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#名刺代わりの小説10選

みんな大好きついったらんどにてこんなハッシュタグを見かけまして、定期的にこの手のネタって上がってくること多いんですけど、

久しぶりにちゃんと考えてみたらとても140文字じゃおさまりそうになかったので(そらそうだ)

こちらもマジで久しぶりのnoteにでもまとめてみようかなと思い立ちました。

他の方がどういうコンセプトで(そもそもTwitterにコンセプトもクソもないと思うのだけれど)つぶやいているかはわかりませんが、

・「名刺代わり」というからには自身の人格を形成する(変化させる)ほど人生に大きな影響を与えた作品であること

・今も自室の本棚にあること(意外と処分しちゃったりしてる)

・シリーズ物はその中でも特に好きな1冊に絞る(上下巻構成は別)

・順不同(でもたぶん受けた影響の大きい順)/(作者の)敬称略

という括りでお送りしようと思います。

まあ誰に需要があるのかは相変わらずわかりませんが、というか自己満足以外の何物でもありませんが、せっかくなので徒然なるままに書いていこうと思います。

①愛と幻想のファシズム:村上龍

学生の頃に読んで、文字通り自分の人生に最も大きな影響を与えた作品。

村上龍はほとんど読んでて(最近はご本人がテレビに出てたりするのもあって妙に説教臭くなってる気がするので読んでないけど)、「コインロッカー・ベイビーズ」も「五分後の世界」も「音楽の海岸」も「長崎オランダ村」も「半島を出よ」も「希望の国のエクソダス」も大好きなんですけど、やっぱり自分にとって一番大切な作品はこれ。

鈴原トウジになりたかった。だから誰にも(もちろん奥さんにも)言ってないけど息子の名づけの際に1文字もらった。この小説が今読んでも古臭く感じない(主観)のは多分この国がその時からまったく変わっていないからで、読むたびにそれを感じて絶望的な気分になるのだけれど、それと相反するように自分自身の中の何かを変える必要がある時に読むと爆発的な力がもらえる。まるで巨大な黄金のエルクが自分に乗り移ったかのように。

ちなみに「エヴァ」におけるシンジの親友(「シン」でも良い仕事してましたね)二人、トウジとケンスケの名前はフルネームでこの作品の主人公二人から取ってるってのは有名な話。

②世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド:村上春樹

もう一人の村上、というか世間的には多分こっちが一人目、本人にはまったくその気がないのにノーベル賞の時期になると必ずその名が話題に上る、今は「ドライブ・マイ・カー」の原作者(未読)としてとうとうアカデミー賞界隈でも話題になってしまった日本が生んだ世界的大作家、ハルキ・ムラカミ。

これも好きすぎて読み出すと世界にどっぷり入っちゃうんで、最近は疲れるからあんまり読み返してないんだけど(加齢)、読むたびに四十路の中年に燻ぶる厨二心をこれでもかと刺激してきますよね。閉ざされた世界、やみくろ、一角獣とその頭骨、図書館、そして眼鏡の司書。

村上春樹の小説って独特な静けさがあるというか、音楽にまつわる話が良く出て来るし登場人物は必要以上によく喋るのに小説本編は無音なんですよね。音楽というか、リズムやビート、メロディを感じさせる小説は比較的あると思うんですけど、ここまで無音なのって珍しい気がする。かの有名な「ノルウェイの森」も表題曲が要所で流れて来るだけだし。もちろん頭の中にですけど。その中でもこれは特に静かかな。

熱心なハルキストではないですがもちろん村上春樹は結構ちゃんと読んでて、それこそデビュー作の「風の歌を聴け」から始まる「鼠三部作」もその続編の「ダンス・ダンス・ダンス」も大好き(UNIQLOのコラボTシャツ買いました?皆さん)だし、「海辺のカフカ」も大好き。1Q84も騎士団長殺しももちろん読んでる。だけどやっぱり「人生に大きな影響を与えた」ってなるとこれになりますかね。よりによって一番色々とこじらせてた高校生の頃に出会っちゃったんだよな…

