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SaaS経営者のVC資金調達アドバイスからまとめた「SaaS成長戦略大全」※文字数1万字、本30p分

 #SaaSLoversの企画記事です。(小松さん、ご招待ありがとうございます!昨日の小野寺さんも素敵な記事で、明日の田上さんの記事も楽しみです!)
 openpage代表の藤島と申します。弊社はカスタマーサクセス領域のSaaS製品「openpage」を提供しており、普段はカスタマーサクセスに関する発信が多いです。

しかし本日はSaaSの事業戦略・経営戦略・全体オペレーション・プロダクト戦略といった情報を、VCの観点も踏まえながら解説してSaaS成長戦略大全としてまとめる内容にしました。

というのも、VCは本当にSaaS経営に対する思考力/情報量ともにすごく、私も多くのことを教わったため、自分の学びとしてもアドバイス頂いた内容を年度の終わりに整理したいと考えていました。SaaSの経営者や従業員の方にお役立ちできる内容だと思います。
(なお、こちらの記事の内容は、ニッセイ・キャピタル堀田さん、ユナイテッド八重樫さん、ANRI丸山さんなど私と同年代の平成世代のVCの方々には特にお世話になっており、本記事もかなり影響を受けてます。いつもご相談乗っていただいており本当にありがとうございます…!)

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【前提】SaaSスタートアップはVCに依存している

 会社員だった頃は正直ピンと来ていなかったのですが、SaaSの経営者になってわかったことは、SaaSのスタートアップは「ベンチャーキャピタルからの資金に依存する」ということです。

 SaaS事業の始まりは赤字からスタートし、例えば1億円調達した場合は、毎月500万円ずつ使いながら20ヶ月持たせる、といった経営になります。つまり、主に資金面をVCからの調達に依存しているのです。

そのため、VC観点で評価される会社になることも重要です。

VCに資金を依存する

 VCが会社を見る観点は、あくまで金融的にリターンが出るかの観点が中心ではありますが、投資に対するリターンを出すための売上拡大は、主に顧客からもたらされる以上、最終的にはVCの意見も顧客視点に集約されてゆくと思っています。ですから、投資家の観点はSaaSのベンチャー企業に勤めるのであれば自分ごととして参考にしたほうがいいです。

 資金調達に失敗すると会社は死にます。給料が支払い不可になるのです。
私は昔取引していたベンチャー企業がそうなりました。資金調達失敗は本当に洒落にならない自体で、Slackは阿鼻叫喚です。社員全員が混乱し、給料支払いが止まり続ける状態に対し、労基に駆け込む、訴えるといったコメントが飛び交います。

資金調達に失敗したら給料が支払い不可になる

 こうならないように、VCからの評価を意識した事業運営を行うことを、マーケ、営業、カスタマーサクセス、プロダクトなど、どの職種の人も意識する必要があります。また、「この死ぬ気で頑張る」制約がベンチャーを成長させているとも思います。

【前提】スタートアップ企業はユニコーンになること

 様々なVCの方に話を聞きましたが、VCの視点では、SaaSスタートアップに対してはユニコーン企業になることを期待しています。ユニコーン企業とは時価総額1,000億円です。ベンチャー企業ならどんな企業でもここを目線として持たないといけません。

 時価総額1,000億円とはどのような業績か。仮に時価総額を売上のマルチプル(倍数)で考えるPSRをベースにすると、PSR5倍なら売上100~200億円、利益のマルチプルとなるPERであれば、PER25倍なら営業利益40~50億円程度の目線でしょう。

 もちろん、一足飛びに100億の売上は難しいため、まずARR1億、1億にいったら3~5億、次は10億、次は20~30億…といったように、資金調達も重ねながら段階的に達成のシナリオを描いて遠くに向かう必要があります。VCの観点ではそこが確実にやりきれる会社なのか見極められます。ですので、仮にいま3億円の売上のSaaSスタートアップ企業にいても、売上100億が目標と考えると、まだ道の途中なのです。

