[日本ハムファイターズ観戦記] [番外編] 岩隈久志投手引退によせて。

 岩隈久志投手が引退を発表しました。長い間お疲れ様でした。

 岩隈はエースと呼ぶに相応しい投手でした。とりわけハムファンである私にとって鮮烈だったのはこの試合。2009年のクライマックスシリーズ第2ステージ、ハムが3勝1敗で王手をかけて迎えた第4戦です。楽天の監督は、この年限りでの退任が決まっていた野村克也。楽天が負ければ、それはすなわち野村監督の最後の試合となるわけです。その場面は2分50秒から。




 ハムが6-4とリードして8回裏のハムの攻撃、二死二三塁、打者スレッジ。追加点が入れば試合が、ということはこのシリーズの勝敗がほぼ決するこの場面で、6番手として岩隈が登板します。解説の光山英和(現楽天コーチ)が、岩隈リリーフのアナウンスを聞いて「ええっ」と素で驚いているほどのセオリーを無視した継投策。この場面、抑えの福盛も残っていたし、同点ならともかく、2点ビハインドでの登板はふつうない。「単純にこの場面を抑えればいい、というリレーじゃないですね」と光山が言ってますが、この絶体絶命のピンチを、絶対的に信頼を置いているエースの投入で切り抜け、9回表の最後の攻撃に繋げようという老将・野村監督の最後まで衰えぬ勝利への執念に震えたことをはっきりと覚えています。

 そして2球目をスレッジがライトスタンドへ特大のホームランを放り込み、試合にダメを押します。打たれた瞬間の野村監督の「やられたわい」という苦笑い、そして岩隈の笑顔が印象的でした。やれることは全部やって、持てる力はすべて出しきった。それでも敗れた。満足だし悔いはない。打ったスレッジも凄いが、この場面でマウンドにあがった岩隈も凄いし、立派だと思いました。チームのすべてを背負って、どんな困難な場面でも逃げずに立ち向かう。これこそがエースというもの。

 なぜ福盛じゃなく岩隈かと言えば、このシリーズの第一戦に福盛がスレッジに逆転満塁サヨナラホームランを打たれたからでしょう。

 いつも冷静なNHKアナウンサーの声が興奮で裏返るほどの、解説の伊東勤(現中日コーチ)が「いやあ鳥肌モンですねえ。いやあびっくりしましたねえ。凄いの一言ですねえ。凄いホームランですねえ」とうわごとのように繰り返すほどの、劇的な逆転満塁サヨナラホームラン。九分九厘勝っていた試合を土壇場で落としたことで、シリーズの流れは一気にハムに傾いた。この時福盛がスレッジを抑えていれば、このシリーズの趨勢はどうなるかまったくわからなかったわけですが、その結果に野村監督はハムと楽天の力差をはっきり思い知らされたはず。そして第4戦の、運命の場面を迎えたわけです。

 岩隈は志願の登板じゃなく、確か投手コーチを通じての監督の打診をOKしたという経緯だったと記憶しています。この場面でブルペンには田中将大も残っていたが、ノムさんは自身の監督人生の最後となるであろう試合の最後の勝負を託すエースとして岩隈を指名した。いずれにしろ名勝負……というよりは野村監督の生涯最後の試合であり、その執念に応えた岩隈の心意気が印象に残りました。

 この試合が終わったあと、楽天ハムの選手コーチが全員でノムさんを胴上げしたんですよね。まさにノーサイド。勝利監督である梨田さんはすっかり影が薄いけど、まあそれは仕方ないw


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