[野球] 小笠原道大が日本ハム復帰

 クライマックス・シリーズの真っ最中ですが、ハムファンにとってはそれ以上に重要かもしれないニュースが飛び込んできました。元日本ハムで、中日の二軍監督を退任したばかりの小笠原道大の、13年ぶりの古巣への復帰です。一軍ヘッドコーチ兼打撃コーチへの就任が決定しています。

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 とにかく今年のファイターズは、8月以降ロクなことがなく、ファンも意気消沈気味だったので、これは久々に良いニュースと言っていいでしょう。私も本当に嬉しいです。

 13年前の2006年、チームの44年ぶり(日本ハムになってからは初)の日本一を達成した年のオフにFAで巨人に移籍した小笠原は、日本ハム・ファイターズの長い歴史の中でも張本勲や大杉勝男と並ぶ掛け値なしの強打者であり、チームの功労者であり、最大のスターだったと言えます。特に北海道移転前から直後のハムの低迷期、カラダがちぎれるんじゃないかと思うほどの渾身のフルスイングで、弾丸ライナーのガッツ弾をライトスタンドに次々と叩き込む小笠原の打撃は、チーム成績に楽しみが持てないファンにとっては唯一の希望であり、チームの象徴だったと言えます。2003年オフに北海道移転が決定し、新庄が入団してチームを華やかに盛り上げ、2004年オフにはダルビッシュが入団して大エースへと成長していくわけですが、それでもハムの顔は小笠原でした。私自身、ファイターズを応援するきっかけとなった選手だけに、思い入れは深かった。

 それだけに、2006年の日本一達成の翌日に大きく報じられた「小笠原FA宣言へ」のニュースを知った時の衝撃と絶望は本当に大きかった。そこからFA宣言し巨人に移籍が決まるまでの間の、確か1ヶ月間ぐらいだったと思いますが、重苦しく沈んだ気持ちは、今でも生々しく覚えています。その後主力選手のFA流出やトレードが当たり前となって、選手が主力に成長し年俸が上がると半ば追い出されるように出ていってしまうというハムのチーム事情に慣れてしまいましたが、あの時の落胆は大きかった。確かFA移籍の理由としては、家族が住む関東(千葉県)に戻りたかったということだったと思いますが、本当のところはわかりません。しかし東京のチームだと思って入団したら、チーム事情でいきなり北海道に移転してしまったわけですから、単身赴任はもういやだ、地元に戻りたい、家族と暮らしたいという事情は理解できます。しかし理解できるから心情的に納得できるかと言えば話は別で、当時のファンにとって小笠原の移籍は本当に悲しかったし、なかには裏切られたと思った人もいたでしょう。小笠原もそれはよくわかっていたと思いますが、それでも覚悟を決めて出ていった。もう小笠原がハムに戻ってくることはないし、もちろん彼を応援することもない。そう思ってました。最愛の恋人に去られてウジウジしている情けな男みたいですね(笑)。しかし、彼は戻ってきたのです。彼がいた時とはデザインが違うけど、しかし同じファイターズのユニフォームを着るために。

 小笠原の中日退団が最初に報じられたのが、確か9月25日、ハム復帰が決まったのが10月9日。小笠原の復帰プランはいつごろから浮上したんでしょうか。中日退団が決まってから(あるいは、退団するらしいという内部情報を聞いて)オファーしたのか、それともハム復帰の話があったから中日を退団したのか。小笠原の中日退団は、中日球団内部の「落合一派追放」の派閥抗争に巻き込まれたという見方もあるようで、そうであれば、おそらく前者でしょう。ここで大きく関係してくるのは、栗山監督の留任です。

 ここでも早い段階から予言していた通り、栗山監督の留任は最初から既定事項だったと言えます。ただ8月以降のチームの失速があまりに急激で、さらにシーズン当初からの栗山監督の用兵や采配が問題点だらけで、しかも育成等も全く進んでおらず、来季への希望も持てない現状でファンの反発が怖く、あっさり栗山続投を発表するわけにはいかなかった。それで進退伺い→慰留→留任決定という小芝居を打った。「責任は痛感しているが、ケジメの取り方はオレが決めることじゃない、球団に任せる」という栗山の言い方は卑怯だと思いますし、「勝つことが責任をとるということ」という球団の言い分も、そこらの無責任な企業トップや政治家みたいで噴飯モノですが、いずれにしろ栗山を続投させるために、こうしたまわりくどい手続きが必要だったわけです。

