【マーティン・マクドナー特集#1】『シックス・シューター』いきなりアカデミー賞をとった映画1作目とは!
1.演劇界の鬼才、映画界へ!
イギリス演劇界の鬼才、マーティン・マクドナーはインタビューでもたびたび言っているが演劇よりも映画の方に合っていると自分では思っている。
そして満を持して映画界に進出。2004年、監督第1作『シックス・シューター』を撮る。26分の短編映画だが、これですぐアカデミー短編賞を受賞してしまうから、さすがとしか言いようがない。
ちなみにこのあといくつもの傑作長編映画を撮り、アカデミー賞間違いなしと言われた『スリー・ビルボード』が演技部門以外で受賞なし、『イニシェリン島の精霊』にいたっては無冠というあつかいを受けたのとは対象的だ。
2.『シックス・シューター』どんな映画?
本作『シックス・シューター』は26分の短編でありながら異様な切れ味をもった、マーティン・マクドナーらしい映画だ。
妻をなくした男がアイルランドのダブリン行き列車に乗る。そこで相席したのが奇妙な少年(10代後半)で、彼はやたらしゃべりまくり、ぶしつけで無礼な発言を連発し、他の乗客(暗い顔をした夫婦)と揉めはじめる。
つかの間の奇妙な旅といった趣だが、とにかくこの青年(ローリー・コンロイ)が場の空気を読まずしゃべりまくるのがおかしい。なんか、まったく人のことなどおかまいなし。
一方、妻をなくした男(ブレンダン・グリーソン)は静かに堪え忍びながら青年の話を聞きつつ受け流しつつする。その静と動の対比がいい。
そしてこの奇妙な旅は突然、驚くべき展開を迎えるのだ。さすがマーティン・マクドナー!
3.マクドナー節炸裂!
マーティン・マクドナーの物語にはいくつか特徴があって、ブラックユーモアや平然と行われる暴力、そして突然訪れる驚きの展開など、ファンにはたまらない。
それらがこのデビュー作ですでに炸裂していて、書くとネタバレになるので控えるが、そんなことになるの! という驚きの展開はもうめちゃくちゃ。楽しく笑えて、ブラックすぎる。
すでにこの時点で演劇界の鬼才として名高かったマクドナーだけあって、観る者をぐいぐい引き込んでいく魅力がある。ひとつひとつのセリフのよさ、掛け合いのよさ、シーンの切れ味はすばらしい。
基本的に人vs人のセリフの掛け合いというシーンの作り方はまだ演劇をひきずっている印象もある。しかしいくつも映画を作っていく過程でどんどんこなれていくので、1つずつ作品を追っていくと楽しいはずだ。
個人的には、列車内を移動しない車内移動販売員の青年が最高で、ブレンダン・グリーソンとのやりとりは極上。いっけんすると、たわいないやりとりでしかないのにユーモアがふくまれているマクドナーらしい1幕。ほんと、こういうシーンがたまらない。
4.必ず出てくるクソガキはなんなのか
また、この無礼な少年というキャラクターはマクドナー作品の肝。演劇デビュー作『ビューティー・クイーン・オブ・リナーン』(1996年)のクソガキ「レイ」から映画最新作『イニシェリン島の精霊』(2022年)でバリー・コーガン演じる「ドミニク」までたびたび登場し、物語ににぎわいをあたえ、人々を困惑させ、ときに主人公の運命を大きく変える存在となる。
マーティン・マクドナー作品の中でキリスト教は頻繁に出てくるのだけど、は、作者が本当に愛しているのはこの「少年たち」の方なのではないか。物語の中で、「物語の精霊」として存在しているのは神ではなく生意気な少年たちなのだ。
5.どこで観られるの?
わずか26分でいいところをつめこんだマクドナーらしい1作。映画監督としての船出としては上々だ。
↓この映画は、字幕なしだけど配給会社の公式YouTubeで全編観られる。
↓日本語字幕版は『スリー・ビルボード』のBlu-ray、DVDの特典として入っているので、ぜひぜひ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。これからマーティン・マクドナー作品を、演劇作品、映画作品、両方語っていきますので、よければ「いいね!」「フォロー」してください。ありがとうございました。
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