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「ドラえもんを本気でつくる」(大澤正彦著)他者に共感し、他者に共感されるAI


 久しぶりの投稿。素敵な本でした。
 AIの本は、めちゃくちゃ苦手な理系な感じがして食わず嫌いでしたが、読みやすくて面白かったです。
 コンピューターとかテクノロジーの話のはずですが、なんだか脳内に「ひまわりの約束」が流れてきそうなくらい優しい世界でした(笑)


著者の大澤正彦さん(日本大学助教)

 めっちゃ優しそうです(笑)


 中身ですが、AIの情報処理能力や計算能力を高めさえすればいいというわけでないというところが、とても興味深いです。
 AIじゃなくたって、人間にも求められるであろう、他者を理解し、他者と共感するとは何なのかという本質みたいなところに、AI開発を通して近づいていってる感じが、すこぶる面白いですね。

 AIというと感情の真逆の世界にありそうですが、AIと共感し、共感させられる関係がつくられるメカニズムを知ろうとすることで、人間と人間の共感を生むヒントまでも得られそうです。

 そして、意外にテクノロジーのことだけじゃないいろんなことが書いてあります。
 以下、本書の面白ポイントだと勝手に思った点を列挙します。

問いの立て方と課題設定のやり方

 ドラえもんをつくるには?というところで、まずドラえもんの定義から入ります。この辺りは、学者さんという感じです。
機能的要件のアプローチと社会的承認のアプローチから、何ができたらドラえもんになりうるのか、次にどうしたらいいのかみたいなのを考えます(そして、その結論は少し意外かも)。
 「ドラえもんを作る」に対して、何が課題なのかを抽出するプロセスは、AI開発に限らず、課題解決のプロセスの具体例として参考になるのではないかと思います。


精度を高めりゃいいってもんじゃない

 ドラえもんを作る過程で、ディープラーニングというのが出てきますが、実は、ドラえもんを作るためにはディープラーニングはベストではないのではないか?から始まるくだり。
 ここが一番面白かった。

 ディープラーニングの精度を高めるには、数千万、何億件のデータを学習していくことが求められるが、それはなるべく人と関わらないほうが性能は上がるということ。
 つまり、ディープラーニングを極めようとすると、人との関わりは減ってしまうのでは?
 でも、人との共感が減ってしまったら、もはやドラえもんじゃない。

 つまり、人と共感できるテクノロジーのポイントは、精度を高めることとは限らないというのが、面白ポイントでした。 

 このディープラーニングに対して、人と関わることを得意とするテクノロジーというが著者の研究している「HAI」とのことです。
 「HAI」は何を志向しているかというと「他者モデル」を志向し、「意図スタンス」を取っているところに特徴があるようです(詳細は、本書を参照)。

 著者は、感情のメカニズムについて、「自分の感情や心を認識する能力は、他人の感情や心を読み取る力を自分に向けて応用している」という理論を紹介しています。
 つまり、ヒトは、まず相手の感情や心を予測する機能が先に習得されて、そのあとに自分の感情を認識する機能が発展したということです。
 これもまた意外ですが、もし、相手の動きを予測する機能が発展することで感情が生まれたのであれば、他者と関わるからこそより豊かな感情が生まれるということになります。

 そうすると、データの精度を上げるのではなく、ヒトと関わって他者の心を予測するというのが大事になりそうです。

 でも、他者の心なんて読めるのか?いや読めない笑、というかちゃんと読めなくていいのです。

 ここで出てくるのが「ミニドラ」。ミニドラは、非言語(「ドラ」とか「ドララ」とか)しか使いませんが、なぜが女の子と楽しそうにコミュニケーションができます笑。

 そう、コミュニケーションでは曖昧さが出てしまうことが避けられません。むしろ完璧ではない曖昧さを許容することがとても重要ということになります。どっかで読んだような。

 これは、まさに「読んでいない本について堂々と語る方法」(ピエールバイヤール)の【ヴァーチャル図書館】(ハムレットを知らないとキレた教授)につながる話になりそうです。

 まさか、こんな形でAIが人文学の思考の庭がつながるとは、、というのが意外な面白ポイントでした。   

ビジネス的な視点

 メインではないですが、ビジネス的な話もちょいちょいでてます。
 とくに、汎用性のくだりと、HAIの強みはちょっと差別化戦略っぽいところがあって、興味深い視点だと思いました(ちゃんと書こうとすると長くなりそうなのでやめた)。

夢にまっすぐなことの尊さ

 冒頭のところで、著者は、幼いとき、ドラえもんを作りたいという夢を語り、バカにされて傷ついたという話があります。
 それでも、あきらめず夢に向かっています。

 覚えているのは、子供のときに「ドラえもんをつくりたい」と言って、大人から笑われたことです。かなり傷つきました。それが悔しくて、夢を口にすることも、ドラえもんを見ることすらもだんだんと嫌になっていき、避けるようになっていったのです。
 当時は、笑われても見返すだけの術をもっておらず、言い返せないから、ふてくされるしかなくて、いじけていました。その結果、ドラえもんが好きだった事実すら忘れてしまっていたのです。
 でもいまは、ドラえもんを実現しうる道を、みずから切り開く自信があります。人工知能(AI)や神経科学、認知科学を勉強して、そのための知識や技術を身につけました。信頼できる仲間もたくさんいます。

大澤 正彦. ドラえもんを本気でつくる (PHP新書) (p.17). 株式会社PHP研究所. Kindle 版.


 彼には信頼できるたくさんの仲間がいるというのが素敵ですね。


 HUNTER×HUNTERで、ジン=フリークスが「道中を楽しんでいる最中だ」といっているのを思い出しました。


 もしかしたら、著者はドラえもんを完成させたとき、「大切なものは、ほしいものより先に来た」と思うのかもしれません。

 シンプルにグッときます。

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