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ホップを推したい会社に、背中を押され

 
 私がこの会社に出会ったのは、ほんの1ヶ月前。この会社がある場所に来たのも初めてで、トレンドとも言える「推し活」をしている人達からしたら、新参者です。この「推し活」は、様々な形態があり、それまでの個人が個人を「推す」という枠から少し逸脱するようなケースもあるそうです。「推したい会社」という今回の企画は、そのケースに該当するかもしれません。もし、「推し活」に必要十分条件のようなものがあるとするなら、「推す」側の途絶えないワクワク感でしょうか。

        「日々の仕事が、より良い未来を引き寄せる」

 「推し活」をしている自覚はなかったのですが、一緒に活動していくにつれて、確かに自分の中にそういった感情があります。この会社が描くワクワクする未来を引き寄せる、そのための一歩を常に探し続ける姿勢に、私は共感しました。そして、私自身もその一歩になっていることに気付いた時は、タイトルの通り「背中を押される」ような高揚感がありました。現場や立場を越えて、いろいろな人が新しい一歩を踏み出そうとしています。仕事をしながら、どこか意気揚々としている、そんな雰囲気が漂っています。私の推したい会社は、理想の真っ只中を実直に奔放しています。

株式会社BrewGood


 実は、株式会社BrewGood(以下、BrewGood)との出会いは、JICA海外協力隊のグローカルプログラムという事前研修が直接のきっかけになります。今思えば、本当に偶然の賜物でした。場所は、岩手県遠野市です。実際に現地の人から聞かれた質問をそのまま聞きます。「あなたは、遠野から何を連想しますか?」
模範解答になり得るのは、妖怪、河童、遠野物語、神楽や獅子踊りといった伝統芸能だそうです。ちなみに私は、ホップと答えました。「どうして、知っているの」と驚いていましたが、事前に研修先のBrewGoodについて、少し調べていたからです。言葉のコピー&ペーストとはまさにこのことで、ホップの中身を全く知らないまま、自分の答えのような口をしていました。BrewGoodがホップにかける想いを、この時はまだ知る由もありませんでした。そして、「遠野と言えば〇〇」その答えになるべく、いろいろなものが群がる中で、別の新しい答えを模索しているのがBrewGoodだと解るようになるのは、まだまだ先の話。

 事務所に到着して挨拶を済ませると、早速ホップ畑に連れていってもらいました。遠野の地形は、山に囲まれた盆地で、事務所のある市街の中心地は比較的標高が低いため、ここからホップの姿は見えません。ホップとの初のご対面に緊張する間もなく、車窓から見えてきました‼️これがホップ畑だ。

道路と一体化して、まるでトンネルのよう
(撮影者: 仁科 勝介

写るホップ畑は、7月中旬頃の栽培時期。ホップは、アサ科のつる性多年草です。私事ながら、ゴーヤやヘチマ、ハヤトウリ、カボチャを栽培した経験があります。これらもツルが伸びて、グリーンカーテンのようになります。ただホップのそれは、他を凌ぐような圧巻の光景でした。

おしゃれな遊歩道のよう
(撮影者: 仁科 勝介)

 ご存じの方もいるでしょうが、ホップは、ビールの原材料のひとつです。ビールにおけるホップの役割はいろいろありますが、大事な特徴は香味でしょうか。8月の収穫時期に近づくにつれ、ホップ畑にその独特な香りが立ち込めます。アロマの効果もあるそうで、癒しの空間になっています。(実際に、お会いした遠野市内のホップ農家は、朗らかで落ち着いた方々ばかりです)

可愛らしいフォルムから千差万別の香味を生み出す
(撮影者: 仁科 勝介)

 ここまで簡単にホップを紹介しましたが、実際問題、育てるのはホップ農家になります。ホップ農家なしには、ホップはありません。あまりにも現実的な事象ですが、時計は針を止めてくれません。「担い手不足」「資材費高騰」「高齢化で離農」など暗い話題がその時計の針を進め、農業はいずれタイムリミットを迎える、その段階に来ているように思います。
 しかし、そんな農業の中で、遠野のホップ農業に明るい兆しを見出せるかもしれません。少なくとも、私はその可能性を感じました。そして、そこには私の推し「Brew Good」が大きく関わっています。

BrewGoodの挑戦

「ビールの里プロジェクト」ーホップの里からビールの里へー

 ここ遠野でのホップ栽培の始まりは、ちょうど60年前の1963年。日本一の農地面積と生産量は、確かに「ホップの里」に相応しい結果を残し続けてきた。その立役者は、もちろんホップ農家。最も分かりやすい形で結実したのが、2004年にキリンビールが「一番搾りとれたてホップ生ビール」を発売したことである。商品のラベルに、遠野産ホップ使用と明記され、「ホップの里」として遠野が全国的に認知されるきっかけになった。そして、2023年の現在までこの商品は、製造販売が継続している。

毎年、11月頃に販売
今年で20年目を迎えるロングセラー

 一方で、少しずつ需要と供給のバランスが取れない状況になってきた。「ホップの里」遠野にとって絶対に欠かせないプレイヤーは、ホップ農家。彼らへの依存と必要なサポート不足が衰退(農家数、生産量、農地面積の減少)という結果を招いてしまった。具体的には、1980年代のピーク時から1/11以上の20人、1/7以上の33t、1/6以上の17haにまで規模は縮小している。(2022年時点)

