一粒の豆【胆沢の民話㉗】岩手/民俗
『一粒の豆』
参考文献:「いさわの民話と伝説」 胆沢町教育委員会
昔、爺さんと婆さんあった。婆さん板前(板の間)を掃き、爺さんは庭を掃いた。爺さん庭掃いていると、豆っこ一粒出てきて、コロコロどこまでも転んでって、観音様の前の穴っこさ入った。爺さんが、その穴を掘っていったら、お堂の中に地蔵様が立ってた。
「地蔵様、地蔵様、豆っこ一粒転んでこながしたべか。」
って聞いたれば、
「ああ、転んで来たが食ってしまった。豆っこよりもいいもの見せっから、おれの膝カブの上さ上がれ。」
って言ったと。
「オラもったいなくて上がらえなげぁす。(おそれ多くて上がられません)」
って言ったども、
「いいから上がれ。」
って上がらせた。今度は肩さ上がれってギリギリ(無理に)肩さ上がらせた。爺さん肩さ上がったれば今度は、
「頭さ上がれ。」
って言われた。
「地蔵様、オラとってももったいなくて、頭さ上がらえなげぁす。」
「いいから上がれ。」
って何でかで(どうしても)頭さ上げさせられた。今度は、
「そっからお堂の梁さ上がれ。」
って言われ、梁さ上がった。
「そこで待ってろ、今にいいもの見せっから。おれが合図したら鶏っこの鳴き真似せ。」
って言われた。
なんぼも経たないうちに、地蔵様の前さ7~8人の人が集まってきて、バクチブチ(賭博)始めた。しばらくしたれば地蔵様に合図されたから、爺さん、
「コケャコッコウ」
って鳴き真似した。バクチブチだ(達)、
「一番鳥だ、せわしてせよ(少し急いでしろよ)。」
ってしてたが、爺さんがまた合図されたから、
「コケャコッコウ」
って鳴き真似した。
「二番鳥だ、何たら今夜早がべ(時間が経つのが早いのだろう)。急いでせよ。」
ってキド(夢中になって)ぶってた(博打を打ってた)。
しばらくしてまた、地蔵様に合図されたから、
「コケャコッコウ」
と高く叫んだ。さあ、バクチブチだ、
「三番鳥だ。」
って何もかにも慌てて、銭、そのまま置いて逃げるようにして帰ってしまった。地蔵様は、
「この銭、お前さける(あげる)から家さ持ってけ。」
ってギリギリ持たせられた。
爺さんの家では金持ちになってしまった。西の家のばば、
「火っこたもれ(くれ)や。」
って来て、
「なんたらこっちでぁ裕福になったべ。」
って聞ぐがら、訳教えたれば、西の婆ぁ家さ行って、爺に庭掃かせ、我は板前を掃いた。
「爺やじじ、豆っこ一粒出てこねか。」
「ではね(出ない)。」
婆ぁ口惜しいから、豆量ってきて庭さブッ散らして、
「爺やじじ、掃きもので豆っこ転ばしてって、観音様の前の穴っこさせろ(入れろ)。」
って、穴さ入れさせた。
隣の爺は、掘ったばかりの穴さ入って行ったら地蔵様あったから、地蔵様何も言わねうちに、膝から肩から頭さ上がって、そっから梁さ上がって、バクチブチ来るのを待ってた。待ち切れなくなった頃、バクチブチ来て始めたから、地蔵様の合図も何もないのに、
「コケャコッコウ」
と叫んで、そこさ下りた。バクチブチだ、
「昨日な、おらの金持ってったのお前だな。」
ってヒデ(酷い)目に合わされたとや。ドンドハライ。