【地場産業で活躍する移住者】造船業|向島ドック代表取締役社長・久野 智寛さん
■尾道の地場産業:造船業
列車で尾道駅に訪れると見えてくるのが、海上クレーンが立ち並ぶ尾道水道の景色。尾道は、本土側や各島(向島、因島、生口島)にわたって20あまりの造船所や、数々の舶用工業事業企業が活躍する「造船の町」なんです。
なかでも向島ドック株式会社は、船舶の修理・検査を専業とする珍しい造船工場。内航船を中心にさまざまな船種に対応し、一工場としては国内最多となる5本のドックで年間約300隻以上の工事を行っています。またプレジャーボートや水上オートバイの販売・整備・保管業務を行うマリーナ事業のほか、近年では内航海運業を手掛けています。
今回は、そんな造船業で活躍する移住者のエッセイをご紹介します。
私は「仕事」をしに尾道にやってきた。
だから移住者とくくられると、「私は移住者なのだろうか…?」と自問自答してしまう。やりがいのある仕事を追いかけてきたら、ワクワクする環境、人との出会い、素晴らしい風景がそこにあったのだ。だから今、ここ、尾道にいる。
そして私は、移住者である前に「経営者」だ。しかし誤解しないでほしい。私は尾道をビジネスライクな視線だけで見ているわけではない。
たとえば、縁あって当社に入った人が仕事を楽しんでくれれば、それによりさまざまなプラスの相乗効果が生まれると思っている。そして尾道の自然や街、歴史を知ることで、土地ごと愛しくなっていく。”引き寄せの法則”で、私も含めて社員皆が「尾道好き」になってくれればいいなと心から思う。
よい組織はよい人を作り、よい人はよい組織を作る。
そうして育まれる組織は、永続的に繁栄すると信じているし、そしてこれは地域コミュニティにも当てはまると考えている。私は、経営者として「社員とその家族が倖せな会社」「お客様に喜ばれるサービスを提供し、社会に貢献する会社」をつくることで、尾道に恩返しがしたいのだ。
尾道との接点と私の原点
初めて尾道に訪れたのは、私が大学4年生のときだった。今でいう“聖地巡礼”というやつだろうか、映画好きの友人から誘われたのだ。
千光寺公園展望台からの眺望、渡船が行き交う光景、海と山がある造船所の営み、古い街と鉄道が織りなす情景、人と人の距離が近い独特な街の息づかいーーこれらは特に、三河湾の海沿いに育った私にとってなんだか懐かしい、落ち着く原風景として記憶に刻まれている。
時をさかのぼること、私の幼少期。
母方の実家の居間には、尾道駅前、千光寺公園の歌碑前、浄土寺前、西山別館…「おのみち」の写真が額に入れられて飾られていた。
聞けば、父方と母方の両祖父母に向けて、私の父が尾道旅行をプレゼントしたらしい。幼いころ、祖父が唯一の4人旅のエピソードとともに「おのみち」のことを教えてくれた覚えがかすかに残っている。
それからというもの、サイクリング目的で尾道へは何度か旅行に訪れた。そのたびに「なんて良いところだろう」と感じてはいた。しかし、当時は「尾道に住みたい」とまではどうしても思わなかった。町に魅力がなかったわけじゃない。私は、そのときの仕事を楽しんでいたのだ。
仕事を通して私生活が満ちていくという経験
前職では海外出張がたびたびあり、メキシコには2回にわたりのべ5年ほど駐在した。メキシコを自ら希望したわけではない。やりがいのある仕事がそこにあったから、その生活を選んだともいえる。
住めば都とはよくいったもの。メキシコ生活が長くなるうちに、そこに住まう人々のことが好きになり、遊びを見つけ、その土地が歩んできた歴史にも興味をもった。そして気づけばメキシコのことが好きになっていた。しかし悲しいかな、あくまで私は駐在の立場だったので、日本に帰るときがやってくるのだった。
かくして帰国した私は、どこか常に”やりがい”を追い求めていたのだと思う。40歳が近くなるにつれ、自分の力を別のフィールドで試してみたいと考えることが増えた。
2016年夏、広島県のプロフェッショナル人材事業をきっかけに、なんと尾道と再会した。やりたい仕事、出会いがそこにあったのだ。向島ドックでの仕事と生活が始まった。
私にとっては「働くこと」が人生におけるキーポイントだ。原点と縁が絶妙なタイミングで交差したと思っている。
「やりたい仕事をする」という軸から、暮らす場所を選ぶ
これは持論だが、仕事は人生そのものだ。
そしてその一部に楽しみがある。
すべての事柄にパワーの源があって、それを楽しめるかどうかは自分次第。人も組織も高めあっていく。これが、会社組織や地域のあるべき姿ではないだろうか。
私にとって、「やりたい仕事」「すばらしい仲間との出会い」が尾道にあった。最高に幸せだったと思う。さぁ、これからだ!
●移住定住コンシェルジュ・取材:後藤峻(@concierge_goto)
●編集:アンドウ(@holiday_cloudy)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?