 私のブログは大手IT企業の方も見ていますので、見方を変えて大手観点でSaaS経営はどう考えるべきか。大手企業もSaaS事業に参入していますが、ベンチャー企業は7年くらいの期間を想定して売上100億を見越した急成長のための投資を進めています。その成長のため、顧客理解、製品開発、計数改善を高速回転させており、大手企業であってもベンチャー企業と同じもしくはそれ以上のマインドで高速の事業開発が必要です。

①誰の何の課題をどう解決する?未来の絵姿まで予測しきる

 どのVCも、当たり前に必ずチェックしてるのは「誰の、どんな課題を、どう解決する」の合理性です。当たり前過ぎて見逃しがちなのですが、ニーズとか解決策が、このSaaSってそもそも大丈夫なのか?は事業運営をする以上、何度でも問いを立ててもいい重要なテーマです。

 ここのロジックが甘いと、「そもそもその業務やったことあるの?業界構造ちゃんと理解してる?そもそもの定性面のロジックが壊れてない?」とピッチの時点で終了…という起業家が本当に多いと聞いています。これはVCでなくとも、顧客への提案時にも同じ問いはあるでしょう。

 SaaSはメンバークラスにおいて「実はこの領域の業務をやったことないけど提案してる」というケースはかなりあります。そうなると提案の解像度が甘くなり、受注率や契約継続率の悪化に繋がりますので注意です。

 また、経営者や責任者クラスには更に上の目線が求められます。ちょうどこちらの書籍「ベンチャーキャピタルの実務」も読んでいる中で、目の前の顧客・課題・ソリューションの理解はもちろん、中長期的な変化も考慮にいれてるのか?市場の進化仮説を持っているのか?という観点も紹介されていました。

 つまり、未来どうなっていくのか?それは世の中がどうなっていくのかの予測という意味合いと、自分らはSaaSとしてどう価値提供していくのか?という意味合いとがあるでしょう。

 どう自社を変化させていくのか?何にお金使って、どんな時間軸でなんの打ち手をするのか?リスクシナリオや不確実性はどんなものがあるのか?その対処法は?これはSaaSの経営者や事業責任者クラスであれば回答が求められます。

 また、逆にこの未来の絵姿までくっきりと解説出来ているのであれば、メディアにも期待されるようなベンチャー企業になるでしょう。

②顧客への集中と拡散が重要

 これはVCの方にもよると思いますが、あるVCの方は「初期顧客の熱狂が必要」とおっしゃっていました。
 初期顧客の熱が強ければ、他のセグメントに拡張していけるのです。例えばFacebookの初期顧客は、スタンフォード大学の中の、あるサークル内にいる人の中でも、創業者の友人・知人の人たちから熱狂がスタートしました。

 この話は、SaaSスタートアップ企業に属してる人と無関係の話ではありません。なぜなら、この初期の熱狂顧客はスタートアップの成長に常に必要な存在だからです。

 売上が100億目標となると、1つのセグメントだけでは足りないことがあり、その場合、複数のセグメントに段階的に展開しなければなりません。SaaSであれば、対象業界や対象業務フローなどの拡張を指します。

 そして、セグメントが変わるとその中の熱狂顧客も変わります。そのため、売上1億を作るための初期顧客、売上5億を作るための初期顧客・・・とセグメントが広がるごとに、連続して新たな熱狂顧客を作り続ける必要があるのです。

 これはある意味で矛盾しています。熱狂とはある意味で集中/絞りなので、自社の顧客に集中しつつ、そこから広げていくという発想も同時に持つということです。一部の人に刺さる事業作り、そこから広がる事業作りの両輪を考え抜く、両方やらないといけないのが経営幹部の辛いところです。

「両方」やらなくっちゃあならない

 さて、SaaSとは基本は業務に関わるものです。SaaSの製品が刺さるとは特定業務の生産性やレベルの向上、広がるとは別工程や別領域の業務への展開を指しています。

これはSaaSの製品提供のあり方を改善して、今より明日をよくする、を毎日やり続けることを高い視座感で行わなければなりません。
 営業マーケティングの方法や、プロダクト開発/カスタマーサクセスによるサービス提供など、常に改善する必要があります。そして、顧客に深く入りながら、別の顧客へ広げていく頭も持つ。集中して拡散するのです。

