ふるやのもるや【胆沢の民話⑥】岩手/民俗
『ふるやのもるや』
参考文献:「いさわの民話と伝説」 胆沢町教育委員会
お婆さんがお爺さんに言いました。
「今夜も虎が馬を狙って来るべなぁ、世の中で虎ほど怖いものはない。田畑を荒らし馬もとって喰う、本当におっかねぇ。」
と、お爺さんは
「虎よりもふるやのもるやが怖い、今夜のように雨降りになるとことさらだ。」
と答えました。厩舎の方では、馬を盗みに来ていた馬泥棒と、馬をとって食べようとして待っていた虎がいました。そしてこの話を虎も泥棒も耳にしていました。
虎は俺より強いふるやのもるやのいるという話が気になり、うまく逃げ出したいものだと考えていました。泥棒は泥棒で、ふるやのもるやに見つかったら大変なことになると思っていましたら、厩の方でごとっと音がしました。泥棒は馬がふるやのもるやに襲われて逃げるのだ、よし馬に乗って逃げるとしよう、これは丸儲けと待っていると、暗がりから動くものが見えました。それ、馬が逃げ出すところだ、早く早くと思って飛び乗りました。乗ったのは馬ではなく虎でありました。虎はこれは大変なものに乗られた、俺の背中に乗ったのはふるやのもるやに相違ないと、一目散に走り続けました。馬泥棒は振り落とされたら大変と、しっかり背中にしがみついていました。虎はますます大変だと思い、どこまでも堀をも構わず走り続けました。大きな堀にさしかかったので、ぽんと飛び越えようとしたら、弾みをくって泥棒は振り落とされ、そばにあった穴の中にすっぽりとはまってしまいました。
この様子をさっきから木の上で見ていた猿が、穴の中に何かが落ちてはまった、何だろうと木から下りて穴の中にしっぽを差し入れ様子をみようとしました。泥棒は見つかったら大変と猿のしっぽをぎっちり握って放しません。猿は一生懸命引っぱったら、しっぽが根本からすっぽり取れてしまいました。
それから日本猿にはしっぽがなくなり、お尻が真っ赤になったし、虎は朝鮮まで皆逃げて日本にはいなくなりました。