お月とお星【胆沢の民話㉑】岩手/民俗
『お月とお星』
参考文献:「いさわの民話と伝説」 胆沢町教育委員会
昔な、うんと仲の良い姉妹あったったど。
姉はお月、妹はお星ち名前だったど。
お月は死んだ先の母様の子、お星は後の母様の子だったど。
母様はお星のとこばりめげがって(可愛がって)、お月など無いばいいと思っていだど。
父様家に居る時ぁ、それほどでないども、居ない時はお月のとこ、うんともぜく(可哀想に)したど。
父様は職人だがら、よけい家に居ないし、稼ぎさ出はれば二日も三日も帰らないから、そういうな時ぁ、お月はもぜがったど。
薪もの取りさやる時ぁ、お星さば鉈(なた)預けるども、お月さば何にも持たせなかったど。
そだどもな、お星ぁいっつも姉さすけで(助けて)、薪もの同じに背負って帰ったど。
栗ふり(拾い)にやる時ぁ、お星さばちゃんとしたフゴ(編んだカゴ)預けて、お月さば底の抜けたフゴ預けてやったど。
そだどもな、山さ行ってからお星のフゴばり使って、帰る時ぁ、ぼっこれ(破れた)フゴさば柴っこ当でがって、朴(ほお)の木葉っこ敷いて、そろっと(静かに)栗入れで、二人ながら同じ量にして帰ったど。
父様帰らない晩に、母様ぁお星とこ呼んで、
「今夜ぁ危ないがら、お月から離れで寝てろ。」
って言って、知れないようにお月の寝床の上の梁さ、大っきなキズルス(木臼)吊るして、縄の端ぁオカミ(昔の家屋のリビング)の母様の寝床の所さ結っておいたど。
夜寝る時、お星はお月さそっこ(こっそり)ど、
「今夜はおれの寝床さ二人で寝べし。」
って語って、お月の寝床さば夕顔フクベ(実)入れて、布団被せておいたど。
夜中に母様はキズルス吊るしてた縄を鉈でバチッと切ったから、キズルス落ちてお月の床の中でザクッと音がした。
骨ぁ砕けで頭のミソ出はった音だと思ってだ。
次の朝母様はお星だけ起きてると思ったれば、お月も起きてしまい(炊事)してたので不思議に思ったど。
父様が、3、4日稼ぎに出て家にいない日に、母様ぁ棺箱を用意した。
お星ぁ何にするのだと聞いたれば、
「明日お月を入れてくのだ、お月さ語ってぁなんねぞ。」
って言った。
お星はそっことお月さ教えて、母様ぁ知らないでいるうちに、箱の隅っこさちゃっけ(小さい)穴こ開けて、けし種を袋っこさ入れて姉さ持たせて、
「明日、家を出はったら一粒づつ穴っこから落とせ。」
と言った。
それから、焼き飯いっぱい、握って箱さ隠し入れておいたど。
次の日になったれば母様はお月さ、
「ええどごさ連れてっから、この箱さ入れ。」
って、入れて蓋ぎっちり閉めて背負って家を出はった。
お月は教えられたように穴っこから、けし種一粒づつ落した。
母様ぁずっと山奥さ入って、そこさ穴掘って箱がらみ(丸ごと)埋めて帰ったど。
雨ぁ降ったずもな。
二日三日経ってからお星は木割もって、けしの芽っこ辿ってったれば、埋めた跡があるから、そこ掘って箱の蓋開けたら、
「お星や」
って姉ぁ出はってきて、二人で家さ帰ったど。
母様ぁ、帰って来ねかべと思ってたお月が来たから、うんと憎くなって、
「大釜さ目籠(目を粗く編んだ竹かご)で水汲め。」
って言いつけた。
何じょして(どうやって)汲むべと思っているところさ、六部(ろくぶ、巡礼中の僧)が来た。
六部は何にも言わねで着物一枚脱いで、目籠の中さ入れて行ってしまった。
お月は気付いて、それで水汲んで大釜で絞って、ようやくいっぱいにした。
今度はその釜さ火焚けと言いつけた。
お湯沸いたれば、
「釜の上さかかってるザル取ってよこせ。」
って言いつけて、釜さ萩箸渡した。
お星はやせねいがって(堪えられなくて)、
「はーぎばーし渡れども、ゆーらりヅブン」
と唄った。
そだども母様の言い付けだから、そこさ上ってザル取るべと手伸ばした時、萩箸ぁ揺れて、ヅブンと釜さ落ちてしまった。
アッと思ってお星ぁ、姉どご取ったげべ(取り上げよう)って、我も入ってしまった。
母様は、父様帰ってきてから大変と思って、中戸のサイ(?)の下掘って、そこさ埋めて知らないふりしてたど。
父様帰ってきて、
「お月とお星ぁ何所さ行った。」
って聞いたれば、
「二人して出はってってサッパリ帰って来ねい。」
って返事した。
父様はなんぼ待っても来ないので、泣き通しに泣いて、ザド(盲)になってしまったど。
そして六部になって二人を探しさ出はったど。
「お月とお星あるならば、何してこの鉦(かね)はだく(叩く)べや。」
カーン、と鉦はだぎながら探していると。
トテ様(仏様)はお月とお星を夜の空さ、父様は昼の空さ上げたど。
お月とお星は、いつとき(一斉)に歩いて、父様のお日様は、その後を追っかけるのだどや。
ドンドハライ。
母様が後でザドになったってたな。
今は土の下にでもいるのだべ。