③営業の受注リードタイムを早める

 VC観点では、資金投入後の資金効率を見る方もいらっしゃいます。SaaSの事業で言えば、受注までのリードタイムが重要ということです。

 どういう事かと言えば、仮に1億投資したときに、商談から受注まで1年かかるなら、投資回収のリードタイムも遅れます。これはハッキリ言ってよほど訳のある製品でなければ投資しにくいようです。

よく、資金調達のプレスリリースに「プロダクト開発や営業マーケの強化に資金を使います」と書かれていますが、投資家の本音としては、プロダクト開発や営業マーケの強化のために資金を入れるとしたときに、なるべくクイックにその効果を見たいようです。

資金効率改善のため受注までのリードタイムを高める

 資金調達後の効果をすぐわかるためには、受注までのプロセスを極限までにスピード感あるものにする必要があります。
受注までを早まるためには、どこか一つの部門が頑張れば実現できる話ではなく、マーケ、インサイドセールス、フィールドセールスの各工程で誰に何をどのように伝えるか戦略的に考える必要があります。
 また、そもそもの製品の強みやUSPに向き合って、社員の力を総結集させて事業改善を続けることもマストです。後述するMOATの創出も忘れてはいけません。

 さらに、営業採用後の立ち上がりも重要です。営業のオンボーディングが遅いと、受注リードタイムも遅くなります。セールスイネーブルメント、提案内容の型化などを行って、早く営業が立ち上がる体制が「VCからの調達観点」でも不可欠になるのです。

営業の立ち上げりもスピーディに

④カスタマーサクセスにおけるオンボーディングを早める

 PMFとは「顧客に売れる」ことではなく、「顧客が成功する」ことをベースに考えるべきだ、ということは既存のVCにも私は言われていることでした。
 売れても「成功」しなければチャーンされ、売上拡大が不可になる。ということは、「成功」の入り口にあるオンボーディングまでのリードタイムもなるべく早めてほしい、というのもVCの方の意見としてありました。

カスタマーサクセスの入り口であるオンボーディングもSaaS事業においては不可欠

 また、製品としてオンボーディングの大変さも見られることがありました。オンボーディングが遅い、してないということは、PMF出来てない、無理やり売っているだけとも言えます。
 ですので、まずオンボーディングを確実にするためにオンボーディングを楽にするための機能、支援、テンプレートなどが必要ですし、そもそもセルフオンボーディングしたくなるような顧客の熱狂も必要となるでしょう。

 カスタマーサクセスがあれこれ言わないと顧客に全く製品を触ってもらえないのは、そもそもの危険信号です。オンボーディング後もアクティブで居続ける状態を維持してもらわなくてはなりません。

 この製品のアクティブ率もVCに見られています。
そこに至るまでのカスタマーサクセスの巧みさはSaaS事業においては必要不可欠です。カスタマーサクセスに関してはnoteやYou Tubeで色々発表していますので、なにか参考になるものがあれば幸いです。

⑤PMFは利用の深さ=課題の大きさ=単価の高さ

 SaaSプロダクトは「PMF」はしているか、顧客に製品がしっかりハマっているのかを当然ながらVCにはしっかり見られます。
 そのため、オンボーディングだけでなく、オンボーディング後(アダプションフェーズ)の製品利用の深さも重要とされています。

 利用の深さとは、業務に欠かせないものになっており、毎日ログインしている状態のことです。顧客の担当者やその先にある部門がこの製品無くしては困ってしまうほど製品に頼っている、データとしてはログイン率、機能利用率などに表れます。

製品利用の深さが重要

 また、大きな課題に対して適切なプロダクトがハマっていれば、自ずと製品単価も高くなります。

 SaaSは仕事のためのツールで、SaaSの価値が出ているということは、顧客の仕事改善に繋がり、財務的に貢献している、つまり売上が上がったりコストが下がったりしている。この顧客の成功効果が高いということはROIが高いということで、つまりInvestment(投資)する金額も高くなる。というロジックです。