やれやれ。

③覇者と覇者-歓喜、慙愧、紙吹雪-:打海文三

俗にいう「応化クロニクル三部作」の完結編。まあ絶筆なので途中で終わってしまっているのだけれどもちろん頭から読んで欲しい。

小説というのは(というか自分が手に取るあらゆる創作物は)自己を投影するものだと思っているので(だから本棚を見られるのは恥ずかしいのだ)、上述の2作然りここに書く作品にはバリバリ自己を投影しまくっているのだけれど、この作品の主人公、カイトにはトウジと同じくらい「こうなりたかった自分」を映している。

自身の手の届く範囲(それはこの作品全体を通して少なからず拡大していくわけだけれど)の大切な人たちを守るために、何よりもそれを最優先に、それ以外のことはまったくどうでもいいと思えるほどに、自身が血に塗れてもその決断を揺るがせない。そんな戦う家長におれもなりたい。

あとこれはテクニック的にすごいな、と思わされたのが、主人公のカイトは幼いころから家族を守るため戦場に出ていて、当然学校なんかロクに行ってないんだけど(そんな時代じゃない)勉強は好き(というか自己武装の一部として必要なんだと思ってる)で、成長していくにつれ家庭教師とかを雇って勉強を始めるんだけど、物語を追うごとにひらがなが多かった話し言葉にどんどん漢字が増えていくの。でも頻回で使用する単語は戦争用語(暴力関係のことば)が多いから、そういう単語から漢字になっていくわけ。それが成長を感じさせるギミックになっているとともになんとも切なくて、この物語を象徴しているなぁ、って。

④ネコソギラジカル (上) 十三階段:西尾維新

これに限っては上巻のみ。それには理由があるのだ。西尾維新についてはもちろん物語シリーズも全巻読んでるしこの戯言シリーズも最高だし魔法少女りすかも最近完結したし刀語はアニメ良かったし(原作未読)忘却探偵シリーズはドラマでガッキーが究極だったし(原作は途中で挫折)伝説シリーズは2冊目で放棄したけど大好きなんです。

戯言シリーズは途中めちゃくちゃ読むのしんどいんですけど、この巻で視界が開けるんですよ、ブワーっと。最終決戦の前だからってのもあるけど。

今までベストオブクソ人間だった「欠陥製品」こと「ぼく」が、初めてなにかを決断する(もちろん色んな人から背中を押されながら)巻なのでカタルシスが凄いんですけど、相変わらず作中の登場人物に感情移入を過大にしがちな自分からすると、完全にいっくんは「ぼく」なわけです(ER3システムのキャッチを自己信条にしていますから、未だに)。トウジとかカイトとか「なりたかった自分」ではなく、「クソ人間のぼく」。だからこそ途中読んでてめちゃくちゃしんどいわけなんですが。だからこそそのクソ人間が色んな犠牲の上に気づきを積み上げ、決断する場面が本当に眩しいんです。ああ、こんな奴(俺)でも大切なもののために戦えるんだなぁ、って。

とかいろいろ書きましたが、なにより人類最強、哀川潤さんが心の底から好きなので(恋慕よりは崇拝に近い)、潤さんが人類最強にカッコいいこの巻を激推しする。

⑤初秋:ロバート・B・パーカー

スペンサーになりたい。

スペンサー・シリーズから受けた影響もこれまた計り知れなくて、特にファッション的な意味合いとライフスタイル的な意味合いにおいてスペンサー(とスーザンとホーク)は憧れなわけです。フィリップ・マーロウよりももっと(というか古今東西のハードボイルド小説の中で多分一番)健康的で、ランニングとドーナツとコーヒーとビール、そして地元ボストンのスポーツ・ティーム(レッドソックスとセルティックス)をこよなく愛し、料理をし、DIYをし、休む時はしっかり休む。限りなくタフでピュア。少年と父親が同居している。

