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TDL「ホーンテッドマンション」がファンタジーランドにある理由

東京ディズニーランドのファンタジーランドに存在する「ホーンテッドマンション」。

しかし、海外のディズニーランドと比較すると「おとぎ話の世界」であるファンタジーランドにホーンテッドマンションが存在するのは日本のみだ。


本記事は、ディズニー公式本である ジェイソン・サーレル『ホーンテッドマンションのすべて 』という書籍を参考に、その理由を紐解いていきたい。

各国のホーンテッドマンションの位置


1.ディズニーランド(カリフォルニア)1969年8月9日オープン


Reference:wikipedia



場所:ニューオーリンズスクエア

ニューオーリンズスクエアは、19世紀のニューオーリンズの街が再現されており、TDLでいうとカリブの海賊などが存在する「アドベンチャーランド」に近い雰囲気の場所だ。

外観は、新古典主義風の大円柱を構えたポルチコを備え、バルコニーの手すりや支柱を彩る曲線的な透かしの装飾はニューオーリンズの建築物によく見られる。

ニューオーリンズの建築様式についてはこちらの記事をご参照いただきたい。

19世紀のニューオーリンズなどの南部には、黒人奴隷の労働力によって担われたタバコ・穀物・綿花プランテーションなどで栄えた裕福な白人の邸宅が並んでいた。(『風と共に去りぬ』の世界だ)

もしそのような邸宅が現在まで残って廃墟となり幽霊屋敷となっていたら…。

これが、ホーンテッドマンション基本の世界観である。

このことから、テーマに合わせた時代考証がきちんとなされた建物であることがわかる。

2.マジックキングダム(フロリダ)1971年10月1日オープン


Reference:Wikimedia Commons

場所:リバティースクエア

リバティースクエアは、アメリカ植民時代の18世紀初期のペンシルベニア州フィラデルフィアやマサチューセッツ州ボストンなどアメリカ東岸部の街並みが再現されているエリアだ。

西部開拓時代の街並みが再現されたフロンティアランドにまたがって広がっている。位置関係やゴシック風の外観はTDLに最も近い。

3.東京ディズニーランド(浦安市) 1983年4月15日オープン


Reference:  Wikimedia Commons



場所:ファンタジーランド

皆さんご存知のTDLのもの。クリッターカントリーに隣接してはいるが、完全にファンタジーランドの一角に存在している。

4.ディズニーランドパリ 1992年4月12日オープン


Reference:Disneyland Paris


場所:フロンティアランド

フロンティアランドは、TDLのウエスタンランドの雰囲気に近いエリアで、アメリカ西部開拓時代の街並みが再現されている。
パリでホーンテッドマンションに値するアトラクションが「ファントムマナー」だ。

こちらは外観が他のパークのものとは全く異なり、西部開拓時代や西部劇に登場するような、木造建築のアメリカ風の建築様式となっている。

その理由は、文化コンテクストの違いにある。

先述の『ホーンテッドマンションのすべて 』にこんな記載がある。

「フランスではゴシック様式の邸宅や墓地が身近にあります。毎日のように目にするため、エキゾチックでも神秘的でもないのです」とトニー・バクスターは語っている。
(中略)
フランスと日本のゲストの共通点は、アメリカ西部開拓時代の伝説に魅力を感じるということだった。
卑劣な無法者、カウボーイとアメリカ・インディアン、そして果実をつけた木々が大平原一面に広がる光景は、ヨーロッパでは見られないものだった。
ジェイソン・サーレル『ホーンテッドマンションのすべて 』p.42 講談社 2017年

つまり、アメリカ本国ではゴシック風の建築物は、「異国情緒」を醸し出す重要な要素を担っていたが、ゴシックの本場たるフランスではゴシック建築はありふれていて、アメリカのものと同じ効果を果たすことはできなかったことがわかる。

それゆえ、面白いことにアメリカとは逆の形で、ヨーロッパから見た異国である「アメリカ」を代表するエリアにアメリカ風の建築物として、「ファントムマナー」を設置したということだ。

TDLだけが「ファンタジーランド」に設置された理由

理由その1:おばけ話を「ファンタジー」と捉えている

それでは、この記事の本題「なぜ日本だけがファンタジーランドに設置されたのか」について。

この理由も、『ホーンテッドマンションのすべて 』には以下の記載がある。

場所探しは続き、イマジニアたちは最終的に日本文化の中に答えを見出した。
日本では、幽霊やお化けはおとぎ話や寓話に分類されることが多い。
おとぎ話はファンタジーランドに属するから「ホーンテッドマンション」もファンタジーランドにぴったりというわけだ。
ジェイソン・サーレル『ホーンテッドマンションのすべて 』p.38 講談社 2017年

この記載を読めば、日本のホーンテッドマンションがファンタジーランドにある理由がかなり納得がいく。


Reference:歌川国芳「相馬の古内裏」天保後期
Reference:月岡芳年「新形三十六怪撰 皿やしき於菊乃霊」1890年

確かに、妖怪や幽霊が登場するような怪談は歌舞伎や浮世絵の題材にもおばけを扱ったものは非常に多い。

日本において恐怖を感じるようなゾッとする体験が、古来から非常に関心の高いコンテンツであったことが伺える。

理由その2:そもそも街並みがない



当然だが、日本にはニューオーリンズや西部開拓時代の街並みは実在しない。すなわち、ディズニーランド自体が巨大な「アメリカ」であり、そこにあるものは全て「異国」になってしまう。

すると、なぜニューオーリンズスクエアなのか?リバティスクエアなのか?フロンティアランドなのか?あえてそのエリアにホーンテッドマンションを設置した理由がしっくりこない。(全て異国ならそのエリアじゃなくてもいいじゃん…ってね)

本国で生まれ育っていたとしたら、上記に挙げたなぜそこにあるのかという理由が、言われなくともなんとなく肌で感じられるのではないか?

しかし、我々日本人にとってはどれもこれも身近なものではない故に、他のパークと同様の場所に設置したところで同じ機能を果たすことはできなかったはずだ。

それゆえに、理由その1で挙げたように綿密な「事実」よりも「ファンタジー」要素を強調させ、日本のパークでも違和感がないように注意を払ったことが伺える。

今回は、なぜTDLのホーンテッドマンションだけが「ファンタジーランド」に設置されているのかについて考察した。

今後もホーンテッドマンションに関する謎を考察していきたい。

▼本記事の続編はこちらです

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