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バリアフリーホテルの完成形

最近クラブハウスでホテル系の話をお聞きして、学ぶことが多い。
そして、ホテル系の話の一つにバリアフリー…いや、バリアフリーという言葉はもう古くて、ユニバーサルデザインと言ったほうが良いでしょうかね。

そこで話されるのはハード面での調整とサービスの問題。
もちろんそこをバランスよく調整すれば、車椅子の利用者の快適性は上がります。
でもそこで話が止まってるんですよね。

北海道の道南、乙部町に「オールバリアフリー」のホテルがあります。
本州の関係者の皆様には知られていないホテルのようですが…。

ざっとホテルのハードのおさらいを。

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もちろん駐車場から車椅子で移動可能。

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客室のドアはカードキーによるスライド式です。部屋の中が見える時間が長いので、ぐちゃぐちゃになってると少し恥ずかしいかも。
廊下のタイルは、車椅子のタイヤの動きに干渉しにくい毛足の短いものが選ばれています。
当然エレベーターで移動可能です。

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バストイレ付きだった客室は、バスを取り払って車椅子対応に。
廊下にもオストメイト対応のトイレがあります。

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全ての客室にリクライニングベッドがあります。

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レストランは1階に。もちろん段差なく、1皿ずつ運ばれてくる(ビュッフェではない)ので、ここから動く必要がありません。

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フロントの横から入るのは温泉エリア。

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リフト付きの貸切風呂あり。でもこちらはあまり使われていません。
理由は後ほど。

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大浴場の脱衣場も当然段差なし。

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洗い場は車椅子のままで利用できる高さです。(入浴用の車椅子の貸し出しあり)
この高さは車椅子利用者でなくても使いやすい。

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内湯。向かって左の湯船がスロープ付き。

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外に出てみましょう。露天に出るドアが車椅子利用者にはちょっと重いかも。でも出ることができます。

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露天風呂にもスロープあり。

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サウナに行きましょうか。引き戸なのでここも大変かもしれませんが、ここがスライド式だったら熱気が逃げますね💦

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サウナにも、何とか入ることができます。

ハード面はこのような感じ。
駐車場から客室まで、さらにお風呂は露天風呂まで車椅子で利用可です。これらを、新築ではなくリノベーションで実現しています。

でも、ここの要と私が感じるポイントはそこではなくて、
男女それぞれ入浴介助ができるスタッフがいるところです。

車椅子の方の状況もそれぞれで、そこまで手伝ってもらわなくてもいいという方もおられると思いますが…私がなぜそこがポイントと考えるかというと、車椅子の方といつも一緒にいるパートナーが温泉で介助から解放されるのが大きいんです。

入浴介助が必要な場合、一緒に入れない男女別の浴室は使えず(それでも男湯に入ってきてお世話してるおばあちゃんを何度も見てる)、家族風呂では一緒に入れるけど介助でゆっくりすることはできず。
旅の間だって車椅子のパートナーのお世話でいっぱいで、介助者は旅を満喫できないことの方が多いはずです。

旅の間、介助をスタッフの方にお願いすることで温泉に浸かってる間の一瞬だけでも一息つける。
湯船で1人を堪能できる効果はかなり大きいと感じます。

実際、介助をお願いしてそれぞれ大浴場を利用するお客さんの方が多いとのこと。車椅子の方も相手がプロだから安心して委ねられますし、何より露天風呂やサウナも利用できるわけですから、そっちの方が嬉しいですよね。

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私がホテルマンだった頃、連泊のフリープランで車椅子のお客様(おじいちゃんが車椅子で、奥様が介助者)が来られたことがありました。公共交通も限られる糠平では、他の方のようにバスで帯広に出たりネイチャーガイドのツアーに参加することもできず。。
何日目かに「温泉街を散歩してくる」と、まだ雪が残る中ホテルから出かけられました。温泉街は狭いものの、車椅子には辛いであろう高低差(全体的に坂になっている)もあって気になったので、昼休みに入ってから様子を見に行きました。

車椅子を押し続けるには華奢なおばあちゃんが、やはり苦労しておられた。そこに手を貸して、私が1人で押して一緒に公園に向かいました。
その途中で、東大雪の山々が白樺の木々の間から見える場所がありまして。
「ここから山がちょっと見えるんですよ」と言った時、おばあちゃんがこう言いました。

「いつも(車椅子を押して)下しか見てないから、久しぶりに上を見あげて景色が見れたわ。こんなの何年ぶりだろう…来て良かった」

その一言が本当に嬉しかった。
そして、車椅子の方が楽しむことと同じかそれ以上に、一緒にいるパートナーの方が一息つけることが大切なんだと感じました。

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話を戻すと、そういう意味で「入浴介助できるスタッフが男女ともにいる」ということが大きいのです。介助が必要な方もそのパートナーの方も、両方ともお客様ですしね。

入浴介助できるスタッフがいるホテルを私は他に知りません。
そういう募集をかけているホテルも聞いたことがありません。

ハード面をいくら充実させても、それだけで終わるなら旅の間のパートナー(介助者)の負担がなくなることはない。だから「設備だけ」で終わっているなら、それはバリアフリーとまでは呼べない気もします。
パートナーにも目を向け、その負担を少しだけでもゼロにできるスキルを持つスタッフがいるこのホテルが、バリアフリーホテルの一つの完成形ではないだろうかと思っています。

介助の資格を持つ方がホテルでそのスキルを活かす…それもまた面白いですよね。

ちなみに、予約すれば宿泊の方は新幹線の最寄駅まで送迎もしてくれます。最寄駅といっても近くではありません。普通に1時間かかる道のりです。

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温泉経営者だった経験を生かし、北海道の温泉をさらに盛り上げる活動をしていきたいと思っています。サポートしていただけたら嬉しいです!