今また「スペンサー・シリーズを最初から最後までちゃんと読んでみよう」衝動が盛り上がってきていてチョコチョコ古書店で買い漁っています(一時期本棚の整理で結構手放しちゃった)が、やっぱりカッコいいのです。

ランニングとコーヒーとビール(ビールは元々好きだけど)、ってライフスタイルは完全に彼の影響です。特にこの「初秋」はライトなファンからディープなそれまでほとんどの層のシリーズファンが「名作」と推す作品なので、ハードボイルド小説ちょっととっつきにくい、って思ってる人も是非読んで欲しいのです。

⑥アド・バード:椎名誠

エッセイのイメージが強い(けどエッセイは読んだことない)作者だけど、本作をはじめとするいわゆる「SF三部作」こそ小説好きには読んで欲しい。特に「水域」はこれに負けず劣らず良いから。独特な設定(っていうか独特な設定じゃないSFってあるのか?)とそれの説明もまた輪をかけて独特な言語感覚で進むから合わない人には合わないと思うけど、このリズム感が心地よく思える瞬間が来る。物語の展開もピュアなジュブナイル冒険SF、って感じがビシビシ伝わってきて大変良き。

日本的なものを変にアレンジせずに日本的なままSFに昇華させている稀有な作品であり(藤子不二雄的とも言える)、まさにジャパニーズSFの金字塔だと思う。「好きなSF小説は?」って聞かれたら真っ先にこれと次に書くやつを挙げる。どこまでを「SF」と定義するかにもよるけど。

⑦地球の長い午後:ブライアン・W・オールディス

海外SFを拾う時に参考にしているのが「ヒューゴー賞」と「ネビュラ賞」。これを受賞してるやつは間違いない。って自分の指針を定めるきっかけになった一冊。これも読んでると疲れる(主人公のグレンとアミガサのやり取りに終始イライラする)のであんまり読み返せてないけど、上述の「アド・バード」は椎名誠なりの本作へのオマージュだとか、宮崎駿「風の谷のナウシカ(原作)」のモデルになっただとか日本SF界に与えた衝撃と影響はかなりのものがあって、ただそんな情報抜きにしてもまず設定からして抜群に面白い。設定厨なので設定が自分にハマったらもう勝ち(負け)というか。

しかもこうやって書いてて色々繋がって思うのは「ナウシカ」にせよ「アド・バード」にせよ、貴志祐介「新世界より」にせよ今色んな意味で界隈をザワつかせている問題作(?)「メイドインアビス」とか、自分の好きな作品は割と一本の線でつながっていて、その源流にこれがあるんだなぁ、って。

⑧姑獲鳥の夏:京極夏彦

劇的さで言えば「狂骨」だし、後味の悪さなら「魍魎」、長さで言うなら「絡新婦」「鉄鼠」だろうし、榎木津礼二郎が好きなので百鬼徒然袋もなぁ、でもシリーズとしては「ルー=ガルー」のほうが好きだしなぁ、なんて思ってたんだけどやっぱり初読時のインパクトを考えるとこれを挙げないわけにはいかない。どこかの蚊取り線香のCMよろしく「、日本の夏」って語尾につけたくなる。「巻数を追うごとに長くなる」「枕にして寝られる」「もはや鈍器」でおなじみ京極堂シリーズのはじまりの巻、姑獲鳥の夏。

正直な話、読書体験としてこれを超えるものはないかもしれません、今のところ。よく使われる比喩で「頭をハンマーで殴られたような」とかありますけど、そんな感じ。まさに枕本で頭を殴られたわけです。一冊1000ページ前後もなんのその、あっという間に既刊を読み終わり(「宴」が出る前だったかな、確か)、一時期周りの人に勧めまくってました、シリーズ丸ごと。おススメの本って言われてこれ(しかもシリーズで)勧める奴、結構ヤバいですよね…量と言い内容と言い。そんな分量も質量も求めてねぇって、聞く方は。もっとライトでファニーでファッショナブルな感じのやつだよ、「不思議の国のアリス」とか(まああれはあれでとてもライトでファニーでファッショナブルとはいいがたいけれど)。

