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猪を捕る話【胆沢の民話⑰】岩手/民俗

『猪を捕る話』

参考文献:「いさわの民話と伝説」 胆沢町教育委員会

ある所に3人の少年がありました。この3人の少年は大の仲良しでした。実際にこの3人の少年を見ると、仲良しになった理由が頷けそうでした。

少年の一人は虱(しらみ)たかりでした。一寸見ただけでも、首根のあたり、虱の這っているのが見えるという、沢山の虱がいる少年でした。捕ったらよさそうにも、と思いがちですが、何しろ捕っても捕っても後から後から湧くのですから、処置なしという事です。

もう一人の少年は、しょっちゅう目脂(めやに)を付けている少年でした。朝おふくろに洗ってもらった時だけは綺麗ですが、すぐ目脂が湧いてきて、何ともならないので放っておくのだという事です。

もう一人は鼻ったらしでした。いくら拭いても次から次と、止まることなしに出るのですから、ほったらかしておくより他ないというのです。

しかし少年たちは、それでいいはずはなく、始終擦っていました。虱たかりの少年はかゆくないはずはなく、目脂の少年、鼻たらしの少年も同様です。

そんな少年たちですから、他の少年たちからは不潔だからと除け者にされ、自然とこの少年3人が寄り合い仲良しになったのでした。

ある日、3人の少年は、我慢会をすることを話し合いました。即ち虱たかりの少年は体をかくことを、目脂の少年は目をこすることを、鼻たらしの少年はこすることを我慢する競争をすることでした。

少年3人は、1、2、3の号令を合図に競争に入りました。5分が経ちました。常ならもうこの時間には2、3回もこするのですが、ここが競争です、誰も負けたくありませんから我慢をいたします。10分が過ぎました。3人の少年は競争意識を丸出しにし、ここを先途と(勝負の分かれ目と)頑張り続けます。

15分が経過しました。3人は何とも我慢できなくなりました。相手の顔をうかがいながら、相手の早く参るのを待つ態勢となりました。

最も参ったのは虱たかりでした。常ならしょっちゅう掻かれるのに、今日はどうしたのかそんなことがないので、虱どもは御馳走様と縦横無尽に暴れ回ります。とうとう堪らなくなった虱たかりは一策を考えました。

「あのな、俺昨日、笹井の山で、でかい猪を見たよ。俺が目の前にいたのも知らないで、このようにもそもそと歩いていったよ。」

と猪の歩く真似をしました。虱が暴れ回るので我慢できなくなった少年の苦肉の策でした。

それを見ると目脂の少年は言いました。

「猪か犬かどうかなあ、犬かもしれないぞ。俺だったらこう大きく目を開けて見定めるね。」

と、かゆくなって堪らない目をこすりながら大きく目を開きました。

鼻ったらしの少年も黙っていません。

「惜しかったなあ、その猪、俺だったら早速弓で射ったなあ。こう弓を満月のように引き絞ってさ。」

と、弓を引き絞る動作をしながら強く鼻をこすりました。

そして少年3人は大笑いをしました。結局、競争に勝負はありませんでした。

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