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屁っぴりぢいさん【胆沢の民話⑪】岩手/民俗

『屁っぴりぢいさん』

参考文献:「いさわの民話と伝説」 胆沢町教育委員会

ある所に日本一を自称する屁っぴりのおじいさんがありました。なるほど日本一と自慢するほどあって、注文に応じて即座にぶっ放すのはまだ初歩の方で、屁音と言いますか、そのものに節(曲)などもつけまして歌などもやりますものですから、可笑しいということを通り越して、感心する人が多く、確かに日本一の値打ちはあると皆が認めました。

勿論そのおじいさんにも職業はありました。山に行って竹を切ってきて町に売り、それをもってささやかながらも生活をしておりました。

その日も屁っぴりおじいさんは、山に入って竹を切っておりました。断っておきますが、おじいさんの竹を切る場所は、自分の所の竹山と限ってはおりません、どこでもいいのです。自分の所の山であろうと、他の人の山であろうと構いませんでした。そう、行き当たりばったりでありました。

竹を切るということは生活のかかっていることですから、おじいさんには一生懸命なことでありました。おばあさんと二人の、米や味噌や肴、それに多少の酒代も含めなければならないので、それらをいちいち計算しながらの竹切りは、往々にして「屁っぴりじいさん」の名声を傷つけることになりました。即ち竹切りに熱中のあまり、放屁を忘れているということでありました。放屁を休むということは訓練を怠るということにも繋がっていました。発音の妙味といいますか、いやはや日本一も中々苦労の多いものでありました。

カチンカチンという竹を切る鉈(なた)の音、ハテナと竹山の主人は、散策の歩を止めて耳を澄ましました。確かに自分の山で竹を切っている音でありました。小走りに走って裏山に出てみると、見知らぬ一人の老人が一生懸命に竹を切っているのでした。

驚いた主人は傍らによると、語気も荒々しく叱りました。

「お前誰だ。」

「屁っぴりじじでごぜえます。」

「何、屁っぴりじじとな、異な名前だな。どうしてそんな名前なのじゃ。」

「私がよく屁をひりますので。なんならひってご覧に入れますべが、なんなりと御注文を。」

「それは面白い。特別注文ってない。なんなり面白いところやってくれ。」

そういう訳で屁っぴりじいさんは、節面白く歌をうたい、いや、歌をひりました。

「ハハハハハ、これは愉快じゃ、大いにやれ、ハハハハハ」

主人は大いに喜び、挙句の果ては沢山の物をくれ、明日も来て屁をひってくれと懇望しました。

帰っておじいさんは今日のことを話すと、おばあさんも大いに喜び、久しぶりの豪勢な御馳走にありつけることになりました。

西のおばあさんはその時、火種を貰いに来ましたが、その御馳走を見てびっくりしてしまいました。こんな立派な御馳走など、この辺りの住民には縁遠いものですから、不思議に思うのはもっともだということになります。

かくかくしかじかと聞いた西のおばあさんは、帰ってその事をおじいさんに話しました。そして極力、竹を切りに山に行き、屁をひることを勧めました。西のおじいさんもそんなに良い事ならと、重い腰を上げることにいたしました。

翌朝、西のおじさんは、沢山お土産を包んでくるための大きい風呂敷を背負って、おばあさんに押し出されました。そして東のおじいさんに教えられた場所に着くと、カチンカチンと竹を切り始めました。そこへ、うまく主人が出てきました。

「誰だ、誰だ竹を切るのは。」

「屁っぴりじじでごぜえます。」

「では屁をひってみろ。」

てなわけで、西のおじいさんは予定通りの進行に悦に入り、思いっ切り大きいやつをぶっ放しました。ところがそれに伴うところの臭気は、何と言いますか臭くて臭くて、やり切れませんでした。主人は最初は、眼前の臭気を手を払って防いでおりましたが、なんともやり切れなくなって大きく後退し、辛うじて窒息から免れました。

「これはひどい。お前は偽物だな。」

と、主人はカンカンに立腹し、お土産を貰うなどはおろか、切った竹まで取り上げられて。ほうほうのていで帰ってきました。

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