時鳥になった三郎【胆沢の民話①】岩手/民俗
『時鳥(ほととぎす)になった三郎』
参考文献:いさわの民話と伝説 胆沢町教育委員会
友達と別れて家に帰った三郎は、
「あずきご飯を食べたい」
とお母さんにせがみました。お母さんはびっくりして、
「どうしてどうして、うちのような貧乏では、あずきご飯など食べれない」
と冷たい返事をしました。しかし三郎は、お母さんのそれくらいの返事で引っ込んではいませんでした。あずきご飯を食べたいとうるさくせがみました。
というのは今日、友達と遊んでいる時、隣の太郎が
「今朝のあずきご飯はとてもうまかった」
と自慢そうに言いました。それにつれて次郎も花子も
「ウンウンうまかったナ」
とそれぞれ言いました。
あずきご飯ってどんなものか、見たことも食べたこともない三郎は、ただうらやましいだけで、一度でもいいからそのあずきご飯なるものを食べてみたいと思いました。そんな訳から、三郎はお母さんにせがむ結果となったのでした。
あんまり三郎のせがみがうるさいので、お母さんは三郎があずきご飯を知らないのを幸い、『かゆもち』をこしらえて食べさせることにしました。その日はお父さんも町に用事に行っていなかったので幸いでした。三郎は小麦粉を練って煮たかゆもちをあずきご飯だと思い込み、うまいうまいと言って食べました。
そのうちお父さんが帰ってきました。三郎は嬉しさのあまり、あずきご飯を食べたことを告げました。それを聞くと父は母を叱りつけました。
「俺の留守中に贅沢をしている。毎日働いても貧乏から抜け切れず苦労暮らしをしなければならないのも、こんなことをしているからだ。」
と。お母さんは、あずきご飯ではなくかゆもちだと弁解しようとしましたが、これではせっかく喜んでいる三郎の心をぶち壊すだけだと黙っていました。
威丈高になった父と母とは喧嘩になりました。ついには三郎の腹を切り破って見なければ収まりがつかなくなりました。三郎の腹からはかゆもちと一緒に小鳥が飛び出しました。小鳥は庭を3、4回飛び回ると木の枝に留まって鳴きました。
「ボットサケタ、ボットサケタ。マツチヤエッタケチャヤ、マツチヤエッタケチャヤ」
みんなはそれを仰ぎながら、三郎とも知らず、ああ時鳥だ、と眺めました。それは腹を切られて死んだ三郎が小鳥になって空を飛びまわっているのでした。