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雀の子【胆沢の民話⑯】岩手/民俗

『雀の子』

参考文献:「いさわの民話と伝説」 胆沢町教育委員会

遊び疲れて家に帰る途中の太郎は、道の真ん中で急に便を催したくなりました。木蔭かとも思いましたが、そんな物色をする暇もなく、道路の真ん中でやってしまいました。

気分良さそうに悠々とやっていると、遙か道の彼方に、二本差しの武士がこっちに向ってやって来るのが見えました。

太郎は大変だと思いました。無礼者と、首の根っこをバッサリやられるのは分っております。困ったナ、と思いながら一策を案じ、被っていた笠を取るなり、件のものに被せて押さえていました。

やがて近づいた武士は、太郎の変な仕草に、いぶかりの様子で尋ねました。

「こら子供、何ぞやらるるな。」

「ウウ、雀の子をおさえたんだ。うちさ行って籠持ってくるから。」

太郎はそう言って走り出しました。

「左様か、ではわしが雀をおさえておくによって、早う籠をば持って参れ。」

なかば好奇心もあって武士は、ニコニコしながら笠をおさえておりました。

しかしいくら時間が経っても太郎は帰ってきませんでした。しゃがんだ姿勢に疲れてしまいました。よし、雀の子を捕まえて持っていようという事になり、静かに笠の中に手を入れました。手触りは柔らかく幾分温かいものが其処にありました。逃げられては大変と、武士は慎重にしかも力強く、雀をしっかりと捕まえました。