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利益のみを追求した最適化は問題の始まり、マーケティングが果たすべき役割とは

※本シリーズはMarkezineでの連載【マーケティングとブランドのシアワセな関係 〜アフターデジタル時代に向き合うマーケターに向けて】全5回の転載となります。第2回となる今回は、カテゴリー・イノベーションを実現する仕組みについて考えます。

スターバックスの利益の得方を考える

 前回の記事では、利益を目的として企業活動を最適化するとコモディティを促す恐れがある、と述べました(詳細はこちら)。

 当たり前の話ですが、企業は利益を得ないと存続することはできません。だから利益を得ることは必須です。しかし、利益を目的に最適化してはいけない。これは一体どういうことなのか、事例をもとに説明してみます。

 ご存知の方も多いかと思いますが、スターバックスというブランドのコンセプトは “Third Place(第3の場所)” です。このコンセプトは、お店を訪れる人に職場と家庭以外の「第3の場所」を提供することへの意志の表明です。

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 実際に訪れてみると居心地が良く、僕も移動の合間にちょっと仕事をしたり本を読んだりします。周囲を眺めると僕と同じような目的で訪れている方の他にも、レポートを書いている学生さん、友人と会話を楽しんでいるグループなどがいて「なるほど、多くの人にとっての『第3の場所』なんだな」と感じます。

 コンセプトは「第3の場所」ですが、お店にあるメニュー、つまりお金を払って購入できるものはラテやドリップコーヒー、そしてサンドイッチなどの軽食類です。場所を利用する権利に該当する商品はどこにも見当たりません。

 これはスターバックスがお客様から利益を得ているものは、コーヒー類や軽食などの飲食メニューであることを示しています。

 つまりスターバックスというブランドは、コンセプトとして”Third Place”を掲げ、お店を訪れた人に「第3の場所」という価値を提供することを目的に店舗を構え、訪れたお客様にラテやコーヒーといった商品を買っていただくことで利益を得ている、ということになります。


企業が利益最適化を求めたときにできること

 一般的に、カフェを始めとした外食チェーン店の多くは、同じブランドならどのお店でも商品の価格を統一している場合が多いので、1つの商品を買っていただいた際に得られる利益は一定です。そのためお店が創出する利益は、(客単価ー原価)×客数で求めることができます。

 この条件のもと1店舗あたりの利益最大化を目的に企業活動を最適化すると、店舗が取り得る手段は、以下のいずれか、もしくは以下をいくつかを組み合わせたものになります。

・一人あたりの買い上げ商品数(会計単価)を上げること

・商品以外のコスト(販管費)を下げること

・お店を訪れる方(客数)を増やすこと

 ある店舗がとても繁盛していて、常に席が埋まっているとしましょう。その場合客数を増やすには(店舗の面積は固定されているので)席数を増やすことはできませんから、お客様の入れ替わりを促さないとなりません。あまりに長居されては困るわけです。

 実際多くの外食チェーン店は、なるべく不快な思いをさせずに席を空けてもらうような仕組み、たとえば食べ終わった皿は適宜片付けていったり、席に着いてから一定の時間が過ぎるとサービスと称してお茶が出てきたりするなど、様々な工夫を凝らしているように思います(「長時間の勉強はお断りします」と記載された紙が堂々と入り口に張り出されているお店もあったりします)。

 さてこの条件は、僕の愛するスターバックスにも当てはまります。でもスターバックスのコンセプトは「第3の場所」ですから、訪れたお客様に早く席を空けなくちゃ、と思わせてはいけません。

 そして、僕の経験上スターバックスで働く店員さんから、早く席を空けなくちゃというプレッシャーを感じたことはありません。それはなぜでしょうか?

スターバックスが長時間いる人に圧をかけない理由とは?

