えものは二分【胆沢の民話⑫】岩手/民俗
『えものは二分』
参考文献:「いさわの民話と伝説」 胆沢町教育委員会
太郎、二郎、三郎の三人兄弟がありました。3人は1軒の家から、姉妹3人を嫁にもらい、行ったり来たりも3人一緒にしていました。
今年も嫁の家から刈上げ振舞いに呼ばれたので行くことにしましたが、三郎は弓矢の名人なので、お土産に獲物を持っていくからと、太郎と二郎を先にやりました。三郎は弓矢を持って、堤のほとりを歩いていると、鴨がいるのが目につきました。弓に矢をつがい、力いっぱい引いて、はっしと放すと、矢は鴨を射抜いて向う岸を走っていた兎にまでも当たりました。兎は死にきれずもがいて、暴れて土を掘りました。そうするとその掘った土の中から、百合の根が出てきました。三郎は鴨と兎と百合の根を土産に出し、その晩は鴨汁、兎汁で賑わいました。三郎は丁度その夜は月夜なので、弓矢を持って雁取りに出かけました。そして雁を射止めて雁汁を御馳走し、この日も泊まることにしました。次の日は、イタチを取りイタチ汁をこしらえて御馳走しました。雨が降ってきたのでこの日も泊まることにしました。
夜中になると、三郎はうすっ腹が痛み出し、裏心地がしてきたので起きて外に出ましたが、雨はまかるように降るし、真暗でありました。厠にも行けそうもないので軒下のちょうじ鉢に気が付き、これに気持ちよく落として床に戻って休みました。
明朝は、誰も起きないうちに起きて始末しようと思っていましたが、腹具合がよくなり夜明けを知らず寝込んでしまいました。
太郎と二郎は何もしないで泊まってしまったので、こっそり帰ろうと帰り仕度をしていたら、嫁のおふくろが出てきて、
「夕べの勝負は?」
と少し皮肉に聞きました。何にも知らぬ太郎と二郎は、夕べも三郎に猟があったに相違ないと思い、二人の手柄にしようと、
「はい、二人のものです。」
と言ったら、ちょうじ鉢のものが多かったので、嫁の母に、
「道理で二人分は充分にある。」
と返答され、三郎のしくじりを兄二人が背負うことになったとさ。