 加えて、機能拡張によるアップセルを見ている人もいらっしゃいました。これは既存顧客であっても、SaaSは製品機能の拡張ができるため、機能価値を高めていけば自ずと顧客の投資額も上がっていくはず、という考えからです。

 SaaSは数値で判断できるとVCは捉えており、顧客に価値提供をしている実績が数値で明確に示されていることがSaaSベンチャーの経営において重要です。
 例えば、利用率や平均単価のグラフが右肩上がりになっている。顧客に向き合い、提供するべき価値を探し、製品を提供してカスタマーサクセスを実現する(Return)ことで、適切な単価での請求(Investment)が実現出来ている。この状態を可視化するのです。

 顧客に対する深い洞察、仮説と検証(トライ&エラー)の繰り返しで製品サービスが成長していて、顧客の依存度が高まってることが証明できているか?はVCの方が見ている視点だなと思いました。

⑥追いつくのが難しい競争優位(MOAT)を積み上げる

 目の前の業績やKPIも達成しつつ、競合が敵わない優位性をMOAT(堀)として作れているか?の観点も深ぼって見ているVCの方もいらっしゃいました。MOATとは?は下記の原さんの記事が詳しいです。

 VCはMOAT(堀)が好きです。なぜなら、大きなマーケットで堀があれば、EXIT時に適切なシェア率で売上を達成でき、フェーズごとの投資の期待倍率を叶える成功確率が高くなるからだと思います。

 とはいえ、このような堀となるような競争優位性はすぐに作れるものではありません。短期的ではなく中長期でMOAT(堀)を使っていく必要があります。

中長期で競争優位性を作っていく考え方としては、「デルタモデル」が参考になります。ベストプロダクト→トータル顧客ソリューション→システムロックインの3点を頂点とする三角形で優位性を作るモデルです。

 ベストプロダクトはよく見る3つの競争優位(差別化、集中、低コスト)を差しており、デルタモデルではこれは当たり前にある前提です。加えて、トータル顧客ソリューション(水平展開、顧客体験の再定義、顧客統合)が求められる点が特徴です。

 つまり、SaaS事業であればより広い業務範囲での適応「水平展開」、SaaSによる新しい業務体験「顧客体験の再定義」、顧客業務をSaaSで代替する「顧客統合」を実現することで、製品単体ではなくソリューションとして総合的に価値提供します。

 そしてシステムロックイン(補完事業者の囲い込み、競合締め出し、業界スタンダード)が最後の詰めです。関連会社も含めたプラットフォーム的なSaaSになる「補完事業者の囲い込み」、流通チャネルの支配(チャネルの保有)「競合締め出し」、無数のサードパーティ事業者がいる業界の長になる「業界スタンダード」、ここまで行うことで圧倒的な競争優位を築くことが出来ます。

ベストプロダクト、トータル顧客ソリューション、システムロックインの3点からなる「デルタモデル」

 SaaS事業の戦略としては、まずはベストプロダクトを大前提にしながら、『トータル顧客ソリューション』を築いてMOATを作ることが定石になるでしょう。

 ユニコーン企業を目指すという観点では『システムロックイン』までも見据えて動く必要があります。営業マーケティング、プロダクトマネジメント、カスタマーサクセスの意欲的な範囲拡大をするのです。そしてこれを成功させるためには顧客の解像度の高さがMustになります。

⑦全社で顧客と市場の解像度を高める

 VCの方がどの方も必ず見てる点はなにかと言えば、顧客や成長戦略に対しての解像度を見てるな、と思いました。

 例えば、自社の事業を説明する際に、『どんなペルソナの顧客が、何社いて、どう獲得して、営業/CSのリードタイムはどれくらいで、深い課題は何で、どんな機能を差しにいくいか、どう顧客拡大してくか、何名営業が必要か、最終的なシェアは何%か、成長のための重要な指標は何で、何の施策を仕込むか、その施策のために必要な人はこの人、進めるリスクはなにか…』このあたりの論点を端的に切れ味よく語れるか。

 市場については『市場の現在の規模感、課題の深さ、今後10年の見通し、この市場で勝ち抜くための優位性、スケールするためのドライバー』などが一瞬でパッと頭の回転を回し回答できるか。どんな広さや深さの論点も的確に押さえて思考できてることが求められていました。

広く深く、事業の解像度を高められているか?