 この現状を踏まえて、これからを考えた時に、遠野は「ホップの里」から生まれ変わる必要があった。そして、BrewGoodは「ビールの里プロジェクト」の総合プロデュースを行うために、2018年に設立した。「ビールの里」遠野において、変わらないキープレイヤーはホップ農家。ホップ農業の持続可能な生産体制モデルをどのように整えるのかが命題だった。先ず取り組んだのは、ファン(関係者)を増やす事。これまでのKIRINの商品(遠野産ホップ使用)を買って飲む以外に、観光面から遠野に人を呼び込むなど、遠野でビールを楽しむためのコンテンツづくりに取り組んだ。幸いな事に、遠野はコンテンツになり得る素材の宝庫。(遠野物語、ジンギスカン、どぶろく、山菜など)こうしてBrew Goodは、ビールが他の地域資源をつなぎ、新しい産業に発展する未来を関係者と一緒に創っている。

 次は、獲得したファンを「ビールの里」プロジェクトのプレイヤーや支援者になってもらう仕組みをつくる事。具体的には、ホップ農業を支えるための寄付金をいろいろな形で集める。例えば、ふるさと納税、観光ツアー参加費やある商品の購入額の一部がホップ農業の持続発展のための財源となる。

未成年やハンドルキーパーにおすすめのホップソーダ
Brew Goodのオリジナルブランド「TONO JAPAN HOP COUNTRY」のロゴ付き

ふるさと納税の累計寄付件数:3,914件 寄付額:94,929,000円
(2019年から2023年6月末時点)
これは、「ビールの里プロジェクト」に寄付先が指定された金額になる。ちなみに、ふるさと納税(遠野市より引用)は、納税者が自由に寄付金の用途を選択できる仕組みになっている。遠野市のふるさと納税返礼品のランキングでは、常に上位に位置するビール。遠野のビールが全国的に人気であることを示している。もちろん、遠野産ホップを使ったキリンビールの商品があるから、この人気を維持できている事を忘れてはいけない。このように、様々な人に応援してもらっている結果、「ビールの里プロジェクト」への寄付金は、遠野市全体の納付額を大きく押し上げた実際に、遠野市職員と会話していると「遠野においては、ホップは農業の話だけではなくなっている」というホップに対して、目の色が変わっているのが伝わってくる。そして、遠野市は2023年6月に「日本産ホップ栽培基盤整備強化事業」を決定した。今年の9月から始まる乾燥施設の大規模改修は、日本のホップ農業の様々な課題を解決する大きな一手になるだろう。実際に、遠野のホップ農家がどう思っているのか、気になったので聞いてみた。

「何がどうなるか、想像つかない。でも楽しみ。」
「これまでの苦労が軽減されると思うと、気持ちが楽になる」
「離農した人が、もう一回戻ってくるかもね」

BrewGoodの取り組みは、確かにホップ農家に届いていた。この生の声を聞いた時、自分の「推し」がスポットライトに当たっているような気分になった。「衰退」の一途を辿っていたホップ農業は、遠野で息を吹き返そうとしている。残念ながらタイムリミット(=消滅)を迎えてしまった産地は多い。遠野は、ホップの一大産地になる土台が出来つつあり、産業の新しい発展につながる可能性を示している。
 
 そして、偶然ではないこの状況をつくり出したのは、BrewGoodがプロデュースした「チーム遠野」の総合力である。そのプレイヤーは、遠野市、KIRIN、JR、道の駅、遠野のブルワリー、そして全国の遠野(ビール)ファン。地域のファンは、「ビールの里プロジェクト」のプレイヤーとなって、遠野のホップ農業を支えている。Brew Goodは、そのモデルをつくることに挑戦している。まさに今、その挑戦は、新しいフェーズを迎えている。時計の針を巻き戻すように、「ホップの里」を取り戻し、タイムリミットのない新しい時計の針を「ビールの里」で進めようとしている。

Brew Goodがデザインした60周年の記念ポスター

 私が遠野に来てから、1ヶ月が経つ。Brew Goodという会社にいると、いろいろな人が立ち寄る。もちろん話題は、ホップとビール。BrewGoodの挑戦に、多くの人は前のめりだ。例えば、ビール事業の参入、新品種ホップの開発や体験&試験醸造設備の導入(日本産ホップの研究拠点)など、ワクワクする未来を語り合う。どこか、意気揚々に見えるのは、その空間が希望に満ち溢れているからだと思った。「BrewGood」という社名は、社会的に良いこと(Good)を企む(Brew)のが由来である。これは、解釈の余地がある曖昧なものかもしれない。しかし、これまでのBrewGoodの具体的な取り組みが多くの人々の間で共通理解を生んでいる。「確かに良いことが遠野で起きている」そんな声があちらこちらから聞こえてくる。私の「推し」は、胸を張って大声で言うことができる。なぜなら、BrewGoodだからだ。遠野ホップ栽培60周年ポスターのメッセージ「今年も、これからも、挑戦は続く」この言葉に背中を押され、高揚感を感じるのは私だけではない。まさしくホップは、遠野のHope(ホープ)になっている。是非、皆さんも遠野に来て、「推し活」始めましょう。まずは、ホップ畑でBeer Toghther❗️

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
下の動画は、BrewGoodの手掛けるブランド「Tono Japan Hop Country」がビールの里プロジェクトについて紹介しています。動画に登場するプレイヤー全員が遠野の未来へ旅するための羅針盤を持っているのが伝わると嬉しいです。



筆者の簡単な紹介

  • 名前は、加藤圭介

  • 出身は、新潟県新潟市

  • 年齢は、24歳

  • JICA青年海外協力隊として、ケニア🇰🇪に派遣予定

  • ビール好き

カメラマンにつられて、笑顔の筆者 in ホップ畑
(撮影者: 土田 凌)



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