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そのときうちは①(ロシア)

そのときは
列車の窓から外を見ていた。

ロシアのウラジオストクという
東の端の街を
列車は深夜0時に出発して、
昼になった今も
バイカル湖に向かって
うちを運んでいた。
うちは寝転んでいて、列車は走っている。

窓の外では
しらかばの木々が
線路の近くまで
迫って続いていた。
しらかばらは、
なぜなのか
途中からぼっきり折れて
ろうそくみたいになっていた。
火の消えたバースデーケーキの上を
走っているみたい。
土が黒くてチョコレートケーキみたい。
(うちはお腹がすいてる)

しばらく行くと
見渡す限り草しか生えていない
草原

またしばらく行くと
濃く青い葉っぱのついた森

変化がせわしない
でも、どこまでも人はいない


青い針のような木が続いたところで
ひとりの人を見た。
中年の、髭を生やした男の人。犬も一匹。
そのひとは森から出てきた。
魚をとる網のようなものを持っていた。
橋を前にして
浅くて細い川を渡ろうとするところだった。
その人が向かっていく先には、
家があった。
2、3軒しかないそれらの家は
草原の中で、
小さな林に隠れるようにして建っていた
家の外には薪をたくさん積んであった。


ここでどうやって暮らしているのだろう
うちは想った

あの薪は
一人で、広大な針葉樹の森に入って
切って運んでくるのだろうか

犬と一緒に
川に魚を捕りに行くのは
たまになのか毎日なのか

魚はどうやって食べるのか
主食は何を食べるのか
見たところ周囲200kmくらい
スーパーマーケット
はなさそうだけど
小麦を自分で育てているのか

彼の動きは見た感じ
きびきびしてたけれど
特に上機嫌にも見えなかった。

いつもと同じ暮らしを、
いつもと同じように
やや、楽しみながら
行っていたのだろう。

あるいは言葉にならないあきらめも、
心の中にあったのかもしれない。

なんてことを思いながら
うちをのせた列車は
夢のように通り過ぎて行って
たぶん
その人はもう家についただろう

2019.5.28 Mizuki

絵を描くのは楽しいですが、 やる気になるのは難しいです。 書くことも。 あなたが読んで、見てくださることが 背中を押してくれています。 いつもありがとう。