 長時間お店にいてもスターバックスの店員さんからプレッシャーを感じない理由、それはスターバックスという企業が、原則すべての店舗を直営形式で運営しており、「第3の場所」としての居心地の良さを毀損しないようにしているからです。

 スターバックスにおける店舗の役割は、あくまでお店を訪れるお客様にとっての「第3の場所」であること。お店で働く人たちはそのための工夫や努力に集中してもらう。間違っても、利益のためにお客様の入れ替わりを促すような働きかけはしない、そしてそれが起きないように直営店という仕組みを導入している。

 そしてお店があまりに混んでいて、サービスを受けることができないお客様が多いのなら、すぐ近くに新しい店舗を出店する。スターバックスが店舗立地戦略としてドミナント戦略を採用しているのは有名な話です。

 利益を得るためには、利益を得ることのみに最適化してはいけない。スターバックスの事例を通じてご理解いただけたのではないでしょうか。

 お客様に多く来てもらうこと(来店促進)、たくさん商品を買ってもらうこと(販売促進)、それらを第一義の目的にはしていない。あくまで「第3の場所」にふさわしい店舗空間、接客、そして商品の提供に努めることで、結果として来店促進も販売促進にも成功している。

 これは、社会価値を満たすことで結果として経済価値も享受できている状態と言えます。

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 業態という視点で捉えると、スターバックスは数多あるカフェチェーン店の1つに思えますが、実は「第3の場所」という提供価値により、独自のポジションを確立している。これは視点を変えると、スターバックスそのものがカテゴリーである状態、つまりカテゴリー・イノベーションを起こしているのです。

 そして社会価値と経済価値を両立させている要因は、”Third Place”というブランドコンセプトにあります。そのコンセプトを実現するために、すべてのブランド活動は存在している。そしてその結果、お店を利用する方たちにとっての「第3の場所」という価値を提供することに成功しているのです。


マーケティングの果たすべき役割とは?

 さて、スターバックスの事例におけるマーケティングの果たしている役割とはなんでしょうか?

 冒頭にスターバックスというブランドは、コンセプトとして”Third Place”を掲げ、お店を訪れた人に「第3の場所」という価値を提供することを目的に店舗を構え、訪れたお客様にラテやコーヒーといった商品を買っていただくことで利益を得ている、と記載しました。

 これを下の図に則り説明すると「コンセプトとして”Third Place”を掲げ」がSTRATEGYにあたり、「お店を訪れた人に『第3の場所』という価値を提供することを目的に店舗を構え」がProductからPhysical Evidence、いわゆるマーケティングミックス(7P)にあたります。これがスターバックスの行っているブランド活動です。

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 そして、多くのお客様が「第3の場所」としての価値を享受(体験価値)できると、スターバックスの目的は達成できたことになり、社会にスターバックスのブランドエクイティが形成されることになります。これがスターバックスの提供している社会価値です。

 その結果「訪れたお客様にラテやコーヒーといった商品を買っていただくことで利益を得ている」状態が成り立ち、つまりスターバックスというブランドの経済価値も成り立つ、ということです。


マーケティングは価値ありきへ

 このことは、マーケティングを販促として捉えていては、到底成り立ちません。そして、コトラーの「マーケティングとは価値を創造する交換過程をつくる活動である(Kotler and Keller, 2008)」、つまりマーケティングとは価値創造の一環であるという説明は、本当に優れた洞察から得られたものだと思えます。

 だからあえて、マーケティングは売ることを目的にした活動と捉えるのではなく、価値創造活動として捉え、その始点は価値ありきであるべきだということを、声を大にして言っておきます。

 マーケティングにおけるSTRATEGYとは価値を定めること、マーケティングミックス(7P)とは具体的に価値を提供する企業活動のすべて、結果として顧客に支持され創出された体験価値の社会における総和をブランドエクイティという。

 これが僕のマーケティングに対する考えです。

 一握りの優れた経営者によって創出されたブランドも、マーケティングの視点からそのブランドが成り立つ構造を理解することで、再現性あるものへと昇華することができる。今回は、カテゴリー・イノベーションを実現する仕組みについて説明しました。

 次回は、価値ありきでマーケティング活動を捉えた場合より一層重要となる、企業としての価値提供活動であるマーケティングミックス(7P)について、デジタルの発展がもたらす大きな機会について述べていきます。

 それでは。

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