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Hifiman RE800 Silver 製品レビュー

━━初めに━━

 「良い音」とはなんでしょう?
身体に沈み込むような重低音でしょうか。
何処までも突き抜けるような高音でしょうか。

玉虫色の回答であれば「聞く人の好みの音」が一つの正解であり、悩ましい箇所でもあります。
オーディオ機器の紹介で一番難しく、また楽しいのはここではないでしょうか。

数多ある製品の中で、これもまた一つの楽しさを得る事が出来るものを、今回は紹介したいと思います。

 製品名は「HIFIMAN RE800 Silver」

HIFIMANは、2007年にアメリカにてDr.Fangにより設立され、2009年には世界初のハイエンド・ポータブルプレーヤー「HM-801」を発表。
世界各国のオーディオファン、専門家から高い評価を得た後に、数々の高音質ヘッドホンを生み出し、確固とした人気を集めているメーカーです。

 そこから新たに創造されたのは、小さく、軽く、されどその音は確かな歴史を繋いできた音を持つ製品でした。

「トポロジーダイアフラム」という新技術のナノ素材コーティングによって生み出されたダイナミックドライバー1機のイヤフォン。早速紐解いていきましょう。

━━付属品・スペック━━

 内容物はシンプルかつ豊富に、本体、円形のセミハードケース、イヤーガイドに、ダブルフランジ型(傘が二重のものです)などの様々なタイプのイヤーピース。そして飛行機用の変換コネクタが封入されています。

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特にこのイヤーピースのチョイスが面白く、近年ではあまり見ないダブルフランジやトリプルフランジまであり、自分に合ったフィッティングをゆっくりと探すことが出来ます。

特筆すべきは本体の小ささと軽さでしょう。
マットな銀色に輝きつつ、鉛筆ほどの軽さです。その恩恵で、耳掛けにしても、そのまま流しても非常に耳への収まりが良いのです。気軽に装着できるというのは、それを求める人にとっては非常に大きなポイントでしょう。

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ここで一つ注意点ですが、この製品はリケーブルに対応しておりませんので、保管する時は付属のケースにくるくると巻いて収納することをお勧めします。
非常に柔らかいケーブルですので、収納に手間取ることはないのではないかと思います。


━━音質について━━

 再生機器はSONY WM-1Aにて。

 まずは基準に良く聴かせて頂いている、SQUARE ENIX JAZZより、「ザナルカンドにて Jazz Arrangement」を。
 一聴して、先ず特筆すべきはその広大なホール感でしょう。
まるで音楽ホールの特等席で、生演奏を聴いているような感覚に陥ります。

ギターをつま弾く指先まで脳裏に浮かぶ描写力も素晴らしく、この筐体の小ささでこの表現力には驚かされます。 まさしくメーカーが謳うマルチドライバーに負けない描写力を感じます。

 他の楽器の描写を試してみる為に、ZABADAK「遠い音楽」を拝聴します。
民族音楽を彷彿とされる楽曲ですが、こちらの方は非常にやさしく奏でられ、焚火を囲んで演奏しているような空気感をしっかりと感じることが出来ます。

続けて「小さい宇宙」ではクラシックギターの優しい旋律が響きますが、抜群の空気感と共に、優しい旋律が楽曲によっては籠りと感じる方もいらっしゃるかと思います。
 男性ヴォーカルは綺麗に伸び、ブレスは変に艶を強調することもありません。
正に音源の通りに再生してくれるというのが正解でしょうか。

 高音の伸びの確認にPoca Felicita~少女たちの小さな幸せ~より「La Ragazza Col Fucile~少女と銃~」を
 高音は刺さるか刺さらないかの絶妙なラインでチューニングされています。
此方は体調にも左右されますが、楽曲によってはイコライザーを利用するのも良い選択かと思います。
 前述した描写力は此方でも健在で、オペラ発声も伸びやかに響き、メッセージ性の高い楽曲では特にお勧めできると感じました。