 VCにおいては、社内でも報告を上げるにあたって、初期検討が進んだ段階で穴のないように数10~数100問からなるFAQリストを作ります。このリストがないと回答できないくらい、投資委員会の中でキャピタリスト自体も細かく質問されるからです。
 だからSaaSのベンチャー企業はこれに耐えうる回答を持ち合わせる必要があり、マーケットや顧客の洞察は細ければ細かいほどいいのです。

 SaaSであれば『顧客の業務理解はこうで、各業務フローのどの部分を、どんな機能で、どんなUXであれば解決できるか、それで解決出来る顧客は世の中に何名いて、代替品は何で、そこにアプローチする施策はこれ、必要な機能要件はこれとこれ、だからこの機能をいつまでに開発』といった話がパッと出てくる状態です。

 そしてこれは、言うまでもなく経営者だけでなく全社員で出来たほうがいいです。というのも1人のアプローチだけで無数の論点からなる解像度を高めるのは難しいので、現場のメンバー含めてチームで集合知を貯めるのです。

チームで解像度を高める

 そのためには、なるべく言語化し合う文化、論点を建設的に広げたり深めたりするコミュニケーション、現場や顧客の情報を共有し合う習慣が必要です。これらを社員で話し合いをし、顧客や市場はどんな姿をしていて、何を強化して自社は成長していくのかの共通認識を持つと良いでしょう。

※なお、解像度を高めるためには、馬田さんの書籍「解像度を上げる」も参考になります。

⑧顧客セグメント拡張(=市場拡大)の解像度を高める

 この記事の中で何度か顧客セグメント拡張の話をしました。これには、市場規模と獲得しうる顧客数を見据えながら、高い解像度を持って推進しなければなりません。

 VCの方の話を聞いていると、トップダウンの仮説で市場規模を推定するより、生の顧客の単価や顧客数から計算されたボトムアップの市場規模を見ているようです。「市場規模は何兆です!」というプレゼンはやりがちなのですが、曖昧な市場規模のツッコミはかなり激しく行うとのことでした。

 この市場規模については、VCのみなさんはよく不動産市場の例を出します。(僕の周りでは3~4人くらいは不動産市場の話でした…w)というのも、不動産市場というのはたしかに大きいのですが、じゃあことSaaS事業となった場合にはTAM、SAM、SOMの市場規模がかなり絞られてくるのです。

例えば、「不動産市場>不動産仲介市場(TAM)>不動産内見市場(SAM)>不動産内見の物件確認業務市場(SOM)」といった形でマーケットが具体になるのです。その場合、市場規模の計算式の例は下記になります。

・不動産内見に携わっている全国の不動産営業の人数は何人か?
・物件確認業務は不動産営業の業務フローのうちの何%を締めているか(仮に30%とする)
・SaaSツールで物件確認業務の何%を削減できるか(仮に20%とする)
・そのようなSaaSツールの競合と比較したシェア率は何%か(仮に10%とする)

▶(不動産営業は)30万人いて、(不動産営業の業務フローとしての)物件確認業務は6万人分の工数、(SaaSを利用して)そのうち1.2万人分の工数削減ができる。 
▶(SaaSを利用して工数を減らせる)1,2万人に対して(競合がいる中で)シェア率10%なので、(自社SaaSの取引の最大規模として)1200人分の工数削減が出来るのがSOMのスコープ。具体的には平均年収350万円とすると42億円がSOM。

(サンプル)不動産SaaSの市場規模を計算する

 SOMが42億円ということは、どんなにこの領域で頑張っても売上100億円には不足しているので、不動産内見の物件確認業務以外に広げる新規事業の開発が必要となります。

