やっぱり母にはお見通しだった
母からのLINEを目にしたら、堰を切ったように次から次へと涙が流れていく。
母にはなんでもお見通しであることに気づく。
昨日のこと。
息子のお迎えと、娘の習い事のお迎えが重なる日だった。そのため、夫と二手に分かれてお迎えにいこうと話していたけど、「仕事でいけない」と急きょLINEが入る。
落胆と気合のために、大きく息を吐く。
仕方ない。1人で行くしかない。
18時に息子のお迎え。
ここまではいつも通り。
持参したストライダーに乗って、颯爽と走り出す息子。
10分後には娘のお迎えに行かねばならない。
場所は幼稚園の一角だから、100m以内の場所にある。
それが到達するのに、20分もかかってしまった。
息子は同じルートで帰りたがる。イレギュラーなことを好まない。多分、新しいことが怖いんだと思う。なので、時間ギリギリまで息子の行きたいところを走らせた。ラッキーなことに、教室がある通りの1本南側の細い路地までたどり着いた。
しかし、そこから娘の教室に曲がってくれず、反対方向に走り出してしまう。何度も娘を迎えに行くために通ると伝えるけど、「イヤ」スイッチが入った息子はもう聞く耳をもたない。
携帯の画面を見ると
「18時12分」
お迎えの時間が過ぎてしまっていた。
最終手段として、嫌がる息子を抱えて教室に向かった。
自転車とストライダーは道路の端に置いて。
教室の入り口まで着いたものの、案の定、息子の癇癪が発動し、靴と靴下を脱いで走り出してしまった……。
先生に状況を伝え、娘と早々に教室を後にする。
息子の行き先は分かっている。
教室から目と鼻の先にあるマンションの駐車場だろう。向かうと、金網に張り付いて踏切を眺めている息子がいた。
電車が通るときに、特定のライトがつくのを見るのが好きなのだ。よく見える場所を見つけるのが、息子は上手なのである。
娘に息子と一緒にいるよう伝えて、自転車とストライダーを取りに走る。
娘が
「〇〇くん、YouTubeみる?」
と伝えて自転車まで連れてきてくれた。
ひとまず動画を見せれば、静かになるのを知っての行動だ。
頷いた息子を電動自転車に乗せて、ストライダーを漕ぐよう娘に頼む。
すると突然、雨が降りだしてきた。
急いで帰ろうとすると息子が
「ふみきり、わたりたい!」
と言う。
踏切を渡ると、迂回して帰らねばならない。
雨に濡れてしまう。
けれど、また癇癪を起すと手渡した私のスマホを投げかねない。
仕方なく踏切を渡ろうとすると、娘が反抗する。
なんとか宥めて渡らせると、雨足が強くなってきた。娘のいら立つ声を聞きながら、雨に濡れて服の色が変わっていくのをただジッと見つめていた。
やっと家の駐輪場に着くと息子が、
「ストライダーでいく!!!」
と言いだす。
幼稚園近くのドラッグストアまで行きたいらしい。
「買う物がないから、お家に入ろう」
と声をかけるが、息子は走る気満々だ。
しかし、ドラッグストアに行くには信号を渡らねばならない。
さすがに1人では渡れない息子は、反対方向の路地に入ってしまった。
声をかけると、どんどん先に進んでしまう。
時刻は19時を過ぎていた。
娘は1人で自宅に戻ってしまったので、夫に電話する。すると、夫は家にいて、娘も中に入れたことを知る。
少し安堵して、腹を決める。
そうして、家の裏手からぐるりと回り、10分くらいで家にたどり着いた。
娘はすでにカレーを食べていて、アレクサを実家と繋いで話していた。
母から言われたけどあまりに疲れていて、何も話せなかった。だからこそ、冒頭のLINEが先ほど入ってきたのだ。
夫は、こういった息子の対応をしても、特に労うこともない。
最近はそれに不満をもつこともなくなったけど、やっぱりやるせない気持ちになる。息子にとって楽しい時間といえども、積み重なると苦痛になる。
それだけでなく、毎朝、登園に1時間かかっているから余計だろう。
そういうことを心配して、母は冒頭のLINEをくれたのだ。
母にはすべてお見通しなんだな。
母の言葉から色のイメージが伝わる。オレンジ色だろうか。言葉に上乗せされて、感情が伝わってくる。
優しくて、和やかで、それでいて元気になる。
私への心配と。労わりと。エールと。
いくつになっても母からの愛情は尽きない。
そして、それが嬉しい。本当は、誰かによくやってるねと肯定されたかったのかもしれない。
私も同じように、子どもたちへ渡せるだろうか。母からもらった優しさの贈与を。
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