 新球場開場を4年後に控え、成績が低迷し、育成も進まず、しかも12球団で唯一観客動員を大幅に減らしている今、ハム球団のあり方が根本的に問われている。既定路線通り栗山監督を留任させたものの、問題が解決する見込みもない。ここで、小笠原というかつてのチームの大黒柱を呼び戻すプランが生まれたのではないでしょうか。もちろん不満を溜めているファンのガス抜きという意味も大きいし、極端な貧打、長打力不足にあえいだチーム事情から打撃部門の強化が求められていた事情もあります。そこに小笠原ならピタリとハマる。案の定、私を含む大多数のファンは小笠原復帰に狂喜乱舞、栗山監督続投への不満などすっかり忘れてしまいました。球団フロントの思惑通りですね(笑)。

 小笠原はヘッドコーチ兼打撃コーチ。ハムでヘッドコーチが復活するのは2015年に退団した阿井コーチ以来で、いわば小笠原のために用意した肩書きです。実質的に栗山監督に続く現場のNO.2ということなるでしょう。かつてのチームのVIP選手を三顧の礼で現場のNO.2として呼び戻す。次期監督、ポスト栗山の一番手は小笠原と球団が天下に公表した、ともとれます。新球場開場は2023年。その年は優勝、最低でもCSに進出するだけの成績が求められる。もちろんそこまで栗山監督が続く可能性もゼロではないにしろ、常識的には2021年か2022年シーズンには新監督にバトンタッチしてチームを掌握してもらい、2023年シーズンは最初から勝負を賭けて突っ走ってもらう(逆に言えばその前、たとえば今オフに栗山監督に辞めてもらっては困るわけです)。その新監督を誰にするか、最有力候補のひとりに小笠原道大が浮上した。そう見てもいいでしょう。栗山監督は、自分の任期中にチームを立て直し、戦力を整え、優勝を狙える態勢にして後継者にバトンタッチする、という役割を求められている。少なくとも球団フロントとはそういう話をしているはずだし、彼もそう自覚しているはず。小笠原に帝王学を学ばせてやってくれ、ぐらいは言われているかもしれません。ちょうどヤクルト時代の野村監督が、球団から頼まれ若松勉を後継者として育てたように。

 しかしここで問題になるのが稲葉篤紀SCO(スポーツ・コミュニティ・オフィサー)の存在です。稲葉はハム生え抜きではないにしろ、北海道移転後、小笠原移籍後のハムを支え、ハムで引退した、いわば最大の功労者。北海道のファンからの人気も好感度も、今もって一番高いはず。今は日本代表監督をやっていて、2020年東京オリンピックで指揮をとる予定です。稲葉が新球場開場時の監督に就任することは既定路線であり、早ければ東京オリンピック終了後の2020年オフに、遅くとも2021年オフにはハムの監督に就任すると、私を含めたほとんどの人はそう思っていたはずです。ところがそこに小笠原が実質現場NO.2に抜擢され、ポスト栗山の最有力候補のひとりに躍り出た。球団内部で何が起こっているのか。ハムはいい意味で若い球団で、球団OBの力も弱く、今まで派閥抗争的なものとは無縁でした。球団内部で小笠原擁立派と稲葉擁立派が対立して……なんて話は噂でも聞いたことがありませんし、考えにくい。となると、中日で4年間二軍監督として指導者経験を積んではいるもののハムの選手やパリーグの現状についてはほとんど知らないはずの小笠原と、代表監督ではあるものの指導者としてはまだ未知数の稲葉を両天秤にかけて、ポスト栗山を決めようと球団フロントは考えている、と思われます。そもそも稲葉は我々が考えていたほど盤石の監督候補ではなかったのかもしれないし、状況や球団との関係性の変化もあったかもしれない。あるいは彼の優しい性格から必ずしも監督候補としては最適ではなく、むしろ広報的な立場でメディア等に露出してもらった方がいい、という判断があったのかもしれません。そこはわかりませんが、とにかくここから2年ほどの間に小笠原、稲葉、そしてもしかしたら監督適正という意味では一番かもしれない、文字通りハム一筋の金子誠も含めた複数の次期監督候補が、フルイにかけられるのではないでしょうか。もちろんそれを決めるのは球団フロント、最終的には親会社のトップということになりますが、ファンの後押し、世論も無視できないでしょう。またこれから栗山ハムが3年連続優勝なんてことがあれば、2023年も栗山監督で、なんて可能性もあるかもしれません(笑)。

