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『ピザ!』?何それ、おいしいの? #映画感想文

ドラマ『スイート・カーラム・コーヒー』がよかったので、他にもインド市井のドラマや映画ないかな~と思ってアマプラをあちこち渡り歩いていたら目に留まったのがこの『ピザ!』です。

スラム街の長屋に住む兄弟(見た感じ5~6歳と10歳くらい?)は両親と祖母の五人家族だが、父親は何かの理由で留置場に入っており、母親は面会や弁護士とのやり取り、工場の仕事で働きづめ。兄弟は学校に行かず線路に落ちている石炭を拾い集めては売りに行くが、それは小遣い稼ぎではなく家計のためだ。子どもたちやチンピラが集まる公園で、ときどき木の上にあるカラスの巣から卵を失敬してはいただいている。そんな街の大通りに、富裕層向けのピザ店がオープン。「なんとかして、あのピザというものを食べてみたい!」と決意した二人だが、なんとお値段は石炭拾い1か月分。二人は、頑張って貯めたお金を持ってピザ店に向かうが……。

もちろんピザを食べて一件落着…ではなく、ここからがこの物語の本番

ピザ1枚の値段がひと月の稼ぎと同じということは、日本で言うと時給1100円のパートでも約10万円。中高生のバイトなら3~5万円くらいでしょうか。ピザ1枚どころか、10枚でもおかしな値段です。物価がおかしいのか、それとも労働報酬がおかしいのか。今は日本の物価も上がってきていて、物価も給与も安すぎると言われていますが、経済というものがさっぱりわからない気持ちになります。
ちなみに都道府県別の最低賃金のリストはこちらです。

この映画では貧困を悲惨に描くことはせず、兄弟の試行錯誤や悪戦苦闘を通して「やんわり」と見えてきます。そしてそれ以上に描かれているのが、子どもたちの日常、家族のあり様です。お金を貯めようと頑張る二人ですが、彼らの頑張り、おばあちゃんの優しさとそれが通じない悲しさ、子どもがお金を貯めることの難しさ、うまくいかない悔しさ。そして後半はピザ店の経営者、地元の代議士、チンピラたち……この兄弟を利用しようとするオトナたちの思惑が入り乱れ、駆け引きが繰り広げられます。

そして、母親、おばあちゃん、石炭を買い取るお店の夫婦、線路見守り(?)のおじさん……周りの大人たちの態度はそれぞれで、むしろ少し冷淡だったり、あたたかく見守っている人でも距離を置いている感じなんですよね。貧困を解消しなくちゃいけない!とか、汚職や腐敗をなくそう!みたいなストレートな正義感を呼び起こすというより、子供たちがいずれ大人になることを考えると「大人の姿とは?」「子供を育む社会とは?」「お金とは?」みたいなことをじんわり考えさせられるんです。紆余曲折の末に、彼らが味わったピザの味は……

ちなみに、原題は『The Crow's egg(カラスの卵)』なんですよね、「ピザ」じゃなくて。卵も、eggsと複数形じゃなくてegg、単数形です。そこがちょっと気になってるところなのですが、ちょっと深読みしすぎかしらん。この原題タイトルといい、終盤の急展開も含めて、インド映画なのにちょっと山本周五郎みを感じる、そんな余韻のある作品ストーリーです。

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