そこで必要となる問いは、「じゃあ今のSaaSから拡張できる業務領域はなにか?そのうちペインが強いものは?MOATが築けるものは?」といったものです。
これは目の前の顧客の業務の中にヒントがありますので、営業マーケティングやカスタマーサクセス活動で顧客と接点を持つ中で、解像度を高める必要があります。

最近、弊社で行ったカスタマーサクセスの大型イベント『CSHERO』の中で、キャディとユーザベースのカスタマーサクセス立ち上げメンバーである松木さん・大沢さんと対談をしました。

 ここで出た話題の中で、「実際に顧客の業務に入らせてもらったり、見学しにいったりしてる」という話がありました。そうすることでプロダクト戦略やカスタマーサクセスに反映させることで、より深く広い業務をカバレッジするソリューションが提供できるのです。

 SaaSは開発でどんどん機能を積み上がられるため、どう積み上げるか?の意思決定が重要です。SaaSの機能拡張による技術負債を考慮すると、一度進んだ道は後戻りしにくいです。弊社はこういうロードマップで進む、を経営的にも全社的にも腹をくくらなければなりません。資金の制約がある中で、可能な限り成功確率の高い、適切な成長戦略を引くのです。

⑨1年後のSaaS事業の計算式が頭の中にある

 どのように事業が広がっていくかに加え、目先のMRRの成長角度も重要だとアドバイスを受けました。
 次のラウンドも見据えた成長曲線にあるかVCはチェックされており、この成長曲線が足りていなければ資金調達が難しくなるのです。

 VCは投資の際にSaaS事業であれば売上のマルチプルでバリュエーションを計算するのですが、成長角度が安定的に右肩上がりになっていれば成長率に対してマルチプルをかけられるし、そうでなければ判断が難しくなります。

 ここを確信を持って証明するには、単価、社数、従業員数、リードタイム、受注率、残り期間(残り資金を考慮ランウェイ)などの変数から今後の伸びを計算し、見せなければなりません
 加えて、SaaSなのでプロダクトが成長することを前提に、機能幅の拡張、単価アップ、アップセルなどの考慮にいれる必要があります。また、SaaSは特に営業のマンパワーが重要で、営業を入れるほど伸びるモデルです。なので営業の採用も考慮にいれた事業の計算式を組み立てて、空で話せることが望ましいです。

 1年後どういう計算式になっていくか頭の中で計算が出来ている、どの変数にドライバーをかけるかの戦略がある、これはSaaS経営者はマスト。またSaaS事業を支えるメンバーはその計算式のドライバーに対して、役割分担をしながらしっかり伸ばしていくことが求められるのです。

まとめ

・SaaS経営にVCは重要、ユニコーンの目線(売上100億~)を持つ
・誰の何の課題をどう解決するか?未来まで捉えきる
・初期顧客の熱狂とそこから広がる成長ストーリーがある
・確かな製品、優れたオペレーションで営業のリードタイムが短縮されている
・カスタマーサクセスの整備で短い時間でオンボーディング出来ている
・PMFは単価と利用率の大きさで証明する
・競合に対するMOAT(堀)を作る=トータル顧客ソリューションを磨く
・市場、顧客、事業の解像度をとにかく高める、あらゆる論点を押さえる
・市場拡大の計算ロジックは曖昧にせず考え抜く
・MRRの成長曲線を数値で捉えて、計算しながらドライブする

これらをすべて考えるには脳みそがパンクしてしまいますので、私はスプレッドシートで1つ1つの項目を思考するためのメモを整理することにしました。加えて考えた内容が仮説なのか、事実なのかを細かく検証することで、解像度を高めることにトライしています。

メモで整理することで解像度を高める

【募集】SaaS事業をグロースさせるためのカジュアル面談を募集しています

私が経営するSaaSベンチャー企業openpageにて、事業開発を進めるにあたってのカジュアル面談を行っています。また採用としては営業/マーケ/CS/エンジニアなど全職種を積極採用中です。弊社自身も自社のSaaS成長戦略を日々考えており、ぜひディスカッション出来ると嬉しいです。