 続いてはロックをと、LUNA SEA CROSSより「Closer」を
低音は多くはありませんが、ベースのうねりは深い位置でしっかりと聞こえてきます。
ドラムのハイハットもつぶれる事はなく、キレの良さが良く伝わります。
 
 重ねてCROSSより「悲壮美」を。
アルペジオは指先が脳裏に浮かぶ流石の描写力ですが、ここまで聞いても聞き疲れがないのがまた面白い製品です。
 感情が非常に伝わってくるというのが特筆すべき点で、表現描写に優れてはいますが、俗に「粒立ちが良い」と呼ばれるほどの高解像度という感じではありません。
 楽曲の特徴を素直に表現してくれる、非常にシンプルかつ大事な点です。
ですが、これはまた諸刃の剣でもあります。
 
 素直に表現してくれる分、楽曲のレコーディング環境や取り込んだ時のビットレートでも大きく変化を感じるため、低ビットレートで沢山取り込むよりは、FLACや配信サイトでのハイレゾ音源で聴かれる方に特にお勧めできると感じました。

 そして、FF14:SHADOWBRINGERSより、メインテーマである「Shadowbringers」を。
シンセにギター、ベースにバリトンのヴォーカルが入り乱れる楽曲ですが、やはり音が潰れるといった感覚はありません。この表現力と“やりすぎなさ”がこの機種の大きな魅力だと思います。

 最後にはジャンルを変えて、Dream Theater A Dramatic Turn Of Eventsより、
「Breaking All Illusions」を。
変拍子の激しい楽曲ですが、音が潰れる事はなく、ギターのリフはジャキジャキと迫力をもって描写され、高速のバスドラムも深い位置で支えてくれている感覚です。
シンセも丁寧に描写されていますが、味付けは非常に少なくさらっと流し聴き出来る穏やかさを見せます。

━━総括など━━

 非常に軽く小さい筐体ながら、奏でる音はまさしく技術の粋が込められた“小さな巨人”と呼んで差し支えないのではないでしょうか。
 また、発売当時は6万円ほどの販売額でしたが、大幅な価格改定を経て19000円ほどにて販売されているのも大きなポイントでしょう。
 ミドル帯からエントリー帯への値段の変化は大きく、ステップアップの一つの選択肢としてお勧めの一品です。

特に味付けは最低限に、楽曲の良さを素直に表現してくれるため、所謂「沼の入口」としてもとても良い製品に仕上がっていると感じました。
 数多くの製品がしのぎを削っているこの値段域で、これも是非聞いてみてもらいたいと思います。個人的な話になりますが、筆者はローテーションに加えるか非常に悩むこととなりました……。

━━終わりに━━

 長文となりましたが、如何でしたでしょうか。
製品の魅力が少しでも伝わり、面白そうだな、聴いてみようかなと一人でも心を楽しませることが出来れば、これに勝る喜びはありません。
 また、これを切っ掛けにオーディオ沼に足を踏み入れる方がいらっしゃれば、非常に嬉しく思います。
 厳しい日々が続き、心身に疲労が積み重なっていく中で少しでもほっと出来る瞬間を提供できるのも、音楽の面白さかと思います。
 
 近くで試聴することが難しい方も、ONZO様のサブスクリプションサービスにて製品の貸し出しを行っておりますので、気になった方は是非製品ページと共にご覧くださいませ。

 改めまして、ここまで読んでくださった皆様、そしてONZO様に感謝を。

 皆様の良いミュージックライフを願っております。

                        筆者  早川 諒

━━試聴したアルバム━━

SQUARE ENIX JAZZ 「ザナルカンドにて Jazz Arrangement」
ZABADAK 20th 「遠い音楽」「小さい宇宙」
Poca Felicita~少女たちの小さな幸せ 「La Ragazza Col Fucile~少女と銃~」
LUNA SEA CROSS 「Closer」
LUNA SEA CROSS 「悲壮美」
FF14:SHADOWBRINGERS  「Shadowbringers」
Dream Theater  A Dramatic Turn Of Events  「Breaking All Illusions」 他