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マイスターおすすめの温泉 「文化の湯」


別府市営温泉シリーズ 別府温泉「文化の湯」

             シニア・マイスター 西村なぎさ・スーザン

 無色透明から、白濁の湯、幻想的な濁りの青湯、強烈な赤の血の池地獄、泥湯の灰色等、様々な色に湧く別府八湯の温泉。その中でも表立ったことのない存在でありながら、本物の温泉ツウが静かに通う、実は別府温泉を特徴付ける極上の湯の一種である「黄金色の湯」があることをご存知だろうか。
 

 その黄金色の湯は、別府八湯温泉郷の1つである「別府温泉」に複数湧いている。その一湯「文化の湯」は、竹瓦温泉や永石温泉の様な象徴的な伝統温泉建築ではなく、市営施設にありがちなごく普通の建物の別府市男女共同参画センター「あす・べっぷ」内のトレーニング・ルームに隣接された入浴施設。昭和60年に同施設の前身「ニューライフプラザ」が開設以来、トレーニング・ルーム利用者のみ入浴可能だったが、2020年10月より一般向けにも開放され、翌月11月3日の文化の日に「別府八湯温泉道」に加入、以来市内外の温泉マニアを癒してきた。入湯料も控えめな200円、泉質名も目立たない「単純温泉」。だがしかし、そんな地味な「文化の湯」で日々トレーニングの汗を流してきた常連入湯客の間では、その泉質の良さに人気があった。それもそのはず、温泉分析書もまた地味に語っている。

あっち〜湯で知られる別府温泉に見られる50℃前後の比較的温度の低い温泉水の場合は、炭酸水素イオンやカルシウム・イオン、マグネシウム・イオンが多く含まれている場合が多い(1)。「文化の湯」の令和1年の温泉分析書によれば、使用位置での泉温は45.4℃だが、源泉温度は55℃あり。溶存物質合計は0.929mg/kg。あとわずか0.071mg/kg溶存物質が多かったら、泉質名はなんと、「ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩泉」となっていたのだ。控えめに見えるこの湯は、実はちゃっかり個性豊かな泉質の温泉なのである。

液性はというと、pH7.6の弱アルカリ性で、しかもほぼ炭酸水素塩泉なので、肌の汚れや古い角質を落とす石けんのような働きから、肌のくすみを取り除き、つるつる・すべすべ肌への期待ができる「美肌の湯」である。一般的にナトリウム-炭酸水素塩泉(重曹泉)の場合はクレンジング効果、カルシウムやマグネシウムの炭酸水素塩泉(重炭酸土類泉)の場合は鎮静効果が期待できるとされている。また、近年「美人の湯」の代名詞になっている天然の保湿成分で、肌の新陳代謝を促す「メタけい酸」については、温泉法の別表規定の50mg/kg以上含有で温泉に該当するが、100mg/kg以上含まれていれば美肌効果ありとされているところ、「文化の湯」はなんとその基準値の約2倍もの198.0mg/kgを含んでいる。これも別府スタンダード、期待できそうだ。
 
さらに、実際その吸い込まれるような美しい黄褐色の湯に浸かってみると、つるつる感ありの肌触りの良い湯である。入浴しながらゆっくりと浴槽周りに目をやると、湯口や排水溝周りが石灰質の析出物のアートで飾られている。カルシウム・イオンを21.47ミリバル%含む炭酸水素塩泉系の湯を、目でも確認できるというわけだ。ちなみに、別府温泉で一般的に見られる析出物はアラゴナイト(2)(あられ石)、イガイガした針状のあれだ。そして、その石灰質の析出物の生成に欠かせない炭酸成分は、なんと、別府南部山の手の地下に広がる蒸気層からくる地下蒸気ということだ(3)。蒸気由来の炭酸成分とは、さすがは地獄めぐり観光で知られ、日本で初めて地熱発電に成功した、地熱地帯を誇る別府市の温泉である。温泉大国日本といえども、そのどこででも湧くタイプの温泉ではない。

決して目立つことのなかった「文化の湯」。だが、知れば知るほど個性あふれる上質の湯ではないか。しかも無料の広い駐車場も完備で、安心してゆっくり湯を楽しむことができるのだ。わずか200円を握りしめ、そんな貴重な黄金色に輝く湯を、贅沢な源泉かけ流しで堪能しに赴いてみてはいかがだろうか。

[参考文献]

(1) 由佐悠紀 (1971):重炭酸イオンを主成分とする温泉水中のカルシウムとマグネシウムイオン濃度, 温泉化学, 22, 27-37.

(2) 別府温泉地球博物館・別府温泉事典「温泉沈殿物」(https://www.beppumuseum.jp/jiten/onsenchindenbutsu.html#onsenchindenbutsu) (2024.8.18閲覧)

(3) 吉川恭三・由佐悠紀 (1972):別府温泉南部域の炭酸成分, 大分県温泉調査研究会報, 22, 55-65.

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