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ふつうの相談(東畑開人著、金剛出版)ケアするすべての人たちへ

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誰もがわかりそうな気がする学問分野だけど、それゆえにこそ難しい学問分野というものがあると思う。

例えば、教育学。
教育のというのは、ほぼすべての人が、学校という形で通った道である。言い換えれば、ほぼすべての人が何らかのかたちで、教育の経験がある。「私は、こういう学び方をして今の自分がある。だから教育はこうあるべき。学校はこうすべき」「オレは、学校なんて嫌いだった、本当に学んだのは仲間との絆だ。勉強なんて間違っている。勉強なんてしなくたっていいんだ」「教育とは、強制するものではありません。放任すればそれでいいのです。神の見えざる手が導いてくれます」
などなど、いろんな人がいろんな一家言を持っている。

これは、数学とか物理学とかの最新の理系の学問だと専門家以外のほぼすべての人が(たぶん)訳が分からないのとだいぶ意味合いが違う。もうそういうのは、意味わからないから、専門家がそういうんだったらそうなんだろうってなる。
一方で、教育学は、まるで意味わからないって感じではないので、専門家が言っても「オレはそうは思わない」って一家言を貫く素人が出てくることがありうる。

本書は、臨床心理学に関する本である。

臨床心理学も専門家が、精神分析だ、ユング心理学だとかって理論を言ったって、「オレはそうは思わない」という一家言を貫く人が現れそうな分野である。

あるいは、専門家同士の対比もある。
ざっくりいうと体系的な理論を追求するタイプと現場での解決を追求するタイプがいる。クールな理論家と熱血現場派の対立といったところか。「すべては〇〇理論で説明できるのだよ△△くん」「理論がすべてじゃない。そこには人間の血が通っているんだ!」こんな感じ(?)

本書で論じる対象は、「ふつうの相談

ふつうの相談を通して、この専門家と素人、あるいは理論専門家と現場専門家のブレンドの構造を分析しているのが本書だと思う。そういうふうに読むと面白かった。

本書では、専門家の驕りというか陥りがちなワナみたいなものをやんわりと批判というか反省しているようにも見える。

臨床家は、相談とかカウンセリングをする。
相談とかカウンセリングにもいろいろなバリエーションがあるようだ。詳しくはわからないけれど、とりあえず、いろいろなパターンがあるらしいことはわかった。そのいろいろなパターンにそれぞれの専門家がいる。

この専門家たちは、大きく二つに分類されている。

一つは、「学派的心理療法論」。体系性を重んじる一貫した心理学理論を規範として示す。さっきのクールな理論専門家である(クールかどうかはしらないが)
もう一つは、「現場的心理療法論」。折衷性を重んじる。つまり、理論だけでは、現場では実践できないから、それぞれの現場に合わせてうまく折衷する。

「ふつうの相談」は、「現場的心理療法論」に分類されることになるが、その中でどの辺りにあるのだろうというのを著者は考察する。



ここで、先ほどのブレンドが効いてくる。

本書では、「冶金スキーム」と「精錬スキーム」というのが出てくる。

冶金スキームというのは、学派的理論という「純金」を伸ばしていって、現場とブレンドさせて「合金」にするというスキームである。

そうすると「ふつうの相談」はどうなるか。理論という純金を伸ばしていった先の「合金」の一番端っこ、周縁部ということになる


ふつうの相談より


この冶金スキームからの離脱を著者は提唱する。

考えてみれば、臨床現場で圧倒的な数・量で行われているのは、〇〇療法ではなく「ふつうの相談」である。心理療法ワールドは「純金」かもしれないが狭いのだ。むしろ、大陸のほとんどは「ふつうの相談」である。

ここの部分を読んで、思わずハンターハンターの暗黒大陸編のところを思いだしてしまった。

オレ達が知ってる「この世界」はとてつもなく大きな世界のほんの一部だってことにな。

『HUNTER X HUNTER32 (ジャンプコミックス) 』冨樫 義博 (著)より


漫画HUNTER×HUNTERより


つまり、「ふつうの相談」の暗黒大陸編である。
「ふつうの相談」は「純金」ではないかもしれないが、「原石」なのだ。

とてつもなく大きな世界のあまりにもたくさんある「原石」を、精錬し、理論は構築されていく。

これを著者は、冶金スキームに対する精錬スキームと名付けている。

そして、「ふつうの相談」暗黒大陸編。

著者は、「ふつうの相談」を「ふつうの相談0」「ふつうの相談B」「ふつうの相談C」「ふつうの相談A」とタイプチェンジあるいはクラスチェンジさせていく

この本は結構難しそうな本なんだけど、このそこはかとないジャンプ主人公感にはまれば、きっと面白く読めるんじゃないかと思う。

っていって、ふつうの相談の中身のことはほとんど書けなかった笑。でも、面白そうだと思ってもらえれば幸いです。

道草を楽しめ。大いにな。

『HUNTER X HUNTER32 (ジャンプコミックス) 』冨樫 義博 (著)より


ということで、中身に入る前の道草を楽しんで、「今日一日を最高の一日に



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