 将来の話はともかく、小笠原がコーチとしてどれだけの力量があるのかは現状では不明です。監督との相性もあるし、球団との関係もある。二軍監督としては、どちらかというと我慢強く選手を見守るほうで、ぐいぐいと引っ張っていくタイプではない、なんて話も聞きますが、はたして勝つことが求められる一軍の指導者(ヘッドコーチ)としてどうなのか。彼の現役時代に一緒にプレーした経験があるのはハムでは鶴岡と、巨人時代の同僚である大田と村田だけ。まずは選手に溶け込み信頼され、チーム内と、それからパリーグ他球団の様子を知ることも必要でしょう。ですが小笠原に期待するのは、選手と和気藹々と友達感覚で接するような、どこかの監督のように選手を下の名前で呼んで親しみをアピールするような、そんなことじゃない。現役時代と同じように、眼光鋭く、その寡黙な存在感でチームを引っ張っていくような、往年の姿です。まあこの入団会見の映像を見ると、ずいぶん表情も口調も柔和になって、昔のような人を寄せ付けない孤高の雰囲気は薄れてますけどね。それは現役を退いたからなのか、それとも彼自身が人生経験を積み丸くなったからなのか、わかりませんけども。

ガッツが北の大地に帰ってきた!~小笠原コーチからのメッセージ~

 上の記事にあるように、同じ左の強打者候補である清宮の育成が大きなミッションであることは間違いないですが、清宮だけでなく、中田を筆頭とした既存の中堅選手たちへの好影響も期待したいところ。なんといっても現役時代の実績で選手を黙らせられる、という意味では現状の金子コーチも城石コーチも小笠原の足元にも及ばない。札幌ドームを本拠地としてプレーした選手で、30本以上のHRを複数回記録したのは、セギノールやレアードなど外人を除けば小笠原だけですが、そういう意味で伸び悩みの典型みたいな中田あたりにいい刺激となってくれるといい。とりわけ同じ左の強打者という意味では近藤や王に対する指導も期待したいですね。身長178センチと、プロ野球選手としては決して体格に恵まれていたわけではなかった小笠原は、高校通算本塁打は0本。素質もありますが、恵まれた天分というよりも血反吐を吐くような猛練習で、プロ通算378本もの本塁打を打つまでになった努力の人という印象があります。打率はそこそこだが長打が打てない近藤もやはり体格的には恵まれていませんが、まだまだ成長の余地はあるはず。彼が一皮剥け真の強打者になるために小笠原の指導は大きいはずです。そしてひそかに期待しているのは王柏融への指導です。台湾で三冠王や打率4割など実績を残した強打者も、一年目はケガの影響もあり期待を大きく裏切りました。本人も来年に期するものがあると思いますが、たぶん打者としてタイプが似ている(本質はバットコントロールに長けた中距離打者だがHRも量産する)ので、きっと小笠原は力になれるはず。王が小笠原のことをどれだけ知っているか不明ですが……。とにかくチマチマ当てにいくスケールの小さいバッティングではなく、強く振って強い打球を飛ばす、そんな打撃の原点をチーム全体に行き渡らせてほしい。ハムは全体練習が短い、とはよく指摘されますが、本人の言葉通り、猛練習で選手たちの基礎をしっかりと作り上げてほしい。

 小笠原コーチの始動は、今月末から始まる秋季キャンプになるようです。最初は静かに選手を見守り、見極めることになるかと思いますが、本当に楽しみです。なおちょっと前には武田勝もコーチとしてハムに復帰するなんて報もありましたが、秋季キャンプの直前にはそのあたりのコーチ人事もまとめて発表されるはず。震えて待ちましょう。

“北の侍”の召喚 ガッツ小笠原道大がいるだけでファイターズはファイターズになる(えのきどいちろう)

 あんな雄弁な背中はなかった。僕はこの男に賭けようと思った。彼の背中だけが僕の気持ちをわかってくれていた。絶対にファイターズは優勝する。あの背中から物語が始まる。
 僕が小笠原コーチに求めるのはああいう背中を持った選手だ。ああいう背中をつくってほしい。カッコつけた選手なんかいらない。本気で悔しがり、本気でチームの勝利を求める「次の小笠原道大」をつくってほしい。それが栗山監督が会見の席上言った「いちばん必要なもの」に違いないのだ。

 


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