第3話 GEとオラクルと俺
2000年2月。日経新聞の朝刊に記事が出た途端に、僕らの会社はモテ期に突入します。メディア関係、ベンチャーキャピタル、人材紹介や派遣関係者、リクルート。それからリクルート。あとはリクルート。色んな方々からのメールや訪問が舞い込みます。
「うちと組みませんか。講演してくれませんか。会に参加してくれませんか。」このタイプの甘美な誘惑は、なりたてホヤホヤで目立ちたがり屋の若手社長(オレ)から「時間」と「謙虚」さを徐々に奪っていきました。
流石にちょっと経験すると、講演とかネットワーク会に対して、意味がないことは僕でもすぐわかります。税理士の集いとか、専門学校とかで、「ネットは革命。業界が根本から変わります!」なんて感じで、熱いトークをかましても、質問者ゼロって日もありました。心が震えましたね。違う意味で。
講演をして唯一良かったのは、その後アルバイトで参画してくれた社員(種村さん。後に三木谷さんの秘書として活躍)と出会えたことくらいでしょう。
判断が難しかったのは、協業のお誘いです。これは簡単に断るのは難しい。むげにするのも失礼だし、何かメリットありそうだし。特にB2Bの事業だったので尚更でした。
当時はネットビジネスに対する過剰な期待があり、大手企業からの、なんか一緒にやりませんか話が大量に来てました。
本来はサービス開始してちょっとで、協業もクソもないはずで、自社のサービス磨きに集中するべきなのですが、僕らは喜んで、シナジーとか、チャリンチャリンとか、ビジネスモデルがーとか、どこに着地するのかまるで読めないミーティングを、気分良く繰り返していました。
そうこうしているうちに、順調に資金は燃えていきます。僕らは早々に資金調達を進めたかったので、またNetAgeの西川社長のところにお伺いしました。西川さん(イケイケ度マックス)の朗らかなアドバイスは、
「資金が尽きるギリギリまで引きつけて、評価額を出来るだけあげて、ビッグに調達しようね!」
適当な感じにみえて、この時に限っては、西川さんには算段がありました。後日僕らは、西川さんの個人的なつながりから、GE Capital社でプレゼンをする機会を得ます。
ホテルオークラの正面にある瀟洒なオフィスで、ピカピカの靴を履いた紳士お二人(後にBain Capitalで活躍された矢原さん)が、僕らの計画を聞いてくれました。手応えを得ました。心が震えましたね。こんどは正しい意味で。
これをきっかけとして、僕らは、でっかいチケットを手にします。
時効だと思うので書きますが、GEが当時保有していた、日本リース社と、オラクル社の2社から、合計2億円の調達というディールが、ほぼまとまりました。
最終プレゼンは、日本リースの役員室。四角レイアウトの長机に、20人以上のスーツ姿のおじさんたちが集まりました。GE本体とオラクルからも偉い外国人がいらしてたので、プレゼンは英語。グッジョブだったと思います。
四月中旬の出来事です。あとは本国決済をして、投資実行のみ。矢原さんからは、「楽しみに待っててもらっていい」という一言をいただきました。
GEとオラクルと、俺。
世界的な2社とのディールに、僕の足は完全に地上から離れました。
オラクルさんからは、巨大なオラクルロゴのポスターをもらいました。嬉しくて、オフィスの窓に外からも見えるように貼ったのですが、社員の相川さん(現Gree執行役員)からは、「さすがに節操ないから、やめてください」と止められました。
プレゼンの翌日にはもう、新しいオフィスの内見をスタートしていました。「最低50人は入るところね。いや、もっといっちゃおーか!」
池尻あたりの物件が気に入ったのを覚えています。これがですね、最高に気分いいんですよ。
俺のビッグオフィス。
ベンチャー経営は、動物の本能をくすぐる誘惑(という名前の落とし穴)が絶え間なく襲ってきます。
僕はその数日後、何が起きるかなんて、知りえるわけもありませんでした。
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