何か人が行き交う場所って、色々なドラマがあるように思う。
映画のように愛と感動、スリルとサスペンスという感じではなかったけれど、一晩ホテルにも泊まらず、ただ空港にいる人を眺めて過ごすという不思議な体験ができてとても有意義だった。おかげで帰りの飛行機の中で爆睡してしまったけれど、観光スポット巡りだけでは見ることのできなかったポルトガルの日常の一場面を見ることができた。
楽しむための人生
ポルトガルはヨーロッパではあるけれど、失業率も高かったり、裕福な人ばかりではないと思う。
海外旅行に来てみると、裕福ではなくても自分の人生を生きている人が多いというか、主体的に生きている人が多いという印象を受ける。国によって様々な問題があるけれど、1度きりの人生を楽しんでやろう、という気持ちを感じる。
東京で電車に乗っていると、みんなの顔がとても疲れていてかわいそうに感じる時がある。今はコロナで大変な世の中になって、さらに暗い気持ちになってしまうけれど、『楽しむための人生』という生き方も面白そうでアリだなと、海外の人たちを見ていて感じた。
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