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SIGMA fpと『対話的な道具』について

想像とは違ったけど、こんなものを求めていた。
SIGMA fpを表現するなら、こんな言葉が適当かもしれない。
1週間ほど前、たいそう悩んだ末に、このカメラの購入に踏み切った。

最初に断っておくが、SIGMA fpは決して使いやすい道具ではない
もともとSONY α7iiiを使っていた自分からすると、カメラとは、AFが早く、手ブレは補正され、適当に取った写真をいい感じにしてくれるものだった。カメラが補正してくれることに慣れていた自分にとって、SIGMA fpは少し不便で、買ったことを後悔した瞬間もあった。

しかし、1週間ほどこのプロダクトを触ってみて気づいたのは、このカメラが他のカメラと違って、もっと豊かな体験をくれる『対話的な道具』かもしれないということだった。

道具と対話する、という感覚で

この1週間、色んな場所にSIGMA fpを持ち出した。普段は特別なことがない限りはカメラを持ち運ぶことがなかったので、それだけでも快挙と言える。

正直、僕はカメラについてはド素人だ。焦点距離やF値、ISO感度といった概念すら知らないでカメラを使っていたし、基本細かい設定はせずにオートで撮影してきた。それでなんとかなってきた身からすると、SIGMA fpはだいぶ癖が強い。オートにも関わらず、すぐ白飛びするし、手ブレする。困った。

でもしばらく撮っていると、自分のなかで面白さに気づく瞬間があった。今までは、撮りたい画を想像通りに切り取ってくれるものを求めていたが、それとは思想が異なるようだ。

このカメラの面白さは、必ずしも撮りたい画が撮れるわけではないが、「そういう撮り方もあったか」という気持ちにさせてくれるところにある。そうすると、「じゃあ、こう撮ったらどうなる?」「では、こうしてみたら?」という道具との対話のループが形成されていく。そして、その対話の先で、ときに自分の想像の範疇を超えてくる。つまり、自分が想像していなかった画に着地するのである。

細かいが、色や画角が変えられるというのも、意外と発見のある機能だ。
同じ風景でも、切り取り方を変えると、全く違う風景に見えてくる。

まるで会話の中で、アイデアがジャンプするときのように。やりとりの中で、自分の思考の枠の外に引っ張り出してくれる存在。自分だけでは辿り着けなかった場所まで一緒にたどり着くことができる、パートナーのようなプロダクト。それは写真の素人にも嬉しい、対話的に表現を探っていける道具であると感じた。

創造性を引き出す、対話的な道具

購入時にカメラ屋の店員さんに聞いたら、「カメラの知識がある程度ある、玄人さんじゃないと楽しめないカメラだとおもいます」という話をしていた。確かに、手ブレやAFの問題を考えると、そうなのかもしれない。でも個人的には、僕のような素人にも楽しめるカメラなんじゃないかと思う。

素人目線でいうと、「こんな写真がいい写真」という基準が自分の中にない。その基準を知るためには、自分の狙いとはちょっと外れた写真が撮れることも必要だったりする。それはきっと今の高性能なカメラだとノイズとして排除されてしまうものなのかもしれないけど、SIGMA fpではそういった偶然性が生まれやすいように思う。

「変なところにフォーカス合ったけど、これも面白いな」みたいなことも多い。

今回強く感じたのは、道具は必ずしも便利であればいいとは限らないということ。使いやすいこと以上に、創造性を引き出す役割を担う。そんな『対話的な道具』にこそ価値があると思うし、そういうものを発明していきたい。
そんなことを思いながら、今日もSIGMA fpをカバンに放り込んでいる。


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