三枚のお札【胆沢の民話㉕】岩手/民俗
『三枚のお札』
参考文献:「いさわの民話と伝説」 胆沢町教育委員会
昔、ある山さ近いお寺に、和尚さんと小僧がいたど。
三月三日の節句の日に、お仏様に上げる桜花(マンサク花、もしくはいわゆるサクラ)を山さ行って折ってこいと言い付けられ、小僧は山さ行って桜の木に登って見ると向うの方に、今登ってた桜よりも、もっと美しい桜が見える。小僧は、その木から降りて向うの木まで行って、その木に登ったらまた向うの方に、もっと美しい桜花が見える。その木から降りてまた向うの木まで行き、その木さ登って、桜花を折って降りてみると、そばに笹小屋(笹でできた家)があるのでまがって(覗いて)みたら、オバ様がいて、
「小僧、晩にダンゴ食わせっから泊れや。」
って言われた。小僧は、
「仏様さ上げる花、持ってかねばならね。」
と返事したら、
「花置いたら来や、ダンゴ食わせっから泊りさこう。」
と言う。小僧は帰って和尚さんさ花を渡して、
「小屋のオバ様さ行きたい。」
と言った。和尚さんは、
「行ってはなんない。」
と言っても、
「ダンゴ食わせっから来いと言われだから行く。」
と言う。
「来ぅ来ぅっどご(来い来いという所)へ行くもんでない。」
となんぼ和尚が止めても聞き入れない。和尚様はお札3枚渡し、
「何かあったらお札一枚づつ使え。」
と言った。
小僧は3枚のお札を懐さ入れて、山小屋のオバ様の所へ行った。オバ様は待っていて、
「よく来た。さあダンゴ食え。」
と椀さダンゴ3つ入れて出された。小僧はそれを食うと、なんぼ食っても椀の中には、いつもダンゴが3つある。やがて腹いっぱいになって眠たくなったれば、
「小僧、オレが抱いて寝っから。」
と、そこの炉ばたさ寝た。
小僧は何だか胸騒ぎして目が醒めた。足だか手だか伸ばしたら、オバ様の足だかに触った。そしたらザラザラと逆さイボだか魚のコケラ(ウロコ)みたいなどこさ触った。小僧はにわかにおっかなく(恐ろしく)なった。和尚様の言うことを聞けばよかったと思った。何とかして逃げないばならないと思い、
「小便出る。」
と外さ出はべとしたれば、
「こいつさたれろ。」
ってオガワ(便器)出された。
「オラ、オガワさたったことないから、こいっさはしらえない。(こいつにはできない)」
と言ったら、
「そんでは仕方ない、外でして来う。」
と腰さ縄結んで、その端はオバ様が持っている。小僧は外さ出て、腰の縄をほどいて木の株に結え付けて、縄さ札一枚はさんで逃げた。オバ様は小僧がなかなか戻らないので、
「小僧まだか。」
と聞くと、
「まだはちまん(始めない)でがす。」
と返事する。3回だか呼んだども、
「まだだ。」
と言うので、縄引っ張ったれば、木の株が抜けてきた。
「野郎どもや、小僧逃がしてしまったから追っかけろ。」
と我先に立って、家来っことともに追っかけた。
小僧はひらまず(ひるまず?息もつかず)逃げた。なれどもかれども、野郎どもに追いつかれて抑えられそうになった。小僧はその時、また札を1枚出して、
「上から下まで大川できろ。」
と後ろさ投げた。野郎どもが川を渡ったり泳いだりするうちに、またしばし(よほど)逃げた。なれどもまた、かっつがれ(追いつかれ)そうになった。札がもう一枚あるからそいつを、
「上から下まで大野火できろ。」
と後ろさ投げた。そしたら大野火ができてふるがった(広がった)。なんぼ化物でも火で中々来られないでいるうちに、しのいで(難を避けて)小僧はようやく寺さ帰った。
「和尚様、和尚様、どうぞオレとこ早く隠してけらしえ。」
って頼んだ。
「馬鹿ヤロ、来う来うずどごさ行ぐから、そのざまだ。オレの寝床さ入って布団被ってろ。」
と隠した。そこさ誰だか、
「和尚様、小僧逃げてこながったか。」
って来た。
「ナーニ、来なかったな。」
「来ないはずない。このお寺さ必ず来た。」
「来ない。来たと思うごったら入って見ろや。だども(とにかく)まず入って火に当たれ。ところでお前随分、化けるの上手いが、ヤカンになるにええか。」
って言ったればヤカンになった。和尚さんはそのヤカンに水を入れ、萩カラ(たぶん萩の薪?)焚いて、その火さヤカンかけた。そしたれば熱いから鉤(囲炉裏の自在かぎ)からちゃっかり下りて、
「さあ小僧出せ。」
とまた言う。
「化け方が上手だな。今度は大きなコモチ(丸く取った餅)になって見ろ。」
と言ったれば大きなコモチになった。和尚さんは火箸でギリギリ、ギリギリとホド(火が盛んに燃えている一番熱い所)さ押し入れた。コモチは、アツエ、アツエと叫んだが死んでしまった。
「小僧小僧、餅が焼けたから起きて来う。」
と言って、小僧が起きてきて見たれば、餅でも何でもなく、山オバの化物だった。和尚さんは、
「小僧、どうだ。山の中にオバ様などいるはずない。オレの言う事聞かないからだ。」
と言ったとや。ドンドハライ。