見出し画像

雪のように白い花が咲いた日

雪のように白い花が咲いた日、空は澄んでいて、どんなに優れた絵描きが描いても、描き切れないような美しい色だった。それは、特別楽しいことや特別に悲しいことのない、ただただ平凡で、それは絵に描いたような平凡と思える一日だった。

しかし考えてみると、特別なものほど描きやすく、平凡なものほど描きにくいように思えるから、本当のところ、平凡な空の下、特別な一日を過ごしているのが、私たちの生活かもしれない。

私は会社で街が見える窓際の席に座り、夕方まで働いて、バスに乗って帰る。きびきびと働き、はきはきとしゃべり、のろのろと寄り道しながら帰る。

仕事が終わって、バスを待っている間、暮れていく空や、月の満ち欠け、道行く人の様子、ビジネスホテルの灯りを見ながら、心をリセットする。

喧噪の中、耳を澄まし、闇に包まれる中、目を澄まし、凍てつくような寒さの中、肌を澄ます。なぜ生きる?の問いに、沈黙してしまうが、沈黙の中で、何かを考える時間が好き。言葉にならない想いを言葉に変えていく作業の中で、自分を知り、過去現在未来の流れを見つめ、いつか必ず訪れる死を見つめる。

あぁ~今日は幸せな一日だったねと呟くと、そうだったねと返事してくれるのは外の世界で、そんなことないよ、駄目な一日だったと返事してくれるのは内の自分。その境い目は、水平線のようにどこまでもつながることのない私から見える一本の線でしかないのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?