ともかくこのシリーズに出会ってしまったことで、「京極以前/京極以後」という明確な分水嶺が自分の中にできてしまったので、今もまだ読書を続けているのは、これを超える読書体験に邂逅したいからなのかもしれません、わりと本気で。

⑨筺底のエルピス 4 -廃棄未来-:オキシタケヒコ

京極堂シリーズに次ぐ(並ぶかも)読書体験。圧倒的な感情のうねり。読後にしばらく放心した。もちろんこちらもシリーズものなので1巻から読まないとわけが分からないのだけれど、一冊挙げるとしたら4巻。まさに地獄。進んだその先には地獄しかないことが分かっていても、真っ暗闇の先に光が見えたら進んでしまうんだ、人は。

スタートは(ガガガ文庫から出てるって印象もあって)いわゆるラノベっぽい入りなんだけど、巻が進むにつれて地獄みが増してくる。ラノベ系出版社から刊行されているにしては設定も展開もハーコー過ぎる。1巻の感想で「俺TUEEE系主人公」とか書いている自分の読みの浅さに心底ガッカリする。いやでもそうなんだもん!嘘じゃないもん!

既刊7巻で6巻まで読了、7巻は積んであります。色んな意味で怖くてまだ読めてない。

最近歳だからでしょうか、ほかの作品でもそうだけど「好きな作品終わっちゃうのイヤイヤ症候群」が発症しているらしく、完結に向かっている(終わりが見えてきている)作品の最新刊がわりと読めずにいます。

あと「殺戮因果連鎖憑依体」って言いたい。語呂は悪いけどなんか言うと気持ちいい。

⑩Twelve Y.O.:福井晴敏

よく「男性至上主義」とか書かれてることが多い。好きなのに。あとここ数年この人アニメ畑に進出しすぎだと思う。

まあ男の子にとって「軍」しかも「秘密組織(アルファベット表記の頭文字取ってカッコいい響きになる名称のやつ)」は永遠の憧れだと思うのですが、現代日本を舞台にするとどうにも嘘くさくなっちゃう。ハードボイルド小説もそうですけど。いやフィクションだからいいんですけどね?嘘で。でも現代をベースにするなら「ギリギリありそう」を攻めてもらえると読者としてもよりイメージが膨らみやすいというか。そういう意味ではこの人の書く自衛隊モノと、月村了衛の「機龍警察」シリーズはちょうどいい塩梅だと思う。ありそうな組織、ありそうな近未来。

このシリーズは好きで処女作「川の深さは」から「Op.ローズダスト」まで全部読んでて、有名どころだと映画化もされた「亡国のイージス」「終戦のローレライ」あたり(どっちも興行的には完全にコケたよね、観てないけど)だと思うんですけど、中でも一番好きなのはこれ。ネタバレ覚悟で概要をかいつまんで説明すると、「日米に跨る壮大な親子喧嘩」なんですが、物語のテンプレとして「超える」ってテーマは普遍的に燃えるじゃないですか。ジャンプ的というか。ああ、ジャンプっぽいんだわ、これ。主人公がスレたおっさんだってだけで。漫画化(アニメ化)したら人気出そう。自衛隊モノだから色合いが地味だけど、「DAIS」とか「GUSOH」とか「テルミット・プラス」とかチョコチョコSF的というか厨二的な要素もあるし。色んな界隈でカップリングに使えそう(意味深)な登場人物たちだし。そうだよ、作者の力でアニメにすりゃいいんじゃん。


さてそんなわけでいかがだったでしょうか。

文章の中にもいくつか出てきますが、10冊じゃ足りないっすね。読書関連のハッシュタグも色々あるようなので、今回紹介できなかった作品もおいおい紹介していこうかと思います。しかしここのところあんまり活字を読めてないんだよなぁ、まずはそこからだな。

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