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【連載小説】 吸血鬼だって殺せるくせに 7話

イーストレア村南東の森を抜けると、大きな岩で溢れる岩石地帯にでる。

昼過ぎということで見晴らしもよく、森からでてきたシカが日光浴をしているようなのどかな場所だった。

ジェイスの腕には小さなゆりかごが抱かれている。

中にはサラの娘、アンナが眠っていた。

当然、移動には馬の姿になったディページに乗ってきたのだが、ディページは寝起きだったこともあり、いつも以上に揺れた。

しかし、そんな中でもゆりかごで横になるアンナは、動じることなくすやすやと無防備に眠り続けていた。

ディページは人間の姿に戻ると、馬鞍をリュックのように背負い、あたりを見渡して大きなあくびをした。

「ふわ~あ……このあたりだよね?悪魔っぽい魔力感じるね」

「あぁ。巣は近いはずだ」

「それにしても、この子全然おきないねぇ」

「淫魔は成体になるまでの間、ほとんどの時間をを眠って過ごすらしい」

「そうなの?」

「早く成長するためにな。淫魔の種としての目的は繁殖そのもの。それができない幼体の期間をより効率的に過ごすためと言われてる」

2人は歩きにくい砂利道を歩く。辺り一面岩ばかり。

南にひと際目立つ大きな岩山があり、ジェイス達はそこへ向かいながら砂利道を歩き、淫魔の痕跡を探す。

「ディページ見ろ。ヒヅメの跡だ。たくさんある」

「言われなくても下品な魔力を感じるよ。……すげーいるね」

砂利道に残る羊のヒヅメのような痕跡。そこら中にあった。

それは淫魔達がここを何度も往来しているというなによりの証拠。

しかし足跡には、人間の成人男性のものと思われるものも多く、村の男たちがここに出入りしていたことがよくわかる。

ジェイスは足跡を辿り、さらに岩山の奥へ向かった。

足跡を辿った先は、岩山にぱっくりと開いた大きな洞窟だった。

外から見るかぎり中は相当な広さのように見える。上に空いた穴から細かな光が差し込んで、洞窟の中も妙に見通しがいい。

入口には香りの強い花の花弁が散らばっており、これは淫魔の巣にはよく見られる特徴だった。

淫魔は決して強い悪魔ではない。数人で襲いかかられても、ジェイスが敗れるようなことはないだろう。

しかし、巣の規模がわからない以上、最悪の事態は当然警戒する。ジェイスは細心の注意を払いながら、一歩一歩洞窟の中に足を踏み入れていく。

内部を見渡せるほど近づくと、ディページがつい声をだした。

「うっわ……」

洞窟の内部は外から見るよりもずっと広かった。

ベッドのように敷かれた牧草の束がいくつも並んでおり、あちこちに木箱のようなものが積み上げられていた。

それは食糧の援助をしている人間がいたことでもあり、そこは悪魔の巣にしては、あまりに人間くさい場所であった。

しかしそれより重要なのは、洞窟のあちこちにいる、おびただしい数の淫魔達だ。

一見すると裸の女性達。

牧草のベッドに寝そべったり……恥じらいもなく歩いていたり。

その数はジェイスの想像をはるかに超えており、彼女達の視線が一斉に向けられた瞬間、その想像を超えた光景に息をのむほどだった。

40~50なんて甘っちょろい数じゃない。ゆうに100体以上の淫魔がこの洞窟の内部にいるのだ。

洞窟は決してせまくはない。しかし、まるで歓楽街に迷い込んでしまったのではないかと錯覚するほどの賑やかさだった。

サキュバス達は皆整った顔立ちをしており、潤う瞳と唇はじっと見つめているだけで吸い込まれそうになる。

そこらじゅうで揺れる豊満な胸や尻は、男の目には猛毒。あまりにも奔放なその場所にいるだけで、クラクラするほどの妖艶さに満たされていた。

中には腹を膨らませている個体もたくさんいる。ここのサキュバス達も村の娘たち同様に妊娠しているのは明白だった。

「(思っていた以上の規模……これは……)」

ジェイスがふと洞窟の隅に視線を移すと、男性型淫魔であるインキュバスが一か所にかたまっていた。

しかし巣を所狭しと練り歩くサキュバスとは違い、インキュバス達はみな牧草の上に寝そべって元気がない。

インキュバス達の姿はすでに成人して数年経過しているように見えるし、おそらく寿命が近い個体なのだろう。

淫魔達は不思議なことに、ジェイスとディページを見ても誰ひとりといて警戒するそぶりをみせない。

それどころか…

「!」

「おっ!?」

数人のサキュバスが2人に近づいてきて、何も言わず、身体を優しくなで始めた。

そしてそのまま妖艶な笑みを浮かべ服を脱がせようとする。

ジェイスは身体に触れるサキュバスに冷たく言い放った。

「触るな」

ジェイスのその言葉を理解したのか、サキュバス達はジェイスからゆっくり手を離す。

数では圧倒的に不利な状況。数の暴力にはあらがえない。

しかし相手に舐められてしまっては交渉することもできない。ジェイスは毅然とした態度で声を発した。

「しゃべれる奴がいるはずだな……?人間の言葉がわかる女王が」

その問いにサキュバス達は答えない。ただ淫靡な瞳で見つめるだけだった。

すると洞窟の奥から、低い色気のある女性の声で返答があった。

「いらっしゃい……。あら、おしゃべりがしたいの?」

その声の主は淫魔達の統率を取る巣の女王。

サキュバスの女王を判別するのはとても簡単で、角と胸の大きさを見ればいい。

女王に選ばれたサキュバスは悪魔の象徴たる角、そして女性の象徴たる胸が肥大化し、身体もふくよかになる。

彼女は人間の服を着ていたが、むせかえりそうになる淫靡な香りは、簡単に隠せるものではない。

「淫魔の女王だな?」

「えぇ……そうよ。んふ」

女王はジェイスの身体をまじまじと舐めまわすように見た。

靴、足、腰、腹、胸、首……そして唇。最後にすっと目を合わせ、しっとりした声でこう言った。

「村の男じゃないわね……あなたたち」

「あぁ」

「ふふ……私たちは男性であればだれでも歓迎するわ。ここは……そういう場所」

その言葉ひとつひとつが、誘惑する魔術でも使われているのかと錯覚するほど色気があった。

女王の言葉を聞くと、またジェイス達の周囲にサキュバスが集まってくる。

ジェイスは囲まれるのだけは避けたかったが、後退することもできなかった。

少しでもこちらが不利な状況に立たされている悟られれば、決してこの交渉を成立させることはできない。

あくまで毅然とした態度は崩さず、女王に言う。

「これだけの規模の巣が、よく今まで気づかれなかったものだな?」

「あら……何度も気づかれたわよ?でも人間の男の人はみーんなやさしいから……んふ」

女王はじっとジェイスの目を見つめた。ジェイスは警戒を解かず、目を離さずに続けた。

「俺のようなモンスタースレイヤーは来なかったみたいだな?」

「あら……あなたモンスタースレイヤーさん?」

「あぁ。しかも腕利きのな」

「んふ……たくましいのね。モンスタースレイヤーねぇ……ふーん。今まで来たのかも知れないけれど、私は覚えていないわね……。だって男の人はみ~んな、ここに来たら私たちに甘えて帰るだけですもの……。あなたが抱えているその赤ちゃんみたいにね」

女王はジェイスの抱えているゆりかごに視線を送った。

「村の娘が生んだサキュバスの幼体だ……。あんた達が連れて行ってくれ」

「あら……わざわざ持ってきてくれたの?大人になれば勝手に帰ってくるのだけれど……ご親切にどうも。優しいのね……モンスタースレイヤーさん」

ジェイスは、抱きかかえていたアンナを差し出す。

すると一番近くにいたサキュバスが何も言わずゆりかごを受け取り、洞窟の奥へ持って行った。

ジェイスは巣をもう一度一望し、端的に交渉を開始していく。

「これほどの数……イーストレア村だけじゃなかったのか。お前らの繁殖に使われている村は」

「どの村のことかはわからないけど……ここに来る男たちはみ~んなお得意さんよ?もうこの地に住んで12年。……人間の男性はやさしいからだ~い好き」

「そうか。気にいってるところ悪いがハッキリ言う。ここから出ていけ。さもなければここにいる奴ら全員駆除しなくてはならない」

それを聞いた女王は少し黙り、わざとらしく考えるようなそぶりを見せたあと……

「あら……残念ねぇ」

と、一言だけ返答した。

そしてジェイスの身体をもう一度舐めまわすように見たあと、しっとりとした口調でこう続けた。

「でも……まぁ……んふ。そんなことより……モンスタースレイヤーさん、少し疲れてるんじゃない?」

女王は他のサキュバスと目を合わせる。

すると数人のサキュバスが、再びジェイスとディページの身体にまとわりつく。

「とりあえずおしゃべりは、ちょっと休んだあとにいかがかしら……?楽しいのよ?私達とあそ…

バシュッッ!!!!!!!

「きいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!!!!」

「!?」

その瞬間。ジェイスにまとわりついたサキュバスの一人の腕から肩が無くなった。

まるで大量の絵の具をぶちまけたように傷口から血が噴き出し……女王や他のサキュバスの身体を赤く染める。

一瞬でその場にいたサキュバス達の表情が、本来の姿である悪魔のように醜悪になった。

しかし女王だけは美しい姿のままで……うすら笑いを浮かべるように、ジェイスを見つめていた。

ジェイスは剣の血を払い、鞘におさめる。

「言っておいたはずだな……?『俺に触れるな』と」

何も返答せずにただジェイスをじっと見つめる女王に、ジェイスは言葉を放つ。

「俺に『惚れ魔法』は効かない。次に誰かが俺の身体に触れた瞬間、視界に入る淫魔全員を肉の塊に変える。……それを理解した上で話を聞け」

「頑固なひとね……楽しいのよ?私たちとあそぶの」

「だろうな……。村の男がこぞって通うくらいだ。お前らがどんな悪魔なのかはよく知っている」

「んふ……悪魔に詳しいのね。あなた、まさか私達を性を食い物にする下劣な悪魔だと、そんなこと言いに来たのかしら?」

「いや……。むしろ淫魔としての生を全うする真っすぐな存在だと思ってるよ。巣がここまで大きくなったのは、むしろ人間のせいだとも重々理解しているつもりだ」

ここで女王の表情がこわばる。しかし、自分でそれに気づき、すぐに戻した。

「ふぅん……モンスタースレイヤーさん、それを理解した上で私たちをここから追い出そうとしてるの?……罪は人間にもあるとわかっているのに」

「あぁ、そうだ。出ていってもらう」

「12年も欲望のままに、私たちとイイコトをした無様な男たちを救うために……私たちを殺すというのね?」

「そうだ」

「本当に……自分勝手な生き物なのね…人間って」

色気のある声で冷静を保っているように見える女王だったが、いつの間にかその瞳に強い警戒心が芽生えていた。

周囲のサキュバス達はまだ醜悪になった顔でジェイスを睨む。

ジェイスは周囲に警戒しつつ……ハッキリと言った。

「そんな無様な人間に寄生することを選んだのは……お前らだろう?淫魔」

少しの沈黙。緊迫した空気はいつはじけてもおかしくなかった。

余裕を演出するように、女王はゆったりとした口調で返答する。

「私たちがここから離れ、どこかへ行けるとでも?」

「いけるさ……。山を越え、隣国のヴィンドールへいけ。あそこに人間の法はないし、俺みたいなモンスタースレイヤーに追いかけまわされることもない」

フュリーデントと山を挟んだ隣国にあたるヴィンドールは、大陸5大国の中でも外交を極端に行わない国だった。

外界との接触を極端に避けるヴィンドールの情報は言葉による伝承がほとんどで、どのような国家体系をもっているのか、どれほど統一された国なのかさえほとんどわからない。

しかしヴィンドールは『何も与えないが、何も拒否しない国』と呼ばれ、国を追われた者達が逃げ込むような場所でもあった。

「ヴィンドールは外から来た存在がどんなものだろうと全てを受け入れる国だ……お前たちでさえもな」

「私たちが国境を越えられると?……村の男が言っていたわ。今この国の出入りはとても難しいってね……私たちを騙す気なんでしょ?」

「グラインフォール側は難しい。今も難民が列をなして連日押し寄せているからな。しかしヴィンドールは反対側だ。俺がホークビッツ大使として公的に受理される印書を書けば、それほど難しくなく出国できる。角を隠して服を着れば、数日で国境も超えられる」

「ふーん……村にはまだ妊娠した娘がいるはずだと思うけれど?生まれてきたサキュバスはどうするつもりなのかしら?」

「どんなに遅くても15日以内には皆出産するはずだな?……生まれたらお前達が連れていけ。それから旅を始めればいい」

ここで女王の返答が止まった。

しばらくの沈黙。ジェイスの交渉に対し、真剣に考えている。

おそらく女王は、ジェイスがどれほど強いのかを考えていたはずだ。仮に今ここで戦闘して、はたして倒すことができるのか。

しかし戦闘が苦手な淫魔には、ジェイスの強さを正確に測る術がなかった。

そして数分の沈黙をやぶり……女王は言葉を発した。

「……断ったら?」

「何度も言わせるな……駆除する。ここにいる全員だ」

「さっきあなたが連れて来た……あの子も?」

「あぁ。殺す」

ジェイスはここで折れてはいけなかった。

女王がジェイスの力量を知らない今であれば、淫魔は無謀な戦いをするような悪魔ではない。

断固とした態度で交渉を続ける。

そしてさらに長い沈黙ののち、女王はついに決断をだした。

「いいわ……出ていってあげても」

この返答に最も安心したのは……誰でもない、ジェイスであった。

ただそれを表情にださないよう、細心の注意を払ってそのあとの言葉を選ぶ。

しかしジェイスが選んだ言葉が発せられることはなかった。

なぜなら、女王がこんなことを言いだしたからだ。

「でも……私たちばっか損して……不公平じゃない?」

「……不公平?」

周囲のサキュバスからの視線が強くなる。

ジェイスもそれに気付き、いつでも剣を抜けるよう視線を正した。

この後、女王の言葉次第では戦いになる可能性もある。

しかし、女王の口から出た言葉は予想外のものだった。

「ちょっとしたゲームで……私たちと賭けをしない?」

「ゲーム……?」

「えぇ……あなた達が勝ったら、黙って言われた通りにしてあげるわ。この国をでていく」

「俺達が負けたら?」

「このあたりの村の男を貰っていく。全員ね」

それは、サキュバスからすれば当然の要求であった。

ここを追い出されたとしても、淫魔のいいなりになる人間の男さえいれば、またすぐに大きな巣を形成することができる。

ジェイスはこれを飲むか頭の中ではそうとう悩んだが……断って戦闘になることは避けた方がいいと思った。

「わかった」

「んふ」

「……それで、どんなゲームなんだ?」

「簡単なゲームよ……村の男たちと暇つぶしにやっていた、ちょっとエッチなただのお遊び」

すると奥から一人のサキュバスが、なにやら綺麗な装飾の施された小さな木箱を持ってきた。

手のひらに収まる……本当に小さいものだ。

女王はその木箱を受け取ると、ぱかっと開いてジェイスに中を見せた。

しかし、その中身ではなく……箱から発せられる『音』で、それが何なのかわかった。

「これは……」

洞窟内に……素朴で綺麗な音楽が流れる。とてもシンプルなメロディ。

木箱の中身はオルゴールだった。

「箱を開けると音が鳴って、箱を閉じると音が消える。村の男が私にくれた素敵な素敵なプレゼント」

「そのオルゴールが、なんだって言うんだ?」

「これを……ここに置いておく」

女王は5歩ほど後ろへさがり、地面にオルゴールを開いたままの状態で置いた。

音楽はまだ流れ続けている。

「このオルゴールはね……だいたい2分ほどで自然に音がやむの。音が止むと、とても寂しい気分になるわ」

「ゲームのルールを言え」

「せっかちね……。女性がロマンチックな話をしているときは、男はだまってそれを聞くのが礼儀じゃないかしら?……たとえそれが淫魔であっても」

「男としての俺に何か期待するのは辞めておいた方がいい。お前にとって俺はただのモンスタースレイヤーだ」

女王は何も言わず、冷たい視線だけをジェイスに返した。

「まぁいいわ……。この箱を閉じて、音を消したらあなた達の勝ちよ」

「箱を閉じる……?それだけか?」

「えぇ……そこからオルゴールまで、ゆっくり歩いて箱を閉じ、音を消すの。もしその間に『私達の身体に触れたら負け』……わかる?」

「なるほど……そういうことか」

「わかっていると思うけど、当然私たちは邪魔をする。あ、心配しないで?暴力とかは好きじゃないから」

暴力を使わないで邪魔をする。淫魔が使う手段なんて……誘惑しかあり得ない。

つまりはオルゴールに触れて音を消すまでの間、サキュバスの誘惑に負けて彼女達に触れてしまったら負け。

しかしジェイスの場所からオルゴールまでの距離はせいぜい20m。

惚れ魔法の聞かないジェイスにとって、このゲームに負ける要素など一切なかった。

「こんな短い距離で誘惑するとは、ずいぶん自信があるようだな」

「……んふ。だって村の男に負けたことないもの。み~んな大見栄をきって始めるけど、結局オルゴールに触れることもできず、最後には私達と一緒にベッドの上」

「まぁいい……さっさとはじめよう」

ジェイスは決して誘惑に負けない自信があった。

例えなにかの魔術で操られても、最悪自分の身体を切り刻んででも、正気を保つ覚悟があった。

目と鼻の先にあるオルゴールを閉じることがなんて、とても簡単なことだ。

と、思っていたのだが……

「あ……まってまって」

「なんだ?」

「勝負するのはあなたじゃなくて……」

「……?」

「後ろの……か・れ」

そう言って女王は……寝ぼけ眼でサキュバスの身体にエロい視線を向けるディページを指さした。

「……。…………は?」

表情をまったく変えないジェイスだが……おそらくここ数年で一番焦っていたに違いない。

なんせディページは「超」がつくほどのエロ悪魔。

今にも目の前のサキュバスに抱きつきかねないあいつが、誘惑に勝てるわけはない。

ここまでほとんど言葉も発さず、経過を見守っていたディページがノンキに言う。

「え?……おれ?面白そうー!やりたいやりたい!」

「ちょ……。ちょ、ちょっと待て……」

「だ・め・よ?……これがルール。後ろのかわいい顔した彼もあなたのお仲間なんでしょ?」

淫魔の女王は……誘惑に弱い男、つまりは性欲の強い男を見極める力があった。

狙いを定めた男を必ず堕落させる見極めの力。繁殖を効率化するために天が与えたサキュバスの力。

淫魔にとってこの力は繁殖する上で非常に重要な意味がある。つまり、女王は一瞬で悪魔ディページの『エロさ』を見抜いたのだ。

ジェイスも当然それがわかっていて、絶望した表情を相棒である悪魔に向けた。

「ディページ……」

「大丈夫だってジェイス!へーき!へーき!」

「お前……わかってるよな?今どんな状況なのか……わかってるよな!?」

「わかってるって!サキュバスに触らずにオルゴール閉じるだけでしょ?心配しすぎだって!」

「奴らと目を合わせるなよ……?誘惑に負けたらただじゃおかないからな……」

「ははは☆ジェイスめっちゃ焦っててうけるっ!」

そういってディページは、ぴょんぴょんと前にでた。

そしてゆっくりとオルゴールに近づいていく…

「はじまりね……」

案の定、すぐに女王がディページに近づいて……耳元で囁いた。

そして他の大勢のサキュバス達も、ディページを囲む。

「あなたディページくんっていうのね?」

「……そだよ」

「えっちなこと……すき?」

「大好きです」

ディページの周囲にサキュバスが群がる。ジェイスからはディページの姿が見えなくなるほど。

妖艶な体つきを見せつけるように。

女王がそのままささやきつづける。

「もし、このままオルゴールを閉じないでいてくれたら……私と……この娘達全員で……貴方の身体○○○○してあげる」

「……え!?」

「知ってる?女の子に○○○させながら、○○○したら……すっごい気持ちいいのよ?」

「だ……だめだよ……ジェイスに怒られるし」

「いいの……あなたがこれからの人生で絶対経験できない……すっごい○○○……私たちならできるのよ」

「……そ…そうなの?」

「○○○して○○○○しても○○○のまま○○だってできる……あなたが望めばいくら○○○してもいいのよ?」

「ごくり」

「ディページッ!!!!!」

ディページが予想通りすぎるくらいの展開を見せるので…ジェイスが大きい声をだした。

すると女王が…

「あなたはちょっと静かにしててね……反則負けにしちゃうわよ?」

ジェイスは何もできない自分を心のなかでひどく責める。同時に、何か打開策はないかと頭をフル回転させていた。

「ねぇディページくん……?」

「は、はい……」

「○○○○○……したことある……?」

「え……ない……」

「あれってね?じつは……○○○しながらするとすっごいの。……ほら、この娘のからだをよぉく見て……?」

「じー」

「このかわいいお顔で……○○○……されてみたくない?」

「……」

「そ、れ、に……」

女王は…

ディページの耳に口づけするほど近くに唇を寄せて…○○○ジェイスに聞こえない声で何かをささやいた。

「○○○○○……」

「!」

それを言われた途端。

手が届く距離にあるオルゴールを前に、ディページは完全に動きを止めた。

「……!?」

そして…ディページはジェイスの方を振り向き……

本来の姿である、悪魔のような二ヤリとした笑いをジェイスに向けた。

「あのクソ悪魔……」

ジェイスはすぐに腰につけていた剣の柄をつかむ。もう無理だと思ったのだ。

今なら女王に隙がある。

他のサキュバスに邪魔されるよりもずっと早く…女王を切り刻んでやると。

しかし、その時。

ジェイスにとってあまりにも予想外のことがおきた。

ガンッ!

バギバギバギバギッ!

ディページがオルゴールを踏みつけて……粉々に破壊したのだ。

それを見て、女王がはじめて表情をしっかりとこわばらせる。

するとディページはジェイスに向けていた悪魔的な笑顔を…そのままゆっくり振りむいて、こんな言葉とともに女王へ向けた。

「おれさ、お前みたいな悪魔……大っきらい☆」


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