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早稲田の古文 夏期集中講座 第14回「沙石集」について

では、実際の入試問題を見てみましょう。2021年早稲田の教育学部の問題です。『沙石集』<巻第三下厳融房與妹女房問答事>からの出題です。この問題のポイントは、まず問二十四から問二十六まで対立語を選ぶ問題でしょう。ⅣとⅤ、ⅥとⅦ、ⅧとⅨがペアとなっています。

まず注意するべきは、「物の断わりを知ると、汁がごとく行ずるは、道異なり。されば過をあらため、断わりを弁へて、理をみだらざるは、実の賢人智者なるべし」というリード文です。物事を知っていることと実践行動することは異なるのです。もちろん、知っているだけではよくないので実践行動しないといけません。

この文章は学問についての文章です。厳融房という学生は、学問はできる人のようですが、すぐ腹を立てる、いわゆる性格の悪い人のようです。

そうすると、学問の真実・心理は自分の性格の悪さ、自己のあやまちを改めることだという趣旨だということが、読み取れます。まず、真実や心理をあらわす『理』と自分の改め直すべき性格の悪さ等をあらわす『過』が対立性のある言葉となります。

「行ぜむ知者といふは、広く物を知らざれども、道理を弁へて知れるがごとくⅣを恐れⅤを心得て、心明らかに悟りあるをいふなり」の文脈は、理想の学者のあり方を言っているので「を恐れてを心得」るべきだということになるでしょう。Ⅳを「過」Ⅴを「理」とするべきことになります。(問二十四)

問二十五は「ⅥとⅦとは異なり」とあるので順不同でしょう。選択肢を見ると㋩知と㋬行があるので「知と行とは異なり」でも「行と知とは異なり」と考えてもよいことになります。中国の古典、特に明代の陽明学では「知行合一論」というテーゼがあるので、それを知っていたらなお有利でしょう。

問二十六は、多聞広学はよくない、というニュアンスがずっと続いているので、結論としてⅧ(多聞)は劣り、とすべきでしょう。では、最善は何かという対立性が問題となります。多く聞いて知っているだけでは駄目だ、では身の過ちや怒りっぽい性格の悪さは何によって改まるかということがこの文の主題です。

実は「知」という言葉には二種類あるとわかれば答えは選べます。これを知性としては分からなくなります。博学多聞で知っているけどどうも賢くない人は何が足りないのか、知識ではなく知恵が足りないとわかれば問二十六のⅨは㋑の知恵を選ぶべき答えとなります。

ここまでくると問二十九は㋭の知識があっても実行が伴わないことは、仏教だけの問題ではない。という選択肢が正解となります。

なお、問二十一のⅢは難問と言えるでしょう。仏教の言葉の㋩四苦八苦や㋭の盛者必衰などを選びたくなりますが、正解は⑫の老少不定です。あまり見たことのない言葉でしょう。Ⅲの後の「前後の相違」とは子が親より先に死ぬことを言うのです。老いも少き(わかき